東京都美術館(東京都・上野公園)で「東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」が2026年1月27日から開催されます。

ヨーロッパ北部、スカンディナヴィア半島に位置する国スウェーデン。本展は近年世界的に注目を集める、スウェーデン美術黄金期の絵画を本格的に紹介する展覧会です。

スウェーデンでは、若い世代の芸術家たちが1880年頃からフランスで学び始め、人間や自然をありのままに表現するレアリスムに傾倒しました。彼らはやがて故郷へ帰ると、自国のアイデンティティを示すべくスウェーデンらしい芸術の創造をめざし、自然や身近な人々、あるいは日常にひそむ輝きを、親密で情緒あふれる表現で描き出しました。

本展はスウェーデン国立美術館の全面協力のもと、19世紀末から20世紀にかけてのスウェーデンで生み出された魅力的な絵画をとおして、自然と共に豊かに生きる北欧ならではの感性に迫ります。

東京都美術館開館100周年記念
スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき

会場:東京都美術館 企画展示室(東京都台東区上野公園8-36)

会期:2026年1月27日(火)~4月12日(日)

開室時間:9:30~17:30(金曜は20:00まで)
※入室は閉室の30分前まで

休室日:月曜日、2/24(火) ※ただし、2/23(月・祝)は開室

観覧料:一般2,300円/大学・専門学校生1,300円/65歳以上1,600円
※18歳以下・高校生以下は無料
※1/27~2/20の平日限定で、大学・専門学校生は無料
※各種障害者手帳・被爆者健康手帳お持ちの方と付添1名は無料
(要証明)

問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)

詳細は東京都美術館公式HPまたは展覧会公式サイトまで。

本展の見どころ
1. 100%スウェーデン!

展示作品はすべてスウェーデン人作家によるもの。スウェーデンならではの厳しくも豊かな自然や、日常へのあたたかなまなざしが作品に表現されています。「自然」「光」「日常のかがやき」をキーワードに、現代のスウェーデンを象徴するウェルビーイングな暮らしのルーツを作品の中に感じることができるでしょう。

2. 新たな表現を切り拓いた芸術家たちのまなざし

19世紀後半、自国スウェーデンのアイデンティティを示す画題と、その表現にふさわしい方法を模索したスウェーデンの画家たち。彼らはフランスで学んだレアリスムや自然主義から離れ、自身の感情や叙情的な雰囲気を重視した、独自の表現方法を築き上げました。本展ではスウェーデン美術の黄金期とされる1880年代から1915年にかけての作品を中心に紹介します。

3. 近年世界的に注目を集める、スウェーデン絵画に特化した展覧会

近年、スウェーデン国外でもフランスやアメリカで大規模な展覧会が開催され、世界的に注目を集めるスウェーデン絵画。本展はスウェーデン国立美術館の全面協力のもと、80点の作品で19世紀末のスウェーデン美術黄金期への軌跡をたどる日本初の展覧会です。スウェーデンの国民的画家カール・ラーション、劇作家としても知られるアウグスト・ストリンドバリなど、今世界で注目される作家の作品が含まれます。

カール・ラーション《キッチン(『ある住まい』より)》1894-1899年 水彩、紙 スウェーデン国立美術館蔵 Photo:Bodil Beckman / Nationalmuseum ※東京会場のみ出品
第1章 スウェーデン近代絵画の夜明け

スウェーデンでは、北欧諸国のなかでは早い時期にあたる1735年に王立素描美術アカデミーが創立され、1768年には王立美術アカデミーに改称、フランスにならった伝統的な美術教育が行われていました。19世紀半ばになると、風景画制作において先進的であったイタリアやドイツへ赴く画家たちが現れます。とりわけドイツのデュッセルドルフでは、美術アカデミーにおいて風景画の特別授業が行われ、ロマン主義的な荒々しくも崇高な自然の姿を描く画風が好まれました。1850年にストックホルムでその一派を紹介する展覧会が開催されたことも一つの契機となり、スウェーデンをはじめとする北欧出身の多くの芸術家たちがこの地に心惹かれました。一方で、少しずつ確実に、スウェーデンという自国を見つめる目がうまれていたことも事実でした。

ニルス・ブロメール《草原の妖精たち》1850年 油彩、カンヴァス スウェーデン国立美術館蔵 Photo:Cecilia Heisser / Nationalmuseum

ニルス・ブロメール(1816-1853)は、19世紀半ばに活動した、スウェーデン独自の芸術の確立を目指した最初の画家で、北欧の古代神話や伝説に基づく作品を主題としました。本作は四季を表す連作の一枚として構想され、黄昏時の草原で「春」を表す妖精たちが手を取り合って踊っています。遠くに見える城はスウェーデンに実在する城であることから、この絵の舞台がスウェーデンであることを示しています。北欧の古代神話への関心や黄昏時の光の描写は、次の世代のスウェーデンの画家たちが探求していく方向性をはらんでいるといえるでしょう。

エードヴァッド・バリ《夏の風景》1873年 油彩、カンヴァス スウェーデン国立美術館蔵 Photo:Nationalmuseum

エードヴァッド・バリ(1828-1880)はデュッセルドルフで風景画を学び、帰国後の1858年にスウェーデン王立美術アカデミーに風景画科を新設、スウェーデンの風景画の指導的立場を担いました。バリは次第にデュッセルドルフ派の荒々しくドラマティックなロマン主義的な画風から距離を置き、本作のように「スウェーデン的な風景」、つまりスウェーデン中部の湖水地方の清新な空気に満ちた穏やかな夏の風景を描くことで人気を博しました。

第2章 パリをめざして―フランス近代絵画との出会い

1880年代にスウェーデン美術は劇的な変化を遂げます。王立美術アカデミーの時代遅れの教育法に不満を抱いていた若い世代の芸術家たちは、新しい表現や価値観、そして専門的な指導を受ける機会を求めて、フランスのパリへと向かいました。当時のパリでは、伝統に反旗を翻す印象派などの新しい表現が広まりつつありましたが、スウェーデンの芸術家たちが特に魅了されたのが、人間や自然のありのままの姿を見つめ、確かな描写力で伝えるレアリスムや自然主義的な表現でした。

とりわけフランスの画家ジュール・バスティアン=ルパージュを手本としたスウェーデンの画家たちは、素朴で情緒あふれるその手法を貪欲に吸収し、都市に生きる人々や労働者、目の前に広がる光景をみずみずしく明るい光の下に描き出しました。

カール=フレードリック・ヒル《花咲くリンゴの木》1877年 油彩、カンヴァス スウェーデン国立美術館蔵 Photo:Erik Cornelius / Nationalmuseum

カール=フレードリック・ヒル(1849-1911)は、印象派に深い理解を示した画家です。1870年代にフランスに滞在したヒルは、カミーユ・コローなどバルビゾン派や印象派との出会いを通じて明るく澄んだ色彩を用いるようになりました。本作は彼が1877年春にセーヌ河畔のボワ=ル=ロワに滞在していた際に制作されたものです。この町でヒルは短い花の盛りに十数点の果樹の絵を描きました。満開の白いリンゴの花を照らす穏やかな光と、それを包み込む大気を素早くも確かな筆致で捉えています。

アーンシュト・ヨーセフソン《少年と手押し車》1880年 油彩、板 スウェーデン国立美術館蔵 Photo:Nationalmuseum

本作はアーンシュト・ヨーセフソン(1851-1906)にとって転換点となる時期に描かれました。前年にパリを訪れ、自然光の中で明るい色彩を用いて描く外光派の作品に触れたことが契機となり、本作に見られるように彼の作品も明るい自然主義的なものへと移行しました。フランスの新しい潮流に触れたヨーセフソンは、旧態依然とした美術アカデミーに対して新たな芸術の創造を目指す「オポネンテールナ(Opponenterna:反逆者たち)」と呼ばれる若手の芸術家グループの中心人物となりました。

第3章 グレ=シュル=ロワンの芸術家村

19世紀の絵画芸術におけるリアリズムを実践する方法のひとつに、戸外での制作がありました。バルビゾンに集い戸外制作を実践していたコローやミレーにならい、フランスのいくつかの地域には北欧の芸術家たちのコロニー(共同体)が形成されました。なかでも1880年代前半、スウェーデン出身の芸術家たちが拠点としたのは、パリの南東約70キロに位置するグレ=シュル=ロワンです。

この村にはスウェーデンの画家だけではなく、各国からも芸術家が集まり、のちに日本人画家の浅井忠や黒田清輝も滞在しました。スウェーデンの画家たちは夏のあいだこの素朴で穏やかな田舎町に身を置き、田園生活を送りながら牧歌的な情景を淡く透明感のある色彩で描きました。

ブリューノ・リリエフォッシュ《カケス》1886年 油彩、カンヴァス スウェーデン国立美術館蔵 Photo:Cecilia Heisser / Nationalmuseum

動物画家であるブリューノ・リリエフォッシュ(1860-1939)は、自然環境と野生動物のかかわりに関心を寄せ、鋭い観察眼と構成力でその姿を描きました。本作ではカケスが仲間を追って飛び立つ直前、周囲を見回す一瞬の動きを捉えています。彼は、動物の生存戦略のひとつである、環境へ擬態する姿を好んで描きました。

第4章 日常のかがやき―“スウェーデンらしい”暮らしのなかで

1880年代の終わりころになると、フランスで制作していた多くのスウェーデンの芸術家たちは、それぞれの故郷に戻っていきます。その一因には、都会の喧騒に疲れ、郷愁の念が高まったことが挙げられます。

しかし、最大の理由は、フランスでの経験を経た芸術家たちの心に、「スウェーデンらしい」新たな芸術を作り出したいという希望が芽生えたことにあるでしょう。彼らはスウェーデンに戻ると、自らのリアルにほかならないスウェーデンの日常の暮らしや身近な人の姿にまなざしを向け、その飾らない様子を親しみやすい表現で描きました。

また、近代化の影で失われつつある、スウェーデンの伝統的な民俗文化を主題とする芸術家も現れました。

アンデシュ・ソーン《故郷の調べ》1920年 油彩、カンヴァス スウェーデン国立美術館蔵Photo: Viktor Fordell / Nationalmuseum

アンデシュ・ソーン(1860-1920)は、国際的に最も成功を収めた北欧の画家の一人です。1896年にパリから、スウェーデン中部に位置する故郷ダーラナ地方へ戻り定住すると、この地に住む人々や失われつつある伝統的な民俗文化に目を向けました。最晩年に制作された本作には、ダーラナ地方の民俗衣装を身にまとい、リュートを奏でながら歌う女性の気高い姿が描かれています。

カール・ラーション《カードゲームの支度》1901年 油彩、カンヴァス スウェーデン国立美術館蔵 Photo:Anna Danielsson / Nationalmuseum

スウェーデンの国民的画家として知られるカール・ラーション(1853-1919)。彼が妻のカーリンとともに改装した家と、そこでの家族の暮らしを描いた水彩画は、画集として広く一般に親しまれました。本作では、奥の居間で大人たちが当時流行したカード遊び「ヴィーラ」を始めるのでしょう、ダイニング・ルームではカーリンがゲームの合間に楽しむ酒類を準備しています。テーブルの左端に座るのは夫妻の子どもであるブリッタとチャシュティです。暗く凍てつく冬の戸外とは対照的に、オイルランプとろうそくの灯りが家庭の温かく幸福な情景をやさしく照らし出しています。

第5章 現実のかなたへ―見えない世界を描く

フランスから帰国したスウェーデンの画家たちのなかには、目の前の事物を客観的に描写することよりも、自身の感情や気分を表現することに次第に関心を寄せるようになった者たちもいました。

こうした動きは、近代化とともに発展した科学や合理主義への反動と見ることができ、同時代のヨーロッパ各地で展開された象徴主義の流れとも呼応しています。彼らは絵画の主題として、自国スウェーデンにまつわる宗教や文学、歴史、寓話などを取り上げ、目に見えない内面的な世界を象徴的に示そうとしました。風景画においても、画家自身の主観やスピリチュアルな雰囲気を醸し出すような表現が生み出されました。

アウグスト・ストリンドバリ《ワンダーランド》1894年 油彩、厚紙 スウェーデン国立美術館蔵 Photo:Erik Cornelius / Nationalmuseum

19世紀北欧を代表する小説家、劇作家アウグスト・ストリンドバリ(1849-1912)は、専門的な美術教育は受けていないものの、精神的危機に陥った時期に絵画制作に没頭しました。彼は本作の主題を「鬱蒼とした森」とし、加えてこの作品を「ワンダーランド、光と闇の闘い」と解釈しました。後年の論考で、元々彼は「日没の海が見える森の中」を描こうとしていましたが、描くうちに森は洞窟に、明るい中央部分ははるか彼方へ広がる光の空間へと変容していったと回想しています。このような偶然性にまかせた実験的な表現に、ストリンドバリの絵画制作に対する関心の在りかがうかがえます。

第6章 自然とともに―新たなスウェーデン絵画の創造

1890年代から世紀転換期にかけて、スウェーデンの風景画は大きな変化を迎えました。かつては「描くべきもののない国」とさえ言われたスウェーデンでしたが、森林や湖、未開の原野や山岳地帯といったスウェーデンならではの自然が芸術家たちによって「発見」され、それらを描くにふさわしい表現方法がさまざまに模索されました。

たとえば、カール・ノードシュトゥルム、ニルス・クルーゲル、リッカッド・バリは、スウェーデン西海岸の町ヴァールバリを舞台に、海岸線や内陸の平原を題材とし、ポール・ゴーガンの作品に示唆を得て、自然の外観と構図そして自身の感覚を統合する独自の表現方法を追求しました。なかでも、スウェーデン絵画の真骨頂といえるのが、夕暮れや夜明けの淡く繊細な光の表現です。

彼らの作品からは1880年代の作品に見られた明るく輝く日の光は消え去り、代わりに北欧の夏の夜に特有の、長い時間続く薄明の光が叙情をたたえてスウェーデンの豊かな自然の風景を照らし出すようになりました。

グスタヴ・フィエースタード《冬の月明かり》1895年 油彩、カンヴァス スウェーデン国立美術館蔵 Photo:Hans Thorwid / Nationalmuseum

グスタヴ・フィエースタード(1868-1948)は、スウェーデンの自然と深く結びついた冬の情景を得意とした画家です。1897年にはスウェーデン中部ヴァルムランド地方のラッケン湖畔に定住しました。本作では、星空のもと樹霜に覆われた雪深い森が広がっており、細かな筆致で色が重ねられ、雪の冷たい輝きが装飾的に表現されています。フィエースタードの作品は装飾的な性格が強く見られ、彼が描いた下絵をもとに彼の姉妹や妻のマイヤがタペストリーに仕立てることもありました。

エウシェーン王子《静かな湖面》1901年 油彩、カンヴァス スウェーデン国立美術館蔵 Photo:Anna Danielsson / Nationalmuseum

エウシェーン王子はスウェーデン絵画の黄金期を代表する風景画家の一人です。本作は、1890年代に始まるスウェーデンのナショナル・ロマンティシズムを象徴する一作であり、王子が夏を過ごしたストックホルム南部に位置するティーレスウーで描かれました。ナショナル・ロマンティシズムとは、その国や民族のアイデンティティを示す画題を見出し、それを表現するにふさわしい方法を追求する傾向を指します。本作では雲に覆われる空の彼方の地平線を、北欧の夏の夜の特徴である、長い時間続く薄明の淡く繊細な光が照らし、静けさをたたえた画面に永遠性を与えています。

ニルス・クルーゲル《夜の訪れ》1904年 油彩、カンヴァス スウェーデン国立美術館蔵 Photo:Nationalmuseum

ヴァールバリ派を代表する風景画家ニルス・クルーゲル(1858-1930)は、ファン・ゴッホの素描から着想を得て、油彩の上にインクの点や短いストロークを重ねる独自の描法を確立、画面全体の統一を目指しました。本作では、短いストロークによって表現された北欧の夏の夜を象徴する青い光が、空を満たすだけではなく地上にも降り注ぎ、草を食む馬たちのいる風景に壮大で幻想的な雰囲気を生み出しています。

戦後、家具や照明などの北欧デザインが先行して国際的評価を確立しましたが、21世紀に入ると絵画も再評価が進み、展覧会でも人気が高まってきています。そのなかで、本展は、近代黄金期のスウェーデン絵画を過去最大規模で紹介する画期的な試みです。カンヴァスに宿る日常への温かな眼差しや、四季の移ろいをすくい取る静謐な叙情は、北欧画家ならではの趣にあふれています。ぜひ、会場で作品と間近に向き合い、スウェーデン絵画の魅力を存分に体感してみてはいかがでしょうか。(美術展ナビ)

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