1999年公開当時、観客の反応が大きく割れたスタンリー・キューブリックの遺作『アイズ ワイド シャット』。富裕層や権力者による秘密の社交クラブと性的儀式を描いた設定は「現実離れしている」と受け止められたが、時を経て評価が一変しつつある。

物物語は、ニューヨークの社会的エリートたちが売春業に従事する女性を招き、覆面の儀式に興じる世界を描く。主人公の医師ビル(演:トム・クルーズ)がその世界に足を踏み入れたことで、不穏な出来事が次々と起きる。ピアニストの失踪、“偶然すぎる”薬物死、そして自宅の枕元に置かれた仮面──本作の核心は、権力者たちが都合よく事実を隠蔽する世界である。

作品の撮影監督ラリー・スミスは、『It Happened in Hollywood』ポッドキャストに出演し、Criterion Collectionによる最新レストア作業について語る中で、近年の再評価の理由に触れた。
スミスは、権力・富・秘密・性的支配が交錯する構造が作品の重要なテーマであり、エプスタイン事件の構図と驚くほど重なると指摘。被害者の女性たちが経済的に弱い立場に置かれ、男性権力者によって“消耗品”のように扱われた点は、映画の仮面舞踏会のシーンと象徴的に響き合う。

ニコール・キッドマン、映画『アイズ ワイド シャット』よりニコール・キッドマン、映画『アイズ ワイド シャット』よりニコール・キッドマン、映画『アイズ ワイド シャット』より 写真: WARNER BROS

極端な富、閉ざされた人脈、沈黙の圧力、内部告発者への威嚇。
それらが“非現実的なフィクション”だと思われた1999年から26年を経た今、同作はむしろ「現実を先取りしていた映画」と見られるようになった。

『アイズ ワイド シャット』が描いたのは、性と権力の使い方で人間の本性が歪められていく世界、そしてその恐怖がごく優雅な日常の風景の中に潜んでいるという不気味さである。
キューブリックは、公開当時には理解されなかったその構造を、鮮烈な“予見”として残していた。

※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。

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