(一穂ミチ著/文芸春秋/1980円)

 一穂ミチさんの、約3年ぶりの新作長編をご紹介します。

 タクシードライバーとして働く青吾のもとに、同居中の恋人である多実が旅行中、長崎県沖で海難事故に遭ったという知らせが届きます。しかも青吾の知らない男性と2人連れだったと。多実にいったい何があったのか。仲良く暮らしていたはずだったのに、他に好きな人がいたのだろうか。

 行方不明のままの多実の不在に落ち着かず、戸惑う青吾の前に、多実と一緒に旅行に出た男性の妻だという沙都子が現れ、それぞれのパートナーの足取りを追うため、ふたりは五島列島へ向かいます。

くまざわ書店辻堂湘南モール店(藤沢市)店長・奥田祐子

 相手のことをよくわかっているつもりでも、実は何も知らなかったのではないか。パートナーが無言で去ってしまい、ふたりに残された一番大きなものは、語られなかった秘密。いったい何があり、なぜ命を落とさなくてはならなかったのか。調べても謎は深まるばかりです。大切な人の突然の不在と喪失が、読み手にも伝わってきます。

 そもそも本当に事故だったのか。終盤、すべての謎が明かされ、過去の出来事と現在が絡まりつながる、怒濤(どとう)の展開に息をのみます。大切な人は帰ってこないという喪失感と、あの時こうしていたらという後悔と。残されたふたりはそれぞれどう生きていくのか。一穂ミチさん傑作長編、ミステリーともいえる物語を、ぜひお楽しみください。

店長から一言
 街はクリスマスの飾り付けがされ、キラキラして歩くだけで楽しい季節ですね。湘南モールFILLも大きなツリーや飾りがお子さんに大好評です。来年の手帳やカレンダーも出そろっています。ご来店をお待ちしております。
▼くまざわ書店辻堂湘南モール店https://www.kumabook.com/shop/tsujido-shonanmoll/

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