ビジネス書書棚端の平台に平積みで展示する(青山ブックセンター本店)

ビジネス書書棚端の平台に平積みで展示する(青山ブックセンター本店)

本はリスキリングの手がかりになる。NIKKEIリスキリングでは、ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチし、本探し・本選びの材料を提供していく。

今回は、定点観測している青山ブックセンター本店だ。ビジネス書の売れゆきは、読者からの反応がいい新刊が相次いでいて好調だという。そんな中、書店員が注目するのは、表現することから離れている人たちに自らの表現やそのすべを見つけるための手引きを提示する一冊だった。

とるにたらないことでいい

その本は渡邉康太郎『生きるための表現手引き』(ニューズピックス)。渡邉氏はデザインイノベーションファーム、Takram(東京・渋谷)のコンテクストデザイナー。ブランディングや企業のミッション、ビジョン策定など、数々のプロジェクトに関わってきた。

そんな著者がこのところ興味を持っているのが「個人個人が、その取り組みがいかにつたなくとも、表現を始めて続けていくこと」だという。これをテーマに社会人向けにワークショップを複数回開催し、表現したい、創作したいと感じている人の多さに手応えを感じたようだ。ワークショップで展開した要素を本の形に再構成して書き下ろしたのが本書だ。

ビジネスに使える表現スキルが身に付くと思って読むと足をすくわれるだろう。著者が提示する「表現」とは、職業でなくていいし、経済で測らなくていい。お金もうけや役立つものであったりする必要はない。とるにたらないことでいいし、個人的なことで普遍的でなくていいという。巧拙さえ問わない。

そんな「生きる」ことのあわいにあるのが、本書で著者が考えていく「表現」だ。表現とは「人の存在や行為に起因して起こる変化」と定義し、旅に出かけるように、ただ出かければいいと、つくることの旅へと読者をいざなう。

「模倣する」も「集める」も表現の第一歩

第1章「手放す」では、ここまでに紹介したように、表現することにためらいを感じている人が自ら課した足かせを手放すきっかけを提供している。続く第2章「つくる」では、実際に表現に踏み出すための心構えと手法について考えていく。

取り上げる手法は「模倣する」「引き継ぐ」「見方を変える」「集める」「編み直す」「つくってもらう」「仲間をつくる」の7つだ。一見して「つくる」未満にも思える方法だが、そこからいや応なく表現や個性が立ち上がってくることを著名な絵画や文学作品などから見ていく。

7つそれぞれにワークが付く。「模倣する」だったら「好きな作品をひとつ選び、『なぞって』みましょう」、「見方を変える」だったら「あなたの家や仕事場の近くの道を、そこに馴染(なじ)みのない友人と歩いてみましょう」といった具合だ。やってみて振り返り言葉にしてみる。そこから何か表現の種が見つかるかもしれない。

第3章「続ける」では、「成長してもいい、しなくてもいい」と言い、続けることをめぐる息苦しさから自由になる思考を提示する。

本書が展開する表現をめぐる思考は、ビジネスの世界では当たり前の課題解決とか目的思考からは最も遠いところにある。課題や目的、生きのびるための行為から離れたところで、「つくる」ことで「生きる」を取り戻すとき、本当の創造性のようなものが芽吹くのかもしれない。それがゆるやかに仕事での行動や発想につながっていく可能性もある。

「11月末に入荷してからいい反応がずっと続いている。この周辺に多いクリエーティブ系のビジネスパーソンに刺さっているようだ」とビジネス書を担当する神園智也さんは話す。

サイバー藤田氏の『勝負眼』が2位

それでは先週のランキングを見ていこう。

(1)生きるための表現手引き渡邉康太郎著(ニューズピックス)(2)勝負眼藤田晋著(文芸春秋)(3)SIGNALS Creative Research No.02 2026ソニーグループクリエイティブセンター ・『WIRED』日本版編(プレジデント社)(4)コンテンツ化高瀬敦也著(インプレス)(5)科学的に証明された すごい習慣大百科堀田秀吾著(SBクリエイティブ)

(青山ブックセンター本店、2025年12月8~14日)

今回紹介した『生きるための表現手引き』が1位だった。サイバーエージェントを率いる藤田晋氏が自らの経験を基につづった話題の実践的マネジメント論が2位に入った。3位は、ソニーグループのデザイン部門であるクリエイティブセンターがサステナビリティーをめぐるリサーチの成果をまとめたムック。4位は深く刺さるコンテンツについて考えた元TVプロデューサーの本だ。5位は、7月の本欄の記事〈「すごい習慣」で仕事や人生を変える 科学的根拠に基づく小さなメソッドの大百科〉で紹介した習慣化の本だった。

(水柿武志)

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