2025年12月2日から3日間にわたって開催された、アジア最大級のマーケティング&コミュニケーションイベント「Advertising Week Asia 2025」。本稿では、Cステーションが関わったセッションのレポートをお届けします。
テレビ番組プロデューサー、クリエイティブディレクター、マーケターと、異なる出自を持つ「ラジオ好きな男たち」が集結。「ラジオの魅力とは何か?」をテーマに、ラジオならではの強み、未来に向けたマネタイズの方法などについて、ラジオ局からの目線ではなく、あえて外野からの目線で語り尽くしました。
本セッションの登壇者、右から
・角田 陽一郎/バラエティープロデューサー、文化資源学研究者
・鈴木 曜/貝印株式会社 上席執行役員 CCO/CMO 兼、渋谷 SAUNAS Executive Adviser、GREAT WORKS K.K. 取締役 CCO 兼
・田中準也(モデレーター)/株式会社サン 代表取締役会長
株式会社サン 田中準也(以下、田中) 本セッションは、ラジオ番組だと思って聞いていただけたらと思います。早速ですが、角田さん、ラジオに対してちょっと言いたいことがあるそうですね。
バラエティープロデューサー 角田 陽一郎(以下、角田) はい。僕は『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)世代で、とんねるずさんや、明石家さんまさんのラジオを聴いて育ちました。その後、僕自身もラジオ番組を持っていたこともあります。生活者の時間を奪い合うなかで、当時は「これからは、ながら聴きできるラジオの時代」と言い続けていました。しかしいまは、ネガティブです。ラジオの未来に対して、懐疑的な思いがあります。
プロデューサーとして、これまで数多くのコンテンツ、ラジオ番組に関わってきた角田さんは、「いまのラジオに対しては思うところがある」と話す
田中 鈴木 曜さんは現在、ラジオ番組のパーソナリティもされていますよね。ラジオの未来、どうお感じですか?
貝印株式会社 鈴木 曜(以下、鈴木) ラジオ自体は、面白いメディアだと思っています。ただ、広告媒体としてのラジオの価値、ラジオに広告を出す意味をどう捉えるかは難しい部分があるように思います。
田中 ラジオの可能性を考えると、ラジオCM以外にも、マネタイズの方法はありそうですよね。
角田 ラジオのCM料金は、聴取率によって決まります。これはテレビも同様です。しかし、このビジネスモデルはもう、崩壊していると僕は思うんです。もっと違う方法があるのではないかと、ラジオが好きだからこそ、言いたいですね。
鈴木 僕も2つ、ラジオ番組を持っていますが、どちらもCMは流していませんし、広告的なものもまったくやっていないです。
田中 なるほど。それは、1社提供だからできるわけですか?
鈴木 僕が番組を作っているから、ですかね。ゲストは呼ばずに、ラジオも、ブランドのプロダクトのひとつとして作っている感じです。
広告主として、ラジオ番組の制作にも関わる鈴木さんは、「ラジオ番組もブランドのプロダクトのひとつ」と語る
田中 曜さんはクリエイターだから、まずクリエイティブありきなんですね。ラジオである理由、ポッドキャストやYouTubeの違いは何か、考えたいポイントですよね。
角田 ラジオらしさがないなら、ラジオでやる意味がない。100%同意です。YouTubeだったら、日本だけでなく、世界にまで届けられるわけですから。
田中 放送と通信(インターネット配信)の違い。私が広告代理店に勤めていた時代は、その違いを「音質の差がある」といった説明をしていたんですが、最近はインフラも発達し、性能的な差異はなくなっていますよね。
角田 だからラジオの価値って、桑田佳祐さんや山下達郎さん、松任谷由実さんといったスペシャルな人たちがラジオ番組を“やっていること自体”だと思うんです。人気の芸人さんたちも、ラジオをすごく大切にしていますよね。
一方で、最近ラジオ局は「ラジオ×動画」の形を模索しています。動画屋の僕からすれば“もったいない”ですよ。だったら「テレビでいいじゃん」になってしまう。映像がないから、ラジオはいいんですよ。
トーク中のスライドは一切なし。ラジオ番組風のトークセッションとして、3人はラジオへの熱い思いを観客に届けた
田中 「ここでしか聴けない」という価値がありますよね。
角田 そこに価値があるから出演するわけですよね。その部分をもっと高めることが必要なのではないでしょうか。僕の中では、聴取率を重視した、多くの方に聴いてもらう考え方はいらないのではないかと思います。たとえばベストセラーの本を作るためには、ある程度レベルを下げて、「誰にでもウケる(わかる)」ものにする必要があります。
田中 多くの人に読まれるために、裾野を広げるべく、レベルを下げる必要があると。
角田 誰でもわかることがヒットにつながる。だから「マンガでわかる」シリーズが生まれたわけですよ。ですが、簡単に書いてある本でもマンガになっているのを見て、「業界終わった」と僕は思いましたよ。
田中 マンガは本来、難しいことをわかりやすく伝えるための手法。なのに、難しくないものまでわかりやすくして届けている現状があると。
角田 マスにウケる=売上につながるというのは、勘違いだと思います。僕は、2025年12月に発刊される雑誌「Tropic(トロピック)」(講談社)の編集長を務めています。僕はこの雑誌では、「読まない奴は、読まなくていい」と言っているんです。ラジオも雑誌も、どこまでの情報をどのレベルで伝えるかは、とても重要な要素ですが、多くの人は「下げればいい」と思っている。ですが現代はネットがありますから、気になれば調べることが可能です。調べない人は興味がない人=ターゲットではない人です。そういう割り切りをラジオはもっとやるべきだと思います。
鈴木 「ビジュアルがない」ことは、ラジオにとってすごく重要だと思っています。使える曲は多いし、機材も含めてコンテンツ制作能力は高い。なのに、他のメディア(ビジュアルのあるメディア)になろうとしている昨今の潮流は、すごくネガティブに捉えています。
僕はラジオ番組を始める際に、「動画は絶対やらない」と決めていましたし、聴取者も限定したほうがいいと思っていました。なぜならブランドは、全員に好かれる必要がないからです。各番組が“ブランド作り”という視点で進めていくと、もっとラジオは面白くなるのではないでしょうか。
田中 続いて、「ラジオの広告」について、考えてみましょうか。広告に変わるもの、ありますでしょうか?
モデレーターを務めた田中さんは現在、『J LIVE RADIO』(インターエフエム)のパーソナリティとしてもラジオ番組に関わっている
角田 「広告」は、広く告げるもの。極論、聴きたくない人にも届けている。そうではなく、聴きたい人にだけ届ける「告広(コクコウ)」がSNS時代の現代にマッチした考え方だと思います。読みたい人に読んでもらえばいい。だから僕は、いまの時代に、新たな雑誌を創刊するわけです。
田中 スマホが登場した時に、メディアは1対Nから、1対1の関係に変わると思いました。メディアとスマホの向こうのユーザー、完全に1対1。ラジオはその究極形だと思うんですよ。これをビジネスの源泉にすることはできないでしょうか?
角田 ラジオに、ビジネスチャンスは死ぬほどあると思います。1対1の関係性を活かしたコンテンツを作る。そのために、ラジオのディレクターはもっと、汗をかかなきゃいけないと思います。最近のラジオは、「有名人をアサインして、好きなようにしゃべってもらえばいい」という発想のスタッフが多すぎる。それでは個人がYouTubeで好きに話しているのと変わらない。音による演出、計算された台本によって、プロの技を見せなきゃいけない。演者任せでは駄目ですよ。できることは、もっとあるはずです。
現在のラジオの問題点について指摘する角田さん
田中 昨今は番組の作り方が、フォーマット化し過ぎているわけですか?
角田 そうですね。ラジオでビジネスするなら、まずは原点回帰。中身を面白くすることから。YouTubeより圧倒的にラジオ番組のほうが面白いことが大切です。ラジオ局には、カリスマディレクターと呼ばれる方がいて、組むと演者の方がより魅力的に見えるわけです。そういうことをもっとやるべきですよ。
田中 曜さんは、どう思われますか?
鈴木 ある種、「人を買う」(人に投資する)ことですよね。その作り手が好きだから、一緒に作りたいという人もいるでしょうし。
田中 非AIの視点ですよね。
鈴木 フォーマット化もそれで防げると思います。どの番組も、全部フォーマットがほぼ同じ。若干テーマが違うだけ。そこから抜け出した方が面白いかなと思います。
角田 すごい同意です。いま、イベントプロデューサーをやっていて思うのは、たしかにAIの進化はすごいけれど、いずれ慣れる。となると、やっぱり「人間の魅力」に回帰する。それこそ、人に投資する「人を買う」ということではないでしょうか。
今後、AIにできることに価値はなくなり、人間にしかできないことに価値が生まれる時代になると思います。人間の魅力を、演者も含め、いかにラジオで表現するか。その一点だと思いますよ。
田中 曜さんは、アドバタイザーという立場から、これからのラジオはどうなっていくべきだと思いますか?
広告主という立場から、「ラジオはブランドを体験する場」と語る鈴木さん
鈴木 ラジオ番組を2つやっていますが、感覚的には「人を買っている」だけです。だから好きなことを話してくださいと伝えています。パーソナリティの夏木マリさんが、ブランドのファンだということが、もっとも大事な要素です。彼女のことが好きな人しか聴かないラジオ。そのブランドが好きな人がブランドの体験をしに来る場所を、「ちゃんと作る」ことが大切だと思います。
角田 ちゃんと作る。それが大事ですよね。僕はコンテンツマンなので、本当にそう思いますね。
田中 最後に一言お願いします。冒頭はネガティブ派だった角田さん、いかがですか?
角田 「アイ ラブ ラジオ」です(笑)。本当に素晴らしいですよ、ラジオは。ぶっ飛んだ番組をやってほしいですし、ブームも作りたい。ぜひお手伝いしたいです。

田中 曜さんも一言お願いします。
鈴木 やっぱり、そこにいる「人」の話ですよね。エフヨコ(FMヨコハマ)だからではなく、「この番組だから出資したい」というのが大事。ですが、いまはコンテンツとして、バラエティがぜんぜんない状態です。
このままだと、ラジオに広告を打つ人がいなくなってしまうのではないかと思います。コンテンツを豊かにしていくこと、人に投資する「人を買う」という視点が生まれたのは、今日すごく印象に残りました。
田中 ここ15年ほど、私の主戦場だったデジタルマーケティングでは、最適を求め過ぎるがあまり、コンテンツはベストエフォートになっている気がします。
もう一度、全員が「最高」を目指した方がいいのではないでしょうか。本日は、原点回帰する「ちゃんと作る」や、非AI的なものに投資する「人を買う」など、さまざまなキーワードが登場しました。少しでも共感した方は、ぜひラジオを聴きましょう。聴くことが、新たな気づきにつながるはずです。
「Advertising Week Asia 2025」セッションレポート②
ラジオの時間〜あえて外野たちが語る、日本の音声メディアの未来
スピーカー:
・角田 陽一郎/バラエティープロデューサー、文化資源学研究者
・鈴木 曜/貝印株式会社 上席執行役員 CCO/CMO 兼、渋谷 SAUNAS Executive Adviser、GREAT WORKS K.K. 取締役 CCO 兼
・田中準也(モデレーター)/株式会社サン 代表取締役会長
