
青山ブックセンター本店の神園智也さんのおすすめは『観る技術、読む技術、書く技術。』と『コンテンツ化』
本はリスキリングの手がかりになる。NIKKEIリスキリングでは、ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチし、本探し・本選びの材料を提供していく。今回はいつもと趣向を変えて、3つの定点観測書店と2つの準定点観測書店のビジネス書担当者に年末年始に読んでおきたいビジネス・経済書を推薦してもらった。対象にしたのは2025年刊行の本。それぞれ2冊の選出をお願いした。長めの休みの間に読む本が決まっていないようなら、選ぶ参考にしてほしい。
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デジタル時代の観る、読む、書く
「インプットとアウトプットをあらためて強化したいと感じている、忙しいビジネスパーソンの方におすすめしたい一冊」。青山ブックセンター本店の神園智也さんはそう言って入荷したての新刊を見せてくれた。
その本は北村匡平『観(み)る技術、読む技術、書く技術。』(インプレス)。批評家で映像研究者の著者が情報があふれ、便利なデジタル技術に囲まれている今の時代に「いかに情報と出会い、それを整理し、どのように思考して、読み、書き、観るのか」を問い直した本だ。
デジタル資料へのアクセスの仕方、本との出会い方、探索の方法から始まって、読書を助けるブックストッパーといったグッズや視聴デバイス・配信サービスの利用法、書くときに使うアプリなど細かいツール情報まで、細かく紹介されているが、著者の目指すところは効率化やコスパ・タイパではない。「知的な活動をもっと深くしていく」ことこそが本書が目指す本当のゴールだ。
「日々さらされている膨大な映像や情報に流されず、自分の知的創造につなげていくヒントが本書には詰まっている」と神園さんは話す。
もう1冊挙げてくれたのも、ほぼ同じタイミングで入荷した新刊の高瀬敦也『コンテンツ化』(インプレス)だ。現在は企画家を名乗って活動する元テレビプロデューサーによるコンテンツ論だ。「そもそもコンテンツとは何なのかといった定義から、視覚的インパクトの設定法などの技術的な側面までカバーした、コンテンツビジネスに関わる方なら必ず手元においておきたい本」というのが神園さんの推薦の言葉だ。
「アフターAI」の未来地図とは
紀伊国屋書店大手町ビル店の瓜生春子さんのおすすめは『アフターAI』と『人生とは長い時間をかけて自分を愛する旅である』
「やはり今年は生成AI(人工知能)に関連した本の売れゆきが目立った」と紀伊国屋書店大手町ビル店店長の瓜生春子さんは言う。そこで選んでくれたのがシバタナオキ『アフターAI』(日経BP)。生成AIがビジネス実装された後の「アフターAI」の未来地図を整理して伝える内容の本だ。
著者のシバタ氏は米シリコンバレーで活動するベンチャーキャピタルのパートナーとして活動する投資家だ。生成AIによってどのようなことが可能になるか、職種ごとにどのような影響が出てくるのか、最も速く導入されている業界ではどのように実装されているかを解説していく。
「目の前の業務にAIをどう利用するかというスキル視点の本が多い中、本書はビジネス自体が生成AIでどう変わっていくかに着目している」と言い、全社視点でAIと向き合うときに参考にできる本としておすすめだという。
もう1冊に選んだのは、樋口耕太郎『人生とは長い時間をかけて自分を愛する旅である』(ダイヤモンド社)。野村証券や不動産トレーディング会社の第一線で戦ってきた著者は、投資したリゾートホテルの再生に携わることをきっかけに自分の人生をゼロから見直し、人間中心の経営に大きくかじを切るにいたった。その軌跡や思考をあれこれとつづった本だ。
「著者がたどり着いた心や愛を起点にした経営、経済という考え方が披露されている。少し変わった分厚い本だが、年末年始にじっくり人生や幸せについて考えるにはちょうどいいかもしれない」と瓜生さんは言う。
AIを使って考える技法と習慣化テク
丸善日本橋店の石田健さんのおすすめは『AIを使って考えるための全技術』と『科学的に証明された すごい習慣大百科』
丸善日本橋店の石田健さんも、瓜生さんと同じく生成AI本を2冊のうちの1冊に選んだ。夏に聞いたときに選んだものと同じ石井力重『AIを使って考えるための全技術』(ダイヤモンド社)だ。「今年の2冊となると、反響の大きかったこの本を選ばざるを得ない。今年出たAI関連本を代表する一冊」と、あえて同じ本を選んだ理由を話す。
AIを使って考える技法56パターンを詰め込んだ分厚い一冊だ。技法は「すぐにアイデアがほしいとき」「アイデアを磨きたいとき」「アイデアを実現したいとき」「考えるヒントがほしいとき」の4つに整理して解説されている。本書をガイド役に生成AIをあれこれ試して正月を過ごすのも一興かもしれない。
もう1冊は堀田秀吾『科学的に証明された すごい習慣大百科』(SBクリエイティブ)。心理学や行動経済学、脳科学などの研究をベースに「もっとラクに、もっと自然に、習慣化できる方法」を100以上紹介した習慣化テクニックの本だ。
「7月の入荷以来、一貫して上位で売れ続けた今年一番の売れ筋」と、石田さんは推薦の理由を話す。本書によれば、仕事の効率化にはルーティン化が有効という。ヒットは人手不足で仕事が多い職場が増えている状況が背景かもしれない。7月の本欄の記事〈「すごい習慣」で仕事や人生を変える 科学的根拠に基づく小さなメソッドの大百科〉でも紹介しているので、内容はそちらも参考にしてほしい。
なぜか売れる『経営者の教科書』![三省堂書店有楽町店の春田真吾さんのおすすめは『コンサルタント3年目までの必修ビジネススキル』と『[増補改訂版]経営の教科書』](https://www.magmoe.com/wp-content/uploads/2025/12/https://imgix-proxy.n8s.jp/DSXZQO2409542024122025000000-1.jpg)
三省堂書店有楽町店の春田真吾さんのおすすめは『コンサルタント3年目までの必修ビジネススキル』と『[増補改訂版]経営の教科書』
三省堂書店有楽町店の春田真吾さんのおすすめは、望月安迪『コンサルタント3年目までの必修ビジネススキル』(SBクリエイティブ)と小宮一慶『[増補改訂版]経営者の教科書』(ダイヤモンド社)。
前者について春田さんは「コンサルタント人気が続いているようだが、その仕事力を自分のものにするポイントがわかりやすく書かれている。コンサル以外の職種でも若いビジネスパーソンには参考になるのでは」と推薦理由を述べる。
コンサルとして一本立ちするには7つの難所があり、その乗り越え方をベテランコンサルが解説した内容で、仕事の厳しさを示しながら若手にエールを送る愛情ある書きぶりだ。こちらも9月の本欄の記事〈コンサル一本立ちには7つの難所あり 乗り越える心構えやノウハウを先輩が伝授〉で紹介している。
もう1冊の『[増補改訂版]経営者の教科書』は「うちの店で他店に比べて突出して売れている本」なのだという。それが推薦の理由だ。銀行勤務などを経て経営コンサルタントとして独立して30年目になる著者が、経営の原理・原則や技と共に経営に対する考え方を解説した内容で、8年ぶりに出た増補改訂版になる。
著者の小宮氏は解説のわかりやすさで人気がある。売れている理由のひとつはそれだろう。ただ「版元の人と話しても丸の内や日本橋と似たような立地なのに、有楽町のこの店が際立って売れる理由がわからないと言われる」そうだ。
経営学の知見は人生戦略にも使える
リブロ汐留シオサイト店の河又美予さんのおすすめは『人生の経営戦略』と『持続可能なメディア』
リブロ汐留シオサイト店の店舗リーダー、河又美予さんのおすすめは山口周『人生の経営戦略』(ダイヤモンド社)と下山進『持続可能なメディア』(朝日新書)。「どちらの本もこの店で今年よく売れた本。お二人の本はこれまでもここではよく売れていて、当店の人気著者になっている」という。
本欄では、それぞれ〈「人生というプロジェクト」の策定・実行ガイド 経営学の知見を活用する方法〉〈「持続可能なメディア」の5条件とは 海外・地方・雑誌…多様な動きを精力取材〉の記事で紹介している。
『人生の経営戦略』は自分の人生を一つのプロジェクトと見なし、経営学の知見を応用して戦略を立てる生き方を伝授する本だ。書中に電通社員時代の山口氏のエピソードが書かれている。これが電通グループの本社がある汐留で売れている理由かもしれない。
『持続可能なメディア』は、持続可能性が失われつつあるメディアの現状とそれにあらがう地方メディアや海外メディア、雑誌などの動きを追った出版社出身のノンフィクション作家による著作だ。共同通信社や日本テレビなどメディア企業が集積する汐留らしい売れ筋と言える。
売れ筋の本から最新の期待の新刊まで、思い思いの視点から選んだ多彩な2025年の本が並んだ。読み逃した本や気になる本があれば、年末年始の読書の参考にしてほしい。
(水柿武志)
