2025.12.05
(最終更新:2025.12.05)

13人の男女がポスターやチラシを持って笑顔でカメラを見つめている

映画ビジネスゼミの3年生13人が企画・運営の責任を持つ

編集部

日本大学芸術学部映画学科の学生が、12月6日から12日まで、東京・渋谷のユーロスペースで映画祭「はたらく×ジェンダー」を開催する。今年で15回目を迎える映画祭は、テーマ設定から作品選定、上映交渉、ゲスト交渉、チラシやパンフレットのデザイナー探しから制作まで、すべて学生が責任を持つ。この映画祭に関わりたくて、入学する学生もいるほど、思い入れは強い。(副編集長・藤田淳)

「当事者意識を持てるかどうか」がポイントだった

机に座って笑顔でカメラを見つめる13人の男女
映画祭に向けて、最後の準備が続いていた

映画祭開催が迫る11月27日、東京・練馬区の日大芸術学部のキャンパスを訪ねた。教室では、映画学科映像表現・理論コース映画ビジネスゼミの学生13人が出迎えてくれた。

なぜ、今回のテーマを選んだのか。全体統括の松本真優さんは、「当事者意識を持てるかどうか」がポイントだったという。

宗教、冤罪事件、家族問題、ロシア……様々なテーマ検討

机に並べられた3枚のポスター
最後は怒濤の勢いで「はたらく×ジェンダー」に意見集約されていった

4月から6月にかけて話し合う中で、宗教、冤罪(えんざい)事件、家族問題、ロシアなど様々なテーマが検討された。「私たち学生が扱うべきものなのか」「開催時期の12月にふさわしいのか」という観点から議論を重ね、「はたらく×ジェンダー」に「怒濤(どとう)の勢い」で意見が集約されていったという。

松本さんは「学生それぞれが、働くということやジェンダーに対する考えを持っている。色々な人の考え方がクロスするという意味で、『×』には交差点という意味を込めた」と話す。

ネット配信されている作品、映画館で上映する意義は?

映画祭では、1933年から2020年までに公開された16作品を上映する(年代はいずれも日芸映画祭調べ)。作品統括の浜島藍さんは「まずテーマに従って132本の作品を選定。そこから手分けして、テーマ性、集客性などの観点から検討を重ねた。特に、ネットで配信されている作品は、映画館で上映する意義があるのかをすごく考えた」という。

着物姿の女性2人。左の女性はたばこを吸っている
「君と別れて」 (1933年、成瀬巳喜男監督) ©1933松竹株式会社

注目作品の一つは、成瀬巳喜男監督の「君と別れて」。今年生誕120年でもある成瀬監督初の長編オリジナルシナリオで、生活のため芸者として働く女性の強さと弱さを、無力な男性の視点と交差させながら描き出す。作品担当の藤井万夕さんは「活弁と三味線付きの上映を楽しんで欲しい」と話す。

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「映画はアリスから始まった」 (2022年、パメラ・B・グリーン監督)

「映画はアリスから始まった」は、世界初の女性監督でありながら映画史から「忘れられた」存在だったアリス・ギィ=ブラシェの半生を描くドキュメンタリー作品。担当の本間大翔さんは「フェミニズムの先駆けとなる作品を撮った監督で、映画学科の学生にとって意味を持つ作品」と話す。

過去最多4作品で海外の権利元と学生が直接交渉

赤ちゃんをだっこする女性
「未来よこんにちは」 (2016年、ミア・ハンセン=ラブ監督)

今年の映画祭では、韓国の「下女」、ドイツの「マリア・ブラウンの結婚」、イギリスの「この自由な世界で」、フランスの「未来よ こんにちは」の過去最多となる4作品で海外の権利元と直接交渉を行った。

抱き合う男女を窓ガラス越しに女性が見つめている
「下女」 (1960年、キム・ギヨン監督)

「下女」を担当した上田瑛万さんは「権利元が最初は分からず苦労した。最終的には監督の遺族と英語でコミュニケーションを取り、許可をもらうことができた」と振り返る。

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「マリア・ブラウンの結婚」 (1978年、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督) ©️ Rainer Werner Fassbinder Foundation

何かをのぞき込むように見ている女性2人
「この自由な世界で」 (2008年、ケン・ローチ監督)©︎Park Circus Marketing

パブリシティ担当の酒井優和さんは、「マリア・ブラウンの結婚」と「未来よ こんにちは」をメインで担当。言語の壁は大きかったが、「今まで自分が小中高で身につけた英語が、ビジネスの場で通用したことはすごく楽しかった」と、苦労も前向きに捉えていた。

運営予算は100万円、円安で権利料高騰

映画祭の運営予算は大学からの100万円だけ。海外作品の権利料は円安の影響で高騰しており、値引きを進めながらの交渉となった。また、チケットの売り上げは、会場を提供しているユーロスペースに渡す仕組みのため、学生たちの収益にはならない。ただ、今年の売り上げが翌年以降の劇場貸し出しに影響するため「後輩たちに引き継ぐためにも、チケットはできるだけたくさん売りたい」と意気込みを語った。

(その他の上映作品)
・「浪華悲歌」 (1936年、溝口健二監督)
・「私たちはこんなに働いてゐる」 (1945年、水木荘也監督)
・「巨人と玩具」 (1958年、増村保造監督)
・「その場所に女ありて」 (1962年、鈴木英夫監督)
・「にっぽん戦後史 マダムおんぼろの生活」 (1970年、今村昌平監督)
・「ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル 1080,コメルス河畔通り23番地」 (1975年、シャンタル・アケルマン監督)
・「インタビュアー」 (1978年、ラナ・ゴゴベリゼ監督)
・「あゝ野麦峠」 (1979年、山本薩夫監督)
・「82年生まれ、キム・ジヨン」 (2020年、キム・ドヨン監督)
・「ある職場」 (2020年、舩橋淳監督)

art_02297_ポスター
日芸映画祭「はたらく×ジェンダー」

・名称:日芸映画祭「はたらく×ジェンダー」
・会期:2025年12月6日(土)~12月12日(金)
・会場:ユーロスペース(東京都渋谷区円山町1-5 KINOHAUS3F)
・主催:日本大学芸術学部映画学科映像表現・理論コース映画ビジネスゼミ、ユーロスペース
・上映作品数:16作品 ・料金:前売券1回1000円、3回券2400円/当日券一般1400円、学生・シニア1200円、3回券3000円
・問い合わせ:ユーロスペース(TEL:03-3461-0211)

藤田淳

藤田淳
( ふじた ・じゅん )
朝日新聞SDGs ACTION!副編集長。1993年に朝日新聞社入社。山形、浜松、前橋で勤務後、東京、西部、大阪のスポーツ部でサッカーを中心に担当、ドイツ、南アフリカW杯を現地で取材した。欧州、アフリカなど35カ国、地域を訪問。その後、デジタル編集部、マーケティング戦略本部などを経て、2025年4月より現職。

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