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JAPAN Forwardで英語版の連載『日本の生き残る道』が12月に終わった。筆者の牛島信氏は長年、企業法務に携わってきたベテラン国際派弁護士である。110本のコラムをまとめた本書(連載)は、1本1本でその経験と知見が存分に発揮され、企業人にとって欠かすことのできない羅針盤といえる。苦い薬もあるが、本連載はすべての企業人に贈られた110のメッセージなのである。

牛島氏によるこの第1級のコーポレート・ガバナンス論が英語で世界に発信されたことは、日本企業の現在地を世界の企業人たちに知ってもらう良き道しるべとなったのではないか。

小林製薬の紅麹サプリ問題を思い起こす

110本の中で牛島氏がもっとも力を注いだのが社外取締役だ。この数年で急増したが、「機能していない」「名前だけ」との批判も絶えない。牛島氏はこの現実を踏まえながら理想を捨てていない。

例えば、57ページに「社外取締役の『数』と『質』」というタイトルのコラムがある。2019年7月に書かれたもので、ゴチック体として強調された一文は「いかにして社外取締役に適切な情報を適時に提供するかこそ議論すべき」だった。

これを読んでハッとした。小林製薬の紅麹サプリメントを原因とする健康被害の騒動を思い出した。

健康被害の情報が初めて小林製薬に寄せられたのは2024年1月15日。九州の医師から「サプリを摂取した患者が急性腎不全になった」という内容だった。その後も相次いだが、発表して摂取の中止を呼び掛けたのが3月22日。社外取締役に知らせたのは、発表の2日前の3月20日だった。会社の重大事、社外取締役は蚊帳の外だった。結果的に会社も大きな判断ミスをして健康被害を拡大させた。5年前に書かれたこのコラムを読んでいれば、との思いが消えない。

フジ・メディア・ホールディングス株主総会の会場に向かう株主ら=2025年6月25日午前、東京都江東区(酒井真大撮影)

フジテレビ問題でも

31ページにある「社外取締役、数合わせ懸念」では「社外取締役がその役割・責務を適切に果たすために必要な資質を十分に備えていなければならない」という訴えがゴチックになっている。また、76㌻の「社外取締役の経営責任」では、「実質を備えた社外取締役は、コーポレートガバナンスの要である」だ。

これらのコラムを読んで、あらためて2025年にもっともコーポレート・ガバナンス関連で話題になったフジテレビのことを考えた。

フジテレビや親会社のフジ・メディア・ホールディングス(FMH)では、実力者の日枝久相談役が役員人事を決めていたと非難を浴びた。

当時のFMHの取締役会は17人中7人が独立社外取締役だった。人数的には十分だ。ただ、残念ながら全く機能していなかったことが第三者委員会の報告書で指摘された。

7人のうち3人は東宝、文化放送、産経新聞の首脳。この3社は大株主やグループの主要企業で、長年、「指定席」のように3社の会長・社長らが就いていた。あとの4人は元総務官僚、キッコーマン名誉会長、元東京証券取引所社長、ANAホールディングス特別顧問と大物を揃えたが、何もしなかった。資質や意欲があり、実質を備えた人を選んでこなかったのだろう。


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社長選びがガバナンス

コーポレート・ガバナンスは通常、「企業統治」と訳される。金融庁の定義に従えば、その意味は「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」となり、やや回りくどい。

これに対し、牛島氏は本書の「まえがき」で「社長選びがコーポレート・ガバナンスだ」と喝破している。社会的な価値を創造できるのは企業・会社であって、その会社はリーダーたる社長に大きく左右される。それだけに時代にあった社長を確実に選び出す仕組みが大事だという。

日本の上場企業は長らく、今の社長が次の社長を決めてきた。しかし、そこには今の社長の保身も働く。時代や環境の変化に対応できない可能性もある。そのため、客観的な視点を持った独立社外取締役を生かすことを提言している。

カルロス・ゴーン氏

ゴーン事件を予言?

驚いた文章にも出会った。ゴーン元会長の事件が起こる4年前に書いた84ページにある「高額報酬は誰のため」だ。

この回ではゴーン元会長の巨額報酬を取り上げ、業績連動型の役員報酬について論じた。最後に「経営者とて人の子、株価さえ上げれば報酬が増えるとなれば、物事の優先順位を間違うこともあり得るのではなかろうか」とあった。その通りになった。ゴーン元会長は日産の収益向上や日本社会への貢献よりも、自らの地位と報酬に関心が高まっていたようだ。

本書のベースとなったのは、朝日新聞の株式面に掲載された「経済気象台」と、ネットメディアの「Japan In-depth」だ。

経済気象台は20人ほどの経済人や大学教授らが執筆。牛島氏は2014年から7年半、ほぼ月一度のペースで書いてきた。一冊の本に収録し、並べて読めるようにして改めてのその価値が浮かび上がったと思う。

副題にあるようにガバナンスは企業活動の源泉であり、根幹である。このためコーポレート・ガバナンスの本は会社法から会計監査の分野を含め、おびただしい数が出ているが、抽象論が多く、制度の解説がほとんどだ。本書の場合、すべてのコラムが現実に起きたニュースや会社法や金融商品取引法などの制度改正を分析・解説し、コーポレート・ガバナンスの課題や教訓を導き出している。国内外を含め、多くの経営者や働く人たちが手に取ってほしい、と願わずにいられない。

著者:加藤裕則(ジャーナリスト)

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