もうひとつは、調和を重んじる文化だ。『あんたが』が目指しているのも、対立ではなく「よりよいバランスへの着地」だろう。勝男との“相互理解”を物語の希望的なゴールにすることで、社会構造への根本的な問いかけは抑制され、穏やかな解決が優先される。結果として男性中心社会への構造的な批判は、個人間の「理解」や「意識の改善」という穏便な枠組みに収束。性別や立場関係なく「みんなつらい」は充分わかるが、それを強調しすぎると本来の当事者の視点が見えづらくなる。全方位への配慮ゆえにテーマがぼやける問題を、近年のドラマは孕んでいるように思う。
フェミニズムドラマの未来図を考えてみる
物語も終盤となり、勝男の料理の腕も上がり続ける。2人の関係性はどこへ向かうのか。
『あんたが』は性役割への疑問をポップな形で提示したという意味で、確実に社会を一歩前進させうる作品だ。同作の作者・谷口菜津子原作のドラマといえば『今夜すき焼きだよ』もジェンダーロールへの違和感が描かれた良作だが、それが深夜ドラマだったことを思うと、今作がプライムタイムで多くの人にリーチできたことは本当によろこばしい。しかし、真にエンパワメントをもたらす作品を求めるなら、今後は“マイルド”の先へと踏み出す勇気も必要になってくる。
ただ理解し合うだけでなく、女性がキャリアや自己実現を真に掴み取る物語。あるいは、男性が“理解ある人”という優位な立場を降り、構造的な不均衡に対して加害者意識を持つことを恐れない物語。視聴者を癒やすことだけでなく、あえて不快感を与え、社会の現状に揺さぶりをかける作品こそが、これからの日本のエンタメが目指すべきフロンティアだと思う。
