2

1982年、映画「蒲田行進曲」(深作欣二監督)のヤス役に抜擢され、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞をはじめ、数々の賞を受賞した平田満さん。連続テレビ小説「虎に翼」(NHK)、映画「アンダーニンジャ」(福田雄一監督)、映画「ショウタイムセブン」(渡辺一貴監督)など多くの作品に出演。2001年、「ART」及び「こんにちは、母さん」で第9回読売演劇大賞最優秀男優賞受賞。2014年、「海をゆく者」で第49回紀伊國屋演劇賞個人賞受賞。2020年、「THE NETHER」で読売演劇大賞優秀男優賞受賞。2026年1月23日(金)に映画「安楽死特区」(高橋伴明監督)が公開される。(この記事は全3回の後編。前編と中編は記事下のリンクからご覧になれます)

■朝ドラの朗読シーンがSNSで話題に

2024年、連続テレビ小説「虎に翼」(NHK)に出演。このドラマは、日本初の女性弁護士で後に裁判官となった三淵嘉子さんをモデルに、昭和の法曹界を舞台に、激動の時代を描いたもの。平田さんは、最高裁判所長官・星朋彦役で出演。かつて星長官が出版した著書の改訂作業を息子・航一(岡田将生)と寅子(伊藤沙莉)がすることになり、作業最終日の、長官を演じる平田満さんによる序文の朗読シーンが話題に。

「あの役は、僕の俳優人生の中で一番偉い人の役かもしれないです。最高裁判所長官ですからね。若い時に偉い人の役が来るわけないけど、若い時は偉い人の役というのはちょっと苦手だったんです。でも、もう最近は面(ツラ)の皮が厚くなって何でもやっていますね(笑)」

――平田さんの朗読シーンがSNSでも話題になって、かなり反響も大きかったそうですね

「僕自身は全然知らないんですよ。実感はなかったですね。NHKの方に『話題になっていますよ』って言われたけど、『そうなんですか?』という感じで。一応SNSのアカウントは持っているんですけど、見ないから知らないんですよ。でも、あれは本の序文を読み上げるシーンなので、セリフを暗記しなくていいから良かったですね(笑)」

2025年、映画「アンダーニンジャ」に出演。この作品は、秘密裡に存在し現代社会でも暗躍を続けている忍者組織「NIN(ニン)」の末端に所属する忍者の雲隠九郎(山崎賢人=崎の右上は立)が、戦後70年以上にわたり地下に潜り続けている、「アンダーニンジャ」と呼ばれる組織の動向を探るという重大な忍務(にんむ)を言い渡され奮闘する様を描いたもの。

平田さんは、表の顔は九郎が潜入する講談高校の主事だが、裏の顔は音を聞き分ける順風耳(じゅんぷうじ)の使い手である謎の人物役。

「あれはどんなジャンルか一言では説明できないような不思議な映画でした。台本を読んでアクションがあるのはわかりましたけど、軽いものだろうと思っていたんですよ。それがきっちりやらされました。この年齢になってあんなにアクションをやるとは思いませんでしたね(笑)」

同年、映画「ショウタイムセブン」に出演。この作品は、テレビの生放送中に爆弾犯との命がけの交渉に挑むキャスターの姿をリアルタイム進行で描いたもの。

ラジオ局に1本の電話が入り、その直後に発電所で爆破事件が発生。電話をかけてきた謎の男は交渉人として、ラジオ局に左遷された国民的ニュース番組「ショウタイム7」の元キャスター・折本眞之輔(阿部寛)を指名。折本はこのことが番組復帰のチャンスと考え、生放送中の「ショウタイム7」で自らキャスターを務めて犯人との生中継することに。しかしそのスタジオにも、すでに爆弾が設置されていて…という展開。

――平田さんは犯人の担任教師だったと名乗りますが、実は…という役どころで

「そうそう。犯人の本当の目的が明らかになっていく」

――オリジナルは韓国映画ですけど、また違う面白さがありましたね

「ありがとうございます。撮影は楽しかったですよ。あれはスタジオ内の話だから、スタジオの部分はすごい短期間で撮ったんですよ。だから、本当に芝居みたいな感じでした。

阿部(寛)さんはすごいですよ。長台詞も全部覚えていて。テイクを重ねる撮影方法だったんですけど、何度も何度もよくできるなと思って。本当にすごいと思いました」

■奥さまとの約束で長生きをしなきゃいけない

2026年1月23日(金)に映画「安楽死特区」が公開される。この作品は、高橋伴明監督が、「安楽死法案」が可決された近未来の日本を舞台に、国家主導で導入された制度のもと、人間の尊厳、生と死、そして愛を問う衝撃の社会派ドラマ。

国会で「安楽死法案」が可決され、実験的に「安楽死特区」を設置することに。回復の見込みがない難病を患い、余命半年と宣告されたラッパー・酒匂章太郎(毎熊克哉)と、彼のパートナーでジャーナリストの藤岡歩(大西礼芳)。安楽死法に反対のふたりは、特区の実態を内部から告発することを目的に、国家戦略特区「ヒトリシズカ」への入居を決意する。

そこでふたりは、末期がんに苦しむ池田(平田満)とその妻・玉美(筒井真理子)、認知症を抱える元漫才師の真矢(余貴美子)など、さまざまな境遇と苦悩を抱える入居者たちと出会う。彼らとの交流や医師たちとの対話を通じて、ふたりの心は少しずつ変化していくが…。

――最初にお話を聞いた時はいかがでした?

「監督も伴明さんですし、前にも共演している毎熊(克哉)くんが主演だし、安楽死の話と聞いただけで、やりたいなと思いました。僕は池田という役なんですけど、安楽死をする役というのはやってみたいなと思いました。現実ではできないじゃないですか。日本では許されてないので」

――平田さんは、安楽死についてはどのように考えてらっしゃいますか

「例えば僕自身が不治の病になったり、余命宣告を受けた場合、まずは尊厳死と言うんですか?延命治療はしないでほしいと思っています。遺言書は書いてないですけど、それは家族にも言っています。でも、もしこの映画のように『安楽死法案』ができたら、(病気の症状が)そんなにつらいんだったら、僕は安楽死を選択するかもしれないなと思います」

――のたうち回るようなひどい痛みや苦しみを味わいたくはないですよね

「ええ、そんな痛みや苦しみはいらないでしょう?また元気になれるんだったら耐えるけど、そうじゃなかったら嫌ですよね。痛みは抑えてほしいからモルヒネは使ってもらいたいと思います。痛みが取れるのだったら。

安楽死が認められていたら、安楽死を選択する気がしますね。痛みで苦しむぐらいだったらということですよね。早く死んじゃいたいな。でも、僕はダメなんですよ。妻に

『先に死なないでくれ』って言われているから、何とか長生きしなきゃいけないんですよ。妻を看取らなきゃいけない。そういう約束をしましたからね。ひとりになって不治の病になったらすぐにでも安楽死を選ぶと思いますけど」

――平田さんが演じた池田は、余命宣告を受けて施設に入ることを認められましたが、奥さんはまだ夫に死んで欲しくないと思っています

「奥さん若いもん(笑)。若いから、まだ死んでほしくないと思うんでしょうね。でも、一旦は別れたいと思っていたような奥さんだから複雑ですよね」

――気難しくてめんどくさそうな旦那さんでしたね

「そう。池田は怒りっぽくて、自分の思いを通そうとして怒っているから、めんどくさい人でしたね。僕自身は別の意味でめんどくさいかなと思います(笑)。何もしないから」

――怒って癇癪(かんしゃく)を起こすのは恐怖感からくるというのもあるのでしょうね

「そうかもしれない。よくわからないですけど、多分孤独な人なんでしょうね。そういう意味では、僕だったら看護師さんに冗談を言って笑かして、そのまま安楽死したいなって思いますね」

――撮影はいかがでした?

「伴明さんは、早撮りでもないけど、サクサクサクサク撮ってくださる監督で、非常にテンポよく進んでいた感じがします。僕はそんなに長いシーンがなかったからかもしれないですけど、大変だったということはあまりなかったですね」

――撮影に入る前に、監督から何か言われたことはあったのですか。こういう感じでやってほしいというようなことは?

「いいえ、監督はそういうことは全然言わなくて。お任せという感じでした。もちろん監督が『こう撮りたい』と言ったらそうしますけど、いわゆる演技指導的にどうこうということはなかったですね。

難しいことはそんなになかったと思います。撮影も比較的スムーズで。他の皆さんも一生懸命やってくださっているから、わりと気持ちよく撮影に入って、気持ちよく終われた現場でしたね」

(C)「安楽死特区」製作委員会

(C)「安楽死特区」製作委員会

――撮影で印象に残っていることは?

「やっぱり安楽死をするわけですけど、それを体験できたのはとても貴重な経験でしたね。旅立ちらしくきちんとスーツを着てその時を迎えて」

――完成した作品をご覧になっていかがでした?

「ラストはちょっと驚きでした。もちろん台本には書いてあったけど、こういう風にするんだ、こういうのもいいなと思いました」

――平田さんは、ラストシーンの中には入ってなかったですね

「出てないです。池田はもう安楽死して逝っちゃったので。あれは、何か70年代の映画だなって感じました。それは悪い意味じゃないですよ、僕らは知っていますからね。何て言うのかな?その時代を生きているから、原点回帰じゃないけど、その時代への思いがあったんでしょうかね?伴明さんも脚本の丸山(昇一)さんも同時代を生きてきていますから」

――安楽死が日本で実現するのはなかなか難しいとは思いますが、エンドロール後に海外での安楽死を選択された方のインタビューも収録されています

「そうですね。最後にいわゆるドキュメント部分がありましたけど、日本ではどうでしょうね。10年後ぐらいになったら、ひょっとしたら少しは変わるのかな?法案になるかどうかはともかく、普通に話されるようになってほしいとは思いますね」

――今後はどのように?

「来年1月23日にこの映画が公開になるのと、『ピグマリオン-PYGMALION-』(東京建物ブリリアホール・東京都)という舞台の上演が1月20日に始まります。

100年前のイギリスの上流階級の人をやりますけど、信じられない。これも昔だったら考えられないことです。厚顔無知にそんな上流階級の人を演じるなんてね(笑)。来年もいろんなことをやりたいですけど、まずは映画『安楽死特区』にお客さんがいっぱい来てほしいですね。いろんなとらえ方をしていただけたらいいなと思います」

穏やかで優しい空気感が心地いい。舞台「ピグマリオン-PYGMALION-」の稽古も始まり、ますます忙しい師走になりそう。(津島令子)

ヘアメイク:板谷博美

スタイリスト:カワサキ タカフミ

Leave A Reply