英国ロンドン、テムズ川南岸のヘイワード・ギャラリーで「ギルバート&ジョージ:21世紀ピクチャーズ」(Gilbert & George 21ST CENTURY PICTURES)展が開催されている。

Gilbert & George: 21ST CENTURY PICTURES

会場:Hayward Gallery(Southbank Centre, Belvedere Road, London SE1 8XX)

会期:2026年1月11日(日)まで

開館時間:10:00 – 18:00

休館日:月曜、火曜。12月24日~26日、1月1日

入場料:20ポンド

詳しくは、https://southbankcentre.co.uk

60年に渡り、コンテンポラリー・アートの先駆者であり続ける、英国の2人組アーティスト「ギルバート&ジョージ」。彼らの過去25年間の作品のうち、約70点が展示されている。

PARKING (2020)

ともに80歳を超えるイタリア生まれのギルバートと、英国人のジョージは「2人で1人」のアーティストだ。1967年、ロンドン芸術大学のセントラル・セント・マーチンズで彫刻を学ぶ学生時代に出会い、以来公私をともにしてきた。当時はまだ貧しい移民街だったロンドン東部のスピタルフィールズを拠点に、1968年から「ギルバート&ジョージ」としての活動を開始。「私たち自身が私たちの作品」「生きる彫刻」と称し、人生のすべてをアートに捧げ尽くしてきた。私生活で外出する際も、常にトレードマークのお揃いのスーツ姿で、必ず2人一緒という徹底ぶりだ。

FUNKY (2020)

本展が催されているヘイワード・ギャラリーで、1972年にも注目の新人アーティストとして個展を開いているが、その作風は半世紀後の今も衰え知らずのパワーがみなぎる。一瞬で目が覚めるような迫力に圧倒される。

DATE DANCE (2019)

高い壁いっぱいの大きな「ピクチャーズ」には、どれも黒いフレームが格子のようにはめ込まれている。強い色遣いに緻密な構成の作品は、ステンドグラスのようとも評されるが、巨大なイコンのようにも思える。

AKIMBO (2005)

イーストエンドの日常や、道ばたのゴミまで含むストリートの風景は、一貫して2人のメインテーマだ。そんな作品に配置される市井の人々は聖人、パントマイムのようなポーズを取る本人たちは天使、ガラクタでさえ聖なるオブジェのように見えてくる。

NUMBER TWELVE (2020)

ギルバート&ジョージの自宅前。近所のおじさんだろうか、座禅を組む仏様にも見えてくるから不思議だ

自分たちの全裸写真を使うなど、時に過激なビジュアルと強いメッセージ性でも知られるギルバート&ジョージは、そのアートを「Death(死)」「Hope(希望)」「Life(生)」「Fear(恐れ)」「Sex(セックス)」「Money(金)」「Race(人種)」「Religion(宗教)」「Shitty(クソみたいな)」「Naked(むき出しの)」「Human(人間)」「World(世界)」だと語る。

SEX MONEY RACE RELIGION (2016)

生々しい人間の感性をまとう作品の中には、「アダム/22歳/セクシーなイングリッシュ・ガイ/ブロンド/筋肉質」「ハッサン/25歳/積極的なモロッコ系フランス人」といった、昔の「出会い系」的三行広告を羅列したものも。

AGES (2001)今期アニエス・ベーのTシャツのプリントにも使われている

ロイヤル・ファミリー好きでもある2人は、ユニオンジャックや王室モチーフもよく使う。新聞の見出しを集め、ひとつのキーワードごとにまとめた「ロンドン・ピクチャーズ」というシリーズには、硬貨に彫られた故エリザベス2世女王の横顔がデザインされている。

GAY (2011)

2階のカフェでは、2人が恒例としている海への日帰り旅行を撮ったフィルムも上映されている。物販コーナーの書籍を眺めると、次から次へと初めて見る作品が目に飛び込んでくる。これまで2,000点以上を制作してきたというが、最近は加齢をテーマにしたものも多い。「優先席」という作品では、バス停に情けなく寝そべる2人の姿が描かれている。でも悲惨さはない。切なさのむこうに、ただ思わずクスリとしてしまう。

ロンドンから電車で約1時間、東海岸のサウスエンド=オン=シーに出かけた際の1シーン
TWO THOUSAND TWENTY-TWO (2020)
ギルバート&ジョージセンター

DEATH HOPE LIFE FEAR

会場:The Gilbert & George Centre(5a Heneage Street, London E1 5LJ)

会期:2026年2月28日(土)まで

開館時間:11:00 – 17:45

休館日:月曜、火曜。12月24日~1月1日

入場無料、寄付は歓迎

詳しくは、https://gilbertandgeorgecentre.org

さて、ギルバート&ジョージが1960年代から拠点にしているスピタルフィールズは、今でこそオシャレなアーティストエリアに様変わりしたが、かつては「切り裂きジャック」も徘徊したスラムでもあった。2023年、そんなエリアに彼らが私財を投じてオープンしたのが「ギルバート&ジョージセンター」だ。2人のアトリエ兼自宅もすぐ近くにある。「Art for all」をモットーに、年1回ペースで展示を変え、無料で一般公開している。現在はギルバート&ジョージの根本テーマをタイトルにした、1984年の作品群「DEATH HOPE LIFE FEAR」を展示中だ。

LIFE, DEATH (1984)
NEW DEMOCRATIC PICTURES (1991)

以前「ギルバート&ジョージは、買物に行く時でさえ常に2人一緒で行動している。お気に入りの店でいつもケバブを買っている」と英国人の友人に聞かされた時は、都市伝説だと思っていた。いくらなんでも、そんなことは現実的に不可能だろうと。しかし噂は本当だった。

MONEY (1998)ジョージ(左)の横に舞う硬貨が日本円なのが嬉しい

私もこれまで、スピタルフィールズ界隈で2回目撃したことがある。本当にいつものスーツ姿で、並んで歩いていた。一度はバスの中で隣の席になった。かなり暑い真夏日だったのに、きっちりとネクタイをしめ、ツイードのジャケットのボタンもしっかりと留め、涼しい顔をしていた。よっぽど声をかけて写真でも撮らせてもらおうかと思ったが、勇気が出なかった。次も無理だろう。侵してはいけない聖域のようなものを感じた。でもそれでいいのだ。「存在そのものが至高の芸術作品」は、これからもずっとロンドンの下町の風景にとけ込み続けるに違いない。(英国在住ライター/南崎智子)

BELL LANE (2020)

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