『赤い糸 輪廻のひみつ』(21)や『ひとつの机、ふたつの制服』(24)など、映画ファンの間でにわかに話題を呼ぶ作品が相次ぐ台湾映画界から、異色のサスペンス・スリラー『ピアス 刺心』(公開中)が日本に上陸した。

フェンシングの対戦相手を試合中に殺害した兄、ジーハンが7年ぶりに出所。母親は兄を他人のように扱うが、弟のジージエは内緒で兄に会いにゆく。「あの事件は事故だった」という兄の言葉を弟は信じ、2人の関係は再び縮まりはじめた。しかし、幼い日の記憶がよみがえる。弟が川で溺れたとき、なぜ兄はすぐに手を差し伸べなかったのか?

兄ジーハン役は、『KANO~1931海の向こうの甲子園~』(14)で鮮烈なデビューを飾ったツァオ・ヨウニン。弟ジージエ役は新鋭リウ・シウフーが演じ、ローマ・アジア映画祭の最優秀男優賞に輝き、台北映画賞では最優秀新人男優賞にノミネートされた。愛情と疑念が交錯する、美しくも恐ろしい兄弟関係を、ヨウニン&シウフーはどのように解釈したのか?謎めいたストーリーを紐解くヒントを単独インタビューで語ってくれた。

殺人を犯した「恐ろしい兄」

元野球選手という異色のキャリアを持ち、『KANO~1931海の向こうの甲子園~』で知られるツァオ・ヨウニンにとって、本作は久々の日本公開作。その端正なルックスを活かし、青春恋愛映画『夏のレモングラス』(24)では再びの高校生役に挑んだが、近年はホラー&スリラー映画への出演も続いている。

【写真を見る】フェンシングの試合中に対戦相手を刺殺し、少年刑務所で服役していた兄ジーハンを演じたツァオ・ヨウニン【写真を見る】フェンシングの試合中に対戦相手を刺殺し、少年刑務所で服役していた兄ジーハンを演じたツァオ・ヨウニン

「紅い服の少女」シリーズのスピンオフ『山忌黃衣小飛俠(原題)』(25)や、台湾の幽霊マンションにお化けが出まくる『鬼們之蝴蝶大廈(原題)』(24)、そして本作『ピアス 刺心』。ホラー&スリラーの醍醐味は「役者として創造性を発揮できるところ」だという。

ツァオ・ヨウニン(以下、ヨウニン)「ホラーやスリラーのおもしろみは、創造の余地が大きいところです。テーマや表現に決まった正解がなく、答えがないからこそ、既存の型にはまらず、クリエイティブに創造性を発揮できる。『こんな人物にしたい』と思ったら、まずはそのまま演じていいと思える自由度の高さや、表現の余地があるジャンルだと思います」

脚本を読んだあと、さまざまな疑問が生まれ、好奇心をかき立てられたことが、本作への興味を抱いたきっかけだったという。

台湾で実際に起きた事件と、監督自身の兄との家族関係をもとに描かれる台湾で実際に起きた事件と、監督自身の兄との家族関係をもとに描かれる[c]Potocol_Flash Forward Entertainment_Harine Films_Elysiüm Ciné

ヨウニン「なぜ兄のジーハンはこんな人間になり、罪を犯したのか。兄弟の母親は、罪を犯したとはいえ、なぜ息子をたやすく他人のように扱えてしまうのか。そんな親は本当にいるのか、いるとしたらどんな親なのか。そして弟が最後に下した決断の意味は……。『知りたい』という好奇心から、この作品に惹きつけられました」

ジーハンを演じるうえでは、監督・脚本のネリシア・ロウと話し合いを重ね、「いつも2人で考え、決断を下していった」という。

ヨウニン「ジーハンという役はとても複雑ですが、監督と一緒に決めたことは常にシンプルかつ明快でした。複雑に見える役であればあるほど、むしろ表現はシンプルにしたほうがいい。逆にシンプルな役柄であるほど、多角的なアプローチで演じたほうが深みを出せるのだと学びました」

愛と疑念が対立する、衝撃の心理スリラー愛と疑念が対立する、衝撃の心理スリラー[c]Potocol_Flash Forward Entertainment_Harine Films_Elysiüm Ciné

役作りのため、ヨウニンと監督は実在の連続殺人鬼テッド・バンディのドキュメンタリーをともに鑑賞。「テッド・バンディは、恋人が隣にいればごく普通の人間ですが、彼女がいなくなると恐ろしい人物に豹変する。その恐ろしさが演技の参考になりました」と語る。

Leave A Reply