写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。
時代の流れ
写真の技術指南書や入門書は数多くあります。技術や表現にも時代の流れがありますから、それに合わせて内容もアップデートされているようです。写真指南の歴史研究も兼ねて、大正時代などに出版されたものから最新のものまでできるだけ多くの本に目を通していますが、それでも書店に行くたびに新しい書籍に出会う気がします。
ジャンルや表現の立ち位置、目指すレベルによって内容も非常に多様ですが、それぞれ写真の専門家が書いているだけあって、著者の写真に対する姿勢や考え方が見えてきて面白いものです。本日は、中でも印象に残った写真の教本について幾つか取り上げます。
『シンプルな画づくりの基本 写真で学ぶ美しさをとらえる50のテクニック』アントニー・ザカライアス 著(ビー・エヌ・エヌ/2025年)
1冊目は、『シンプルな画づくりの基本 写真で学ぶ美しさをとらえる50のテクニック』です。本書は広告写真を本業としつつ、建築をモチーフとした様々な作品で多くの受賞歴もあるアントニー・ザカライアスによる1冊です。
英語タイトルにも反映されているように、全体を貫いているひとつの軸は「ミニマリズム」としての画づくりの考え方です。余計なものを限りなく排除し、シンプルで力強い構成を行うことで、最大限に抽象化した力強いメッセージを伝えようとする手法です。
構図や色使い、コントラストの使い方といった基本に加え、映り込みや長時間露光による効果に関する解説など、非常にわかりやすく写真の構成の仕方が伝わってきます。特に広告写真や、一瞬のインパクトが重要になるインスタグラムなどのSNSに掲載するための写真撮影など、洗練された映像表現を会得したい方には絶好の教科書になるでしょう。
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『逆転の発想の写真の入門の本 写真を使わずにイラストで図解したら、むしろ分かりやすくなりました。』永山昌克 著(エムディエヌコーポレーション/2014年)
2冊目は、『逆転の発想の写真の入門の本 写真を使わずにイラストで図解したら、むしろ分かりやすくなりました』です。写真の教則本ですが、よくある作例写真を使った説明ではなく、全てイラストで図解されています。
開いたときに、「あ、その方法があったか」と私自身非常に納得させられました。実際、教える側というのは「こういうシチュエーションだったらこう考える」「この被写体にはこんな光が合う」など頭の中でそれぞれの状況を想像しながら口頭で説明できるものの、作例として撮ろうとすると機材や季節、光、被写体の状態など最適な条件を用意するのが困難です。
結果的に解説と作例に齟齬が出たりもすることがあって歯痒いのですが、イラストで説明するとそれが解決できて、実際に読む方もわかりやすいというのは良い発明だと思いました。明るく馴染みやすい空気感の本にもなっており、もう1歩先に進みたい写真入門者におすすめです。
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『写真のこたえ』小林紀晴 著(インプレス/2025年)
3冊目は、『写真のこたえ』です。写真家であり、私も在籍する東京工芸大学芸術学部教授として写真教育にも携わる小林紀晴による、Q&A方式の写真論です。
「なぜ写真を撮るのですか」から始まり、「写真にセンスは必要ですか」「テーマって何ですか」「写真の見方が分かりません」など、技術的な質問だけでなく哲学的な問いも含めて著者が「こたえ」ていきます。
先にご紹介した2冊と違って具体的な写真技術を解説するものではなく、心持ちの問題を扱っています。著者の「他問自答」を通して写真について考え、「こたえ」を探す思考プロセスを追体験すると、自分自身の「こたえ」も見つかるかもしれません。
