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高橋文哉と天海祐希を声優に迎えてアニメーション映画化
映画『クスノキの番人』伊藤智彦監督インタビュー

東野圭吾の人気小説を伊藤智彦監督が
高橋文哉と天海祐希を声優に迎えてアニメーション映画化
映画『クスノキの番人』伊藤智彦監督インタビュー

累計発行部数100万部を突破した東野圭吾の同名小説を、伊藤智彦監督がアニメーション映画化した『クスノキの番人』が、1月30日(金)より、TOHOシネマズ梅田ほか全国にて公開される。

苦しい生活に追い詰められた末に罪を犯してしまった青年が、釈放と引き換えに依頼人の指示を受け、とある神社に佇むクスノキの番人として働くことになり、そこを訪れる人々と出会い変化していく姿を描く。主人公の直井玲斗を高橋文哉が、玲斗の運命に深く関わる伯母・柳澤千舟を天海祐希が演じるほか、齋藤飛鳥、宮世琉弥、大沢たかおが共演。

そんな本作の公開に合わせ、『ソードアート・オンライン』や『HELLO WORLD』で知られる伊藤智彦監督が作品について語った。

──映画を拝見してから原作を読みましたが、大事な要素が全部入っていたように感じました。監督は原作を読まれた時に、どのような印象を受けられましたか。

東野圭吾先生はミステリー作家のイメージが強いですが、クスノキの謎はあるものの、そんなにミステリー色が強くない作品だと感じたので、ヒューマンドラマをメインにしようと考えました。

──原作を読んでいて心が惹かれた部分はどこでしたか。

クスノキのシステムの有難みですね。この企画を考えていたのはコロナ禍だったので、時勢的に、こういうものがあったら喜ばれる方がたくさんいるだろうなと思いました。その一方で、これは時代的なものではなく、どの時代にどの瞬間を切り取ったとしても、有難みを感じる方はいらっしゃるだろうなと。こういうものがあればと思われる方に届くといいなという気持ちで、心を寄せて作りました。

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──だからこそ、クスノキの描写にはすごくこだわられたと思います。荘厳で神秘的で、幻想的でした。どこまでの大きさにするのか、どういう世界観にするのかは、どのように考えられたのでしょうか。

原作小説に都心から離れているということは書かれていたので、東野先生に「神社やクスノキにモデルはあるんですか」と尋ねてみました。すると、「この辺りを想定しています」という返事は返ってきたんですが、もちろん、そこには描写が一致するような神社もクスノキもないんです。

──モデルはなかったんですね。

だから、これは自由に考えていいんだと解釈しました。実写で作ろうと思うと、かなり鬱蒼とした中に木を作るしかないと思うんですが、アニメーションなので、だだっ広いところに作ってやろうと。この大きさのクスノキは、どこにもないでしょうから。昔の日立の、「この木何の木~」というCMがありましたが、あれくらいのわかりやすさがあった方がいいんじゃないかと思いました。その上で、美術監督の滝口(比呂志)さんがものすごく神秘的な木を描いてくださったので、ありがたく受け取りました。

──東野先生もおっしゃってましたが、この作品の実写化は難しいと思います。

意外と難しいと思います。大木と言われるものはありますが、こういう儀式めいたことができる木はそんなにないと思うので。実写にすると木を3Dで作ることになると思うので、結局アニメーションの方がいいという話になりますよね。アニメーション向きな作品だと思います。

──では、アニメーション化するのに、難しいと感じたこと、大変だったことはあったのでしょうか。

強いて言うなら、木以外のところでしょうか。日常描写が多いので、ドラマや人物をきちんと描かないといけないのですが、アニメーターとしては爆発のシーンや、アクションがたくさんある方がむしろ描きやすいんです。

──そうなんですね。

アニメーターには、そういう描写が好きな人が集まりやすいので、日常描写を描きたがる人はあまりいないんです。なにせ誤魔化しがきかない。10秒の芝居をきちんと描くことには、アクションのように素早く動かせないので地道にコツコツ描いていくしかないんです。俺はアニメーターではないので、大変さを全て分かるわけではありませんが、そういう傾向は強いと思います。

──確かに、年配の方が多い施設の中の描写をアニメーションで見ることは、あまりないと思います。そういう描写の方がやりにくいということでしょうか。

好き好んで年配の方を描く人は少ないと思います。若い女の子や、かっこいい男の子を描きたがる人が多いですから。嬉々として描いていたかどうかはわからないですが、総作監の板垣さんをはじめ、メインアニメーターの塚田さん、鈴木さんたちが頑張って年配の方を描いてくれたので、ありがたいなと思っています。

──ヒューマンドラマがメインになったことで、役者さんへの演出について、今までと違った部分はあったのでしょうか。

俺は、生っぽい芝居をいつも求めているので、高橋さんや天海さんにはあまり作りすぎないようにしてほしいと伝えていました。なるべく、いつもやってるような演技のように演じてもらいたかったので。

──それは、実写と変わらないような演技ということでしょうか。

そうですね。アニメーションの声優は、基本的に動いてる絵に合わせる仕事ですから、自分が身体を動かさなくてもいいんですが、俺の場合は、身体を動かしながら録ってもらったケースが多かったですね。

──玲斗を演じる高橋文哉さんは、『HELLO WORLD』の時の北村匠海さんと重なるように感じました。

系譜がね(笑)。このふたりは、完全に「あんぱん」ですが。

──確かに!実は「あんぱん」での北村さんと高橋さんの共演は伊藤監督繋がりだったんですね。

ありがたいことに(笑)。

──高橋文哉さんのことは「仮面ライダーゼロワン」の時から見てらっしゃったとお聞きしました。

「仮面ライダーゼロワン」は、たまたま一話から最後までずっと見てました。確か、高橋さんが演じていたのが社長なのに結構情けない役だったと思うんです。お笑い芸人のような、すべるギャグを言うし。それが可愛らしいと感じていたんです。そういう可愛らしさみたいなものが、別の要素と同居されてる方はいらっしゃいますが、その中でも一番芝居ができるのが彼じゃないかと思っていたので、今回一緒に仕事ができて良かったと思っています。

──監督が、キャスティングで一番大事にしているのは、どういうところなのでしょうか。

キャラクターに合ってるかどうかが一番ですね。自分が手掛ける作品、特に映画では、若干のヘタレ感がある主人公が多いので、フィットするのが、そういう方たちになるんだと思います。もう少しかっこいい系の声をうまく出してくれる方は何人かいたんですが、玲斗のキャラではないと感じたので、選択肢から外しました。

──玲斗がずっとかっこいいキャラクターだったら、ちょっと違いますもんね。

ちょっと違いますね。きっと、もっと人生をうまく生きていますよ(笑)。

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──そうですよね(笑)。映画を観てから原作を読みましたが、天海さんは千舟さんの声にぴったりだと思いました。原作は小説なので、髪型が細かく描写されているわけでもなく、キリッとした感じの佇まいを想像しましたが、千舟のキャラクターを作る際に、こだわられたのはどういうところだったのでしょうか。

原作が小説なので絵がないのはもちろん、ラノベみたいに挿し絵もないので、これは好き勝手に想像していいんだと捉えました。だからこそ、キャラクターデザインの原案部分を山口つばささんという漫画家さんにお願いしました。それは、山口さんが同じ等身のキャラクターを並ばせないキャラクターの作り方をよくされている印象があったからでした。また、必ずしも日本人としてリアルな存在でなくてもいいと思ったので、山口さんにも「ハリウッドスターのように考えてください」と。具体名としてティルダ・スウィントンを挙げてお話しました。

──ティルダ・スウィントンだったんですね!確かに、千舟は日本人離れした等身でしたが、それも天海さんの声にすごく合ってました。千舟さんの声は天海さんだとすぐに思いつかれたのでしょうか。

伊藤家の家族会議で、妻に「千舟さんは天海祐希さん」だと言われまして。確かにそうだと思ったので、実現させるべく動いていただいて、結果的にお引き受けいただいたので、とても有難かったです。

──声をあてる、アフレコはどのように進められたのでしょうか。

俳優さん、声優さん両方ともに言えると思うのですが、ふたりで録るシーンは隣にいてもらった方がいいと思うので、高橋さんと天海さんには、一緒に収録していただきました。芝居はリアクションが大事だと思いますし、その方が効果的だと俺は思ってます。ただ、それはスケジュール調整や音響も含めて、関係各所の努力の賜物なので、感謝しています。

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──玲斗を振り回すようなキャラクターである、佐治優美を齋藤飛鳥さんが演じてらっしゃいましたが、声を聞いても全くわかりませんでした。齋藤さんはオーディションで選ばれたとお聞きしました。オーディションの際に、監督が見るのはどういうところなのでしょうか。

初めの発声ですね。名前を言うところからです。「どこどこから来ました。●●です」という挨拶で、違うなというのは大体ジャッジしてます。

──音質みたいなものが監督の基準になっているのでしょうか。

俺の頭の中に佐治優美というキャラクターを想像して、その方の声が俺の想像する円に被ってるかを、聞きながら考えるんです。半分ぐらいかなとか、3割ぐらいかな、と。すると、芝居ができるできないとは別に、その円にかなり重なる方がいることが稀にあるんです。齋藤飛鳥さんは、ハマったなと瞬間的に感じました。その後のやり取りの中で、どれくらい対応力があるのか、芝居がどれくらいできるかを確認しました。俺の場合は、最初の印象が強い方を選ぶことが多いと思います。

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──クスノキを訪れる青年・大場壮貴を演じた宮世琉弥さんも同じような感じだったのでしょうか。壮貴さんは、原作を読んでいても、ぱっと声がイメージできませんでした。

そもそも、壮貴はこんな姿じゃなさそうな気もしますよね。だからこそ、いろんな選択肢があると思いました。宮世くんはオーディションの時に、ひょうひょうとしているように見えて緊張してるように感じたので、そういうギャップがいいと思ったんです。彼は歌も歌ってるから声もいいですし、玲斗役に高橋文哉さんを選んだ場合に、ふたりはドラマでの共演経験があるから、関係性があるのはいいなと。複合的に組み合わせて考えて、宮世さんが適任だと思ったので、お引き受けいただけてよかったです。

──佐治寿明は大沢たかおさんが演じてらっしゃいますが、実写で佐治寿明という人物を大沢さんが演じるのは難しいと思います。アニメーションだからこそ、幅の広い役を演じることができるとも言えますよね。

実写でこの作品をやると、きっと違う方になっていたと思います。愛人がいるかもしれないと娘が疑っている人物なので、色気のようなものが必要だと思ったので、大沢さんにお願いしました。

──最近は特に、アクション系のアニメーションが増えていますが、本作でヒューマンドラマと向き合ってみて、どのように感じられましたか。

派手な作品をやりたい時期も、もちろんあるんですが、俺に向いてるのはこっちの方だと思っています。かつて「僕だけがいない街」というテレビシリーズのアニメを作った時も、こっちの方が好きだなというか、得意だと思ったので。とは言っても、こういう類いの作品がそんなにあるわけでもないので、もう手掛けることはないのかなと考えていたら、今回こういう作品に巡り合ったので、いい出会いだったと思っています。

──本作は、主人公の成長する姿を通して、人と関わることの重要性がテーマになっているように感じました。監督は、本作で一番大事にしたテーマは何だったのでしょうか。

人との関わりもそうだと思いますが、エンドロールを見ながら、継承の話だと思ったんです。ある種、『国宝』と一緒かも?と思いました(笑)。

──家族の中で受け継がれていくものを描いてますもんね。

玲斗と千舟がクスノキの番人をやるやらないという、ある種の弟子関係みたいなところもそうですし、各キャラクターの家庭での継承を描いているので、いつの時代に観ても新鮮に観られる題材でもあるように感じて、流行り廃りとは関係ないんじゃない物語だと思いました。

──それは作り終えられてから気づかれたのでしょうか。

そうですね。その言葉は、観終わって妻から言われました(笑)。自分もわかっていない気づきを言語化してくれるので、頼りになります。

──本作からは、遅すぎることはないというメッセージも感じました。監督は、東野先生が本作で一番伝えたかったことは何だと思われましたか。

いくつかありますが、まずは、クスノキがあってもなくても、思いを引き継ぐことはできるということだと思います。また、冒頭で佐々木という玲斗の友人の「人生変えようぜ」と言いますが、この映画の中での玲斗にとってのプレミス(前提)、何の話なのかの問いかけになっています。つまり、玲斗が人生を決める話である、というのが映画の大きな話の流れになっていくのですが、そういうことは割と、仲が悪いと思ってる人とか意識しないところから言われるんじゃないかと。意外と、きっかけというのはどこにでもあって、誰が自分を救ってくれるかはわからない。自分がちゃんとその機会を拾い上げなきゃいけないかもしれないですが、それを見逃さないように生きようということだと思います。

取材・文/華崎陽子

(2026年1月29日更新)

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