入り口脇の売れ筋ビジネス書を並べた書棚に平積みで展示する(紀伊国屋書店大手町ビル店)

入り口脇の売れ筋ビジネス書を並べた書棚に平積みで展示する(紀伊国屋書店大手町ビル店)

本はリスキリングの手がかりになる。NIKKEIリスキリングでは、ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチし、本探し・本選びの材料を提供していく。

今回は、定点観測している紀伊国屋書店大手町ビル店だ。12月の店頭は今年の経済予測本などの売り上げが好調でにぎわいを見せたという。そんな中、書店員が注目するのは、人工知能(AI)の浸透で社会はどのように変わっていくのか、その未来予想図を提示したシンクタンクによる一冊だった。

2030年は「AIで『拡張』する社会」?

その本はNRI拡張社会研究会チーム『AIで拡張する社会』(東洋経済新報社)。著者は野村総合研究所(NRI)内に設けられた研究チームで、このチームのアドバイザーを務めた同社会長の此本臣吾氏が監修、チームメンバーの一人で同社未来創発センター未来社会・経済研究室長の森健氏が編著者となり、他メンバー6人を含めて分担執筆している。

AIはどのように社会を変えるのか。研究チームはこの問いをめぐって2030年代の状態はどんな姿か考察を進めた。その結果、導き出したのが「拡張」というキーワードだ。AIという技術の進化も、様々な知力の変化も、AIの浸透によって起きる社会の変化も、拡張というキーワードから捉えることで、よりくっきりとイメージできるのではないか。そんな視点が本書には貫かれている。

全体は3部構成。第1部「AI進化論」では、技術的な視点からAI進化のロードマップとAIを取り巻く議論の最新状況をまとめている。第2部「AIが拡張する知力」では、AIが拡張する6つの知力――予測力、識別力、個別化力、会話力、構造化力、創造力について、事例を交えて論じていく。第3部「AIが拡張する社会」では、AIが拡張する経済社会システムを検討していく。

思考支援ツールや業務効率化ツールとしては、AIはすでにかなり身近な存在になった。本書が見ていくのは、その先に広がる世界の変化である。知力の拡張を見ていく第2部では将来的に登場し得るAIのユースケースについても様々に想像をめぐらせている。

例えば、予測販売型コマース。予測した購入確率に基づいて先んじて購入可能性の高い商品を自宅に配送し、生活者は必要なら購入を決定するといった仕組みだ。あるいはマシン・インフルエンサー。こちらはAIが個別化力を発揮してライブコマース中に各視聴者と個別に対話したり個別最適化したコンテンツを生成したりして購買を促す仕組みだ。

一方で負の側面が増大するリスクにも言及する。超監視社会にもなり得るし、フェイクコンテンツやAI詐欺がまん延することも想像できる。様々なSF小説が描くようなディストピア(反理想郷)になる可能性も排除できない。

価値の源泉は創造

AIが拡張する社会の具体的なイメージは「創造化社会」だという。価値の源泉は創造、すなわちアイデアになる。「情報化社会が大量に生み出したデータを原材料に、AIと人間によって、大量の知識・アイデアが生成される社会」だ。そこで存在感を増す産業は人間の頭脳とAIを使ってアイデアやコンテンツを生み出す「創造業」となる。

本書が提示するAIの浸透が生み出す中長期的な変化の様相は、いま自分が関わっているビジネスの未来に想像力を働かせるヒントが詰まっていると言っていいだろう。年の初めに思考実験の材料として読んでみるとよさそうだ。

「野村総研の本社が近いこともあってまとめ買いも入ったが、正月休み前の1週間は店頭での売れゆきに勢いがあった」と店長の瓜生春子さんは話す。

野村総研の本3冊が上位に

それでは年末最終営業週のランキングを見ていこう。

(1)AIで拡張する社会NRI拡張社会研究会チーム著(東洋経済新報社)(2)「いつの間にか富裕層」の正体竹中啓貴・荒井匡史著(日本経済新聞出版)(3)日本の差別化戦略: 人口減少社会への処方箋 野村総合研究所コンサルティング事業本部著(東洋経済新報社)(4)会社四季報業界地図 2026年版東洋経済新報社編(東洋経済新報社)(5)「頭」を使える良問高松智史著(ソシム)

(紀伊国屋書店大手町ビル店、2025年12月22~28日)

今回紹介した『AIで拡張する社会』が1位だった。2位と3位にも野村総研による本が入った。2位は同社の金融コンサルティング部が金融資産1億円以上の一般会社員が増えている状況を「いつの間にか富裕層」と名づけて分析した本。3位は同社コンサルティング事業本部が「人口減少の呪縛を断ち切り、強い国、企業、個人を再設計する戦略」を提言した内容だ。

4位は定番の業界研究ムックの最新版。5位は、コンサルタントの思考術でベストセラーを連発してきた著者の新著。今回は中学受験問題を起点にビジネスにも人生にも通ずる思考技術を鍛える本になっている。

(水柿武志)

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