好評いただいております日経BOOKプラス「手前みそ」企画。特別編として井口哲也・日経BP社長CEOが参戦です。2026年の3大予測とともに、お薦めの「日経の本」を全力で紹介してまいります。

先日は書店の皆さまへの日経秋季企画説明会、お疲れさまでした。その折の井口さんの「推し本」紹介、まさに「手前みそ」企画にぴったりということで、日経BOOKプラス読者の皆さんに改めてのご紹介をお願いします。

井口哲也社長CEO(以下、井口):企画説明会での書籍紹介は、「手前みそ」連載で四季折々、推し本を紹介してくれている日経BOOKSユニットの赤木裕介部長たちにいつも任せていますが、今回はちょっと趣向を変えて「2026年の3大予測とお薦めの本」についてお話ししました。2025年を振り返っても国内外、様々な分野で大きな変化のうねりを感じる中、さて2026年は何が起こるのか。私なりの「勝手予測」に基づいて適切なアクションを始めるために読んでいただきたい「日経の本」を紹介します。

2025年秋季企画説明会にて井口哲也社長CEOが3大予測と推し本を紹介しました(写真:日経BPアーカイブ映像より)

2025年秋季企画説明会にて井口哲也社長CEOが3大予測と推し本を紹介しました(写真:日経BPアーカイブ映像より)

早速、第1の予測と推し本からお願いします。

AIが発展した、その先は

井口:まずは「AI活用の深化」です。米オープンAIの生成AI「 ChatGPT」が登場して「おぉ、すごいな!」と皆が驚いたのが2022年。瞬く間に世界中で使われるようになり、企業内での活用も進んで、例えばそれまで時間をかけてやっていた議事録や企画書の作成などが簡単にできるようになりました。さらに自律的に働くAIエージェントを採用する企業も増えている。

 2025年までの動きを見ると、いち早く導入する企業と様子見をする企業があり、導入後も有効に活用できている企業と活用が進まない企業があり……といった濃淡がありました。これが2026年になると、AIのフル活用によって飛躍的に生産性を高める企業が続々と出てくるでしょう。すると当然、他社も負けられないので必死になる。AIを活用するのは当たり前として、活用の深化と具体的な成果が企業の存続をも左右するようになってきます。

 そういう中でぜひ読んでいただきたいのが、『
アフターAI 世界の一流には見えている生成AIの未来地図
』です。著者のシバタナオキ(柴田尚樹)さんは投資家としてシリコンバレーを中心に1000社超の生成AIスタートアップを精査し、数十社へ投資してきた方で、本書には「AIが発展した先に何があるのか」について具体的かつ丁寧に書かれています。これを読めば、世界で、日本で、いろいろな業界で何が起こっていくのかが見えてくる。日本企業の「勝ち筋のつかみ方」についての提言も示唆に富んでいます。来年以降を見据える上で、とても参考になると思います。

(写真:日経BPアーカイブ映像より)

(写真:日経BPアーカイブ映像より)

BOOKプラスで『アフターAI』の「まえがき」や抜粋記事、シバタさんのインタビューをお読みいただけます。

井口:『アフターAI』のほかにも、AIに関する本は充実してきましたね。

2025年発行タイトルのうち、書名に「AI」を含む作品だけでも15冊以上になります。

井口:書籍専業の日経BOOKSユニット以外にも、テクノロジー系の媒体やビジネス系の媒体で編集されるものもあり、AIを多角的に捉えたラインアップをそろえられるのが日経BPの強みだと思う半面、「どれを読めばいいのか分からない」という方もいらっしゃるだろうと心配していましたが、AI版の「手前みそ」で分かりやすく紹介していましたね。

IT系書籍担当の安東一真部長と田村規雄部長が「AI本」などの選び方を指南する「手前みそ」シリーズ、おかげさまでたくさんの方にお読みいただいています。

「AIエージェント」については、日経トレンディの澤原昇編集長が『
日経テクノロジー展望2026 未来をつくる100の技術
』から「もっと知りたい技術」として紹介している記事がありますので、こちらもぜひご一読を。

井口:マーケティングチームの頑張りはもちろん、書籍の編集担当者がそれぞれに情報発信をするのに加え、部長・編集長の皆さんの側面支援も手厚く、心強いなあ。……何だか褒めてばかりだけど「手前みそ」コラムだからね(笑)。

お褒めの言葉、大歓迎です(笑)。というところで、第2の予測、お願いします。

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「人的資本経営」に乗り遅れるな

「人的資本経営」に乗り遅れるな

井口:次は「人的資本経営」。これが企業にとってシビアなテーマになってきます。

 先ほどの「AI活用の深化」とも関係するのですが、AIが企業内で本格的に稼働するようになると、例えば情報収集の生産性は飛躍的に高まり、事務作業の多くはAIがやってくれるようになる。これまで人間が分担して時間をかけてやるのが当たり前だった仕事をAIがまるっと引き受けてくれる時代に、さて人間は何をするのか。ビジネスモデルが再構築され、人間がやるべき仕事が再定義されていく中、経営目線で考えると、社員をいかに活性化するかが重要な課題になります。リスキリングなどにも積極的に取り組み、モチベーションをしっかり高め、適切なミッションを提示して、“人間ならではの力”を最大限に発揮してもらわなきゃいけない。

 そういう中でお薦めしたいのが、『
夢中になれる組織の科学 働きがいのメカニズムを解き明かす
』です。著者は丸井グループのCWO(チーフ・ウェルビーイング・オフィサー)を務める小島玲子さん。産業医として丸井グループに加わり、その専門的な知見に基づいて、社員が最大限に能力を発揮できる「ウェルビーイング経営」のあり方を提案されました。そして、その声は青井浩社長に届き、小島さんをCWOに抜擢(ばってき)し、彼女の理論を実践した。この本には、その理論と実践の記録がまとめられています。「仕事に夢中になって能力を発揮する――そんな『フロー状態』の従業員が働く組織はどうつくるのか。産業医の筆者が科学的に解き明かす」と銘打たれた本書、人的資本経営を考える上で、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

(写真:日経BPアーカイブ映像より)

(写真:日経BPアーカイブ映像より)

BOOKプラスで「なぜ産業医が経営に参画することになったのか」を記した第1部や、書籍のベースになった連載記事が読めるので、ご参考に。

井口:もう一冊は、『
SHIFT解剖 究極の人的資本経営
』です。SHIFTというIT企業、ものすごい勢いで伸びています。そして、その経営がものすごくユニークです。――「前職を問わない」採用、「トップガン」と呼ばれる社員の隠れた能力を引き出す仕組み、急成長した社員が稼げば「前年比で600万円の昇給」が当たり前に行われる風土。これらが「上場10年で売上高50倍」という驚異的な数字に結実した。人の能力をとことん引き出し、企業の成長につなげる――。ね、紹介文を読んだだけですごく面白そうでしょう(笑)。日経ビジネスの飯山辰之介記者が丹下大社長ら経営陣と現場への密着取材で「究極の人的資本経営」の解剖を試みた本書、これからの企業の形を考える上で、多くの学びと刺激を得られるはずです。

(写真:日経BPアーカイブ映像より)

(写真:日経BPアーカイブ映像より)

こちらもBOOKプラスの関連記事をご参考に。

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バブル崩壊にいかに備えるか

バブル崩壊にいかに備えるか

井口:3つ目の予測は経済の動きについて。2026年は大きな変化が起こる可能性があるなと考えています。

 例えばAIの発展による大変革は、今後5年、10年の単位で考えると間違いなく起こります。これはインターネットが登場したときと同じで、「大変革が起きるぞ」と言われた10年後には、社会の仕組みがガラリと変わっていた。ではその大変革は直線的に実現したのかというと、その途中、膨れ上がる期待と現実との間に大きなズレが生じて、バブル膨張からバブル崩壊という事態が生じました。その後、現実が追いつく形で大変革が進むわけですが、今のAIブームの過熱ぶりにはバブルの予兆が見え隠れしているように思います。

 日経BP AI・データラボの中田敦所長によると、AIを動かす半導体製造のトップランナー、米NVIDIA(エヌビディア)が今年と来年で半導体を2000万個つくるという。金額にするとざっと77兆5000億円。設備投資として考えると減価償却5年で年15兆5000億円ほどの費用になる。加えてAIチップを利用するための電力は東京電力の年間発電量ぐらい必要で、東京電力の売り上げは6兆8000億円ほど。足し合わせると約22兆円になります。では、誰がこのコストを支払うのかと考えると、AI市場を先導するオープンAIの売り上げが推定で2兆円と言われますから、とてもじゃないけど吸収できそうにない。AI活用を本格化する企業が急増する中、新たなサービスが続々と発表され、投資マネーがどっと流れ込む一方で、AIをスムーズに駆動させるための電力は逼迫、サービスを支えるデータセンターなどの負荷はすさまじい勢いで増えている……。期待や理想と現実とのズレには、しっかり目を配っておきたいところです。

このあたりはクロサカタツヤさんの新著『
AIバブルの不都合な真実
』が参考になりそうです。

井口:過去30年ほどを振り返るだけでも、インターネットバブル崩壊、リーマン・ショック、コロナ危機などがありましたが、その度に日本や世界の経済は危機を乗り越えてきた。どうやって乗り越えたかをすごくざっくり言えば、お金をジャブジャブと供給して何とかしてきたわけです。が、それは物価が上がらず、金利も上がらないという前提に立てたから可能だった。しかし今はインフレが起きていて、金利も簡単には下げられない。むしろ上げなきゃいけないかもしれないという中で、果たして次の危機を乗り越えられるのか……。

 そんな問題意識を共有した上でお薦めしたいのが、『
ドル覇権が終わるとき インサイダーが見た国際金融「激動の70年」
』です。著者のケネス・ロゴフさんは各国のデフォルト(債務不履行)の歴史を詳解して世界的なベストセラーとなった『
国家は破綻する 金融危機の800年
』(カーメン・ラインハート氏との共著)で知られる国際金融の権威。本作では「基軸通貨ドル」の歴史を検証し、ドル覇権の時代が曲がり角を迎えたことを指摘、低金利時代の終わりと金融危機リスクの上昇に警告を発しています。

 急激な変化の真っただ中にいる私たちはつい目の前の出来事に右往左往しがちですが、歴史の大きな流れを知ることは、これからを見通すためのバックボーンになります。投資の原則の1つに「最悪を絶えず想定して、取り得るリスクを取る」とあります。そんなことを念頭に置きつつ、500ページ超の大作ですが、ぜひ年末年始のお休みにじっくりお読みいただけたらと思っています。

(写真:日経BPアーカイブ映像より)

(写真:日経BPアーカイブ映像より)

2026年の3大予測と推し本のご紹介、ありがとうございました。

井口:今回紹介したもの以外にも「日経の本」、良い作品がたくさんあります。2026年版の「予測本」も盛りだくさんです。BOOKプラスで「はじめに」や関連記事をお読みいただけますので、ぜひ「あなたのための一冊」を探してみてください。そうそう、予測といえば今年は「日経BP 10大徹底予測」を発表しました。40を超える専門メディアを持つ日経BPの総力を挙げて、新たな時代の羅針盤を目指しました。またまた「手前みそ」で恐縮ですが、とても面白いです。こちらもぜひご注目ください。

「日経BP 10大徹底予測 2026」特設ページはこちらです

(写真:Olga Tsikarishvili/stock.adobe.com)

(写真:Olga Tsikarishvili/stock.adobe.com)

構成=坂巻正伸 (日経BOOKプラス 手前みそ班)

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