(CNN) 大ヒットアニメ映画「KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ」の感動的なフィナーレで、彼女の歌声は魂を喰らうモンスターたちを打ち負かした。しかし、韓国系米国人歌手EJAE(イジェ)にとって、この勝利は名声や富以上のものをもたらした。
それは自らの正しさの証明だ。
EJAEは韓国最大級の芸能事務所と契約し、K―POPスターを目指していた。11歳から10年以上、昼夜を問わない過酷な練習に耐えてきた。これはK―POP志望者にとってよくある道のりだ。事務所と契約し、ダンスと歌のトレーニングに励み、事務所に選ばれてアーティストとしてデビューできることをひたすら祈る。
しかし結局、EJAEはデビューできなかった。事務所からグループに選抜されることなく契約期間が満了したのだ。
「必死で努力した。声をよりきれいにしたり、ダンスを上達させたり、見た目を整えたりと、あらゆる努力をした。でも、印象には残らなかったのだと思う」と、EJAEは最近のCNNのインタビューで語った。当時は絶え間ない競争とプレッシャーが学業にも影響し始め、「何もかもうまくいかないように感じていた」。
「(事務所を辞めてから)長い間、本当に絶望を感じていた」とEJAE。すべてを賭けて青春を費やしたにもかかわらず、夢には届かなかった。
それでも、EJAEはまだK―POP業界でのキャリアを諦めていなかった。もう一度リスクを背負い、ソングライターに転身したのだ。
その挑戦は自身をニューヨークへと導き、最終的に「KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ」へと至った。
ネットフリックスのオリジナル作品として過去最も視聴されたこの映画は、世界を守るために歌で悪魔を狩る、韓国のガールズグループを主人公にしている。EJAEが共同で作詞・作曲し、デモのレコーディングを手掛けたサウンドトラックはチャートを席巻。特に注目すべき楽曲は、今月ゴールデングローブ賞の「最優秀オリジナル楽曲賞」を受賞した高揚感あふれる主題歌「Golden」だ。この曲はグラミー賞4部門にノミネートされた他、3月に授賞式が開かれるアカデミー賞にもノミネートされている。(EJAEは劇中で紫の髪の主人公ルミの歌声も担当した)

「KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ」は、歌で悪魔を狩る韓国のガールズグループを主人公にしている/Netflix
「元練習生のEJAEのような人がここまで大ブレイクするのは、かなり珍しい」と、バークリー音楽大学の准教授でKポップ専門家のクレア・マリー・リム氏は語る。
EJAEとほぼ同時期にK―POP練習生だったリム氏によれば、知り合いのほとんどはK―POPアイドルとしてデビューできない時点で音楽業界を去って行ったという。現在のK―POPスターの中には作詞作曲やプロデュースに携わる人もいるが10年前、とりわけ元練習生にとっては、それはかなり珍しいケースだった。
EJAEが進んだのは「極めて稀(まれ)な」道であり、そこでは実質的に全てを自らの手で切り開かなくてはならなかった。
過酷なK―POPマシン
皮肉なことに、EJAEをスターにした映画は、何年も前に本人を幻滅させた韓国のポップミュージックマシンへのオマージュとなっている。
「KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ」では、アイドルと目されるK―POPアーティストたちが、どれほどのペンライトや歓声をファンから浴びるかが描かれる。しかし現実の世界で、こうした名声には高い代償が伴う。求められる美しさの基準は厳しく、昼夜を問わないスケジュール。プライベートでの交際で世間の反発を受けることもある。
K―POPスターになるには、何年もの厳しいトレーニングが必要で、「1日に何時間も踊り、歌い、ラップする」必要があると、前出のリム氏は指摘する。

昨年11月、ニューヨークで開催されたCFDAファッションアワードに出席するEJAE/Carl Timpone/BFA.com/Shutterstock
K―POPという名の巨大な産業マシンは、アーティストの育成及びプロデュースのプログラムによって広く知られる存在だ。事務所はデビューを綿密に計画し、スケジュールやファンとの交流を細部まで調整。スターたちの私生活も多くの面でその監視下に置かれる。
練習生たちは、スキルと容姿について厳しく審査される。多くの場合、その過程は非常に幼い頃から始まる。EJAEは11歳の時に、韓国最大の芸能事務所の一つであるSMエンターテインメントに所属した。
「トレーニングシステムに組み込まれたコンテストで何度も失敗し、何度も拒絶された」とEJAEはCNNに語った。「それでは通用しない」と、いつも言われていたという。
2015年に契約が終了したとき、EJAEは20代前半で、K―POP練習生としてはすでに上の年齢に差し掛かっていた。
事務所が年長のアイドルをデビューさせるのは例外的なケースだが、「私はそれに当てはまらなかった」とEJAEは語った。
「Golden」でチャート席巻
EJAEはSMを去ったことを「別れ」と表現した。双方が納得した上での別れではあったが、それでも胸が張り裂ける思いだった。成長期を事務所と共に過ごしたものの、最終的に一人になった。
「どうやって生きていけばいいのか分からなかった」
ニューヨーク大学在学中、興味を持ったのが音楽制作だった。トレーニングの合間に音楽を学び、母と兄弟に勧められてニューヨークのDJパフォーマンスを見に行き、ライブ後には彼らに質問もしていた。
「何かを成し遂げたいなら、積極的に行動しなければいけない」。その思いに従い、EJAEは音楽制作の道を志すようになる。毎日何時間もかけ、音楽ソフトの使い方とビートの作り方を独学で身に付けた。プロデュース業界に女性があまりいなかったことも、この方面に興味を持った理由の一つだった。

「KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ」の共演者とステージで熱唱するEJAE(中央)/Kevin Mazur/Getty Images for iHeartRadio
いざ挑戦してみると、自分でも驚くほどEJAEはポップソングを書くことに夢中になった。そうしてできた楽曲はK―POP歌手のHani(ハニ)に採用され、「Hello」としてリリースされた。
EJAEはアイドルとしてデビューすることはなかったが、当時受けたトレーニングは曲作りに適した構成やメロディーを理解するのに役立った。後にEJAEを指導する立場となるアンドリュー・チェ氏は「Hello」を聴き、EJAEを自分のチームに迎えると、SMのソングライティング・キャンプにも参加させた。
「彼(チェ氏)は私の中に、自分では気づかなかった可能性を見出してくれたのだと思う」「自分自身を信じるためには、他人に何かを見出してもらわなくてはならない場合もあるす」(EJAE)
それ以来、EJAEはTWICE、Suzy、AESPAなど、数々の有名K―POPアーティストの楽曲を共同プロデュースまたは共同作詞・作曲してきた。「KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ」では、「Golden」を含む4曲に自身の名がクレジットされている。

自身が手掛けた大ヒット曲「Golden」は、ゴールデングローブ賞の「主題歌賞」を受賞した/Christopher Polk/2026GG/Penske Media/Getty Images
「Golden」は昨年、ビルボードのホット100で数週間にわたり1位を獲得し、スーパーマーケットから歯科医院まで、あらゆる場所で流れた。他の劇中曲も同様に世界中のチャートを席巻し、音楽配信大手スポティファイでは数億回ものストリーミング再生を記録した。
K―POPスターを目指してから20年、そしてその夢が打ち砕かれてから10年、EJAEの歌声と歌詞は世界中のリスナーに届いている。
「Golden」がゴールデングローブ賞を受賞した際、EJAEは練習生時代、そして自身の再出発について語った。
「この賞は、過去に道が閉ざされた人にも贈られる」。共作者やプロデューサーたちと共に賞を受け取りながら、EJAEはそう述べた。「自信を持って言えるのは、たとえ拒絶されてもそれが方向転換になるということ。だから決して諦めないで」
