寛一郎(左)と福地桃子

PROFILE: 右:福地桃子/俳優 左:寛⼀郎/俳優

PROFILE: 右:(ふくち・ももこ):1997年⽣まれ。東京都出⾝。2025年、主演映画「恒星の向こう側」にて、第38回東京国際映画祭 最優秀女優賞を受賞。近年の主な出演作にドラマ「なつぞら」(19/NHK)、「鎌倉殿の13⼈」(22/NHK)、「舞妓さんちのまかないさん」(23/Netflix)、「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」(23/NHK)、「わかっていても」(24/Abema)、「照⼦と瑠⾐」(25/NHK)、「ラジオスター」(26/NHK)、映画「サバカン SABAKAN」(22)、「あの娘は知らない」(22)、「湖の女たち」(24)、「ラストシーン」(25)、舞台「千と千尋の神隠し」(24・25)、「夫婦パラダイス」(24)など。

(かんいちろう)1996年⽣まれ、東京都出⾝。2017年にデビュー後、同年に出演した映画「ナミヤ雑貨店の奇蹟」で第27回⽇本映画批評家⼤賞の新⼈男優賞を受賞。翌年に公開された「菊とギロチン」では多数の新⼈賞を受賞した。近年の主な出演作に、映画「ナミビアの砂漠」(⼭中瑶⼦監督)、ドラマ「HEART ATTACK」、NHK⼤河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」、NHK連続テレビ⼩説「ばけばけ」ほか、NHK100周年ドラマ『火星の女王』に出演。映画では「爆弾」、「ラストマン -FIRST LOVE-」。26年2月には「たしかにあった幻」(河瀬直美監督)、同年に「恒星の向こう側」(中川龍太郎監督)も待機している。

舞台「千と千尋の神隠し」(24)や、是枝裕和監督の「ラストシーン」(25)、第38回東京国際映画祭コンペティション部門最優秀主演女優賞(映画「恒星の向こう側」)などで注目を集める俳優、福地桃子。彼女が主人公の香里を演じる映画「きみはそこにいて」が、11月28日に公開された。

人に対して恋愛感情を抱くことも性的な欲求を抱くこともない “アロマンティック・アセクシャル”の香里は、孤独を抱えて生きている。監督・脚本の竹馬靖具(ちくま・やすとも)が福地にあてがきしたという香里の芯の強さと葛藤を、福地が抑えた演技で体現した。彼女の唯一の理解者として、特別な絆を結ぶ健流(たける)を演じるのは、「ナミビアの砂漠」(24)や「爆弾」(25)、「ばけばけ」(25)など、どんな役も唯一無二の個性で輝かせる俳優、寛一郎。親友・慎吾(中川龍太郎)への想いを断ち切れないまま、香里と家族になろうとしていた健流は、入籍を控えたある日、自死を選ぶ。

本当の健流を知るために慎吾に会いに行く香里と、自分を偽り成功を手にしたことに苦悶する慎吾。海辺の街での2人の数日間が描かれる本作の原案は、慎吾を演じた中川龍太郎によるものだ。彼が親友を自死で失った実体験は、彼の監督・脚本作「走れ、絶望に追い付かれない速さで」(15)や「四月の永い夢」(17)に反映されてきたが、今回は盟友・竹馬靖具に脚本と監督を託し、中川は自分の分身とも言える慎吾を演じることに専念している。

中川のパーソナルな体験から生まれた本作について、福地と寛一郎に役への向き合い方や作品のテーマ、3人のコラボレーションについて聞いた。

映画「そこにきみはいて」場面カット

役を演じる上で意識したことは?

寛一郎(左)と福地桃子

寛一郎(左)と福地桃子

——脚本を最初に読んだ時の、率直な感想を教えてください。

福地桃子(以下、福地):それぞれに臆病さを持っている香里、慎吾、健流の3人が、勇気を持って、自分の内側と向き合う話だと思いました。そもそも、自分の内側にある想いを人に伝えるということは、とても勇気のいることだと私は思っています。香里のように、その想いが多くの人が感じているものとはまた別のものとなると、さらに怖いことだと思うんです。それでも香里のように向き合い続けることで、誰かの救いになるのかもしれないということは、脚本を読んでいる時も、演じている時も感じていました。

寛一郎:僕は脚本に対して客観的な意見があまり言えないんです。というのも、原案の中川(龍太郎)さんのことを、自分が二十歳の頃から知っていて、中川さんの事情(親友の自死)も知っています。その体験を反映した(中川が監督・脚本を務めた映画)「⾛れ、絶望に追いつかれない速さで」も観ていました。その前提と知識を含めて脚本を読むと、なんですかねえ……。僕らは生きているので、残された側の気持ちしか分からないんですよね。すごく抽象的ではあるんですけど、読み終わった後、残された側が、何をどう信じるかということだよな、と思いました。「自分がこうしていたらこうだったかもしれない」という自責になってしまうことではあるんですけど、でも多分、彼ら(香里や慎吾)が思い描いている健流の最後と、実際に映像に映っている健流の最後には、多分乖離があって。結局こう、人と人とは完璧に分かり合えないけれど、分かり合いたいと思う気持ち、分かろうと思う気持ちしかないな、という感想はありました。

——香里は福地さんへの「あてがき」だったそうですね。

福地:もともとは中川さんが監督をするというお話でしたが、その後、中川さんが「喪失」についての話を今までとは違う視点で撮っていきたいということになり、中川さんが信頼している竹馬さんに監督をお願いすることになったという経緯があります。竹馬さんと初めてお会いした時に、お互いに自分についての話をしました。そういう丁寧なやりとりを経て出来上がった香里という人物を、責任を持ってやり遂げたいなと思いました。

——香里というキャラクターに、自分が反映されていると感じましたか?

福地:自分とすごく重なる部分があると感じましたし、外側から見た時にそこを魅力的だなと思うことができたんです。自分の良さってなかなか分からないし、自分を認めてあげるのは難しいけれど、香里を通して自分が認められたような気持ちになることが、撮影中にありました。

——福地さんが、香里を通してご自分のどんな長所に気づかされたのかをお聞きしたいです。

福地:自分の内面や、自分の大切な人に対して、粘り強くコミュニケーションをとるところかなと思います。香里の性質は「アロマンティック・アセクシャル」という言葉で表現されていますが、香里自身はそう呼ばれることにしっくりこないんだと思います。だからこそ、人との関わりを止めずに、自分が感じているものがなんなのかを、健流との関係の中で、追求し続けたと思うんです。そこは今回、香里という人物を描く上で、とても大事な要素だと感じていました。

——寛一郎さんは健流役にどのようにアプローチしたのでしょうか。

寛一郎:役の作り方は役者さんによって違うと思うんですけど、僕は基本的に自分をベースに作っていきます。今回の健流との大きな違いは、まず僕は生きているということ。もう一つは、異性や同性に対する気持ちが違います。そこもいろいろと考えましたが、まず本質的なところとして、彼の持っている孤独や、人に対してレイヤー分けをするところは、ほとんど自分から引っ張ってきました。

——健流がクイアであること、香里がアロマンティック・アセクシャルであることへのアプローチもお聞かせください。

寛一郎:僕は、知り合いに近い人がいたので、話を聞きました。人に対して抱く感情には大差がないんです。ただ、ここに社会というものが介在すると、いろいろとややこしくなる。逆に言えば、それだけなのかなと思ったりもする。もちろんそこが一番の弊害であり、大変なところだけど、人が人を好きになったり、社会とうまくいかなくて落ち込んでしまう、嫌になってしまうという感情の普遍性は、一緒なんじゃないかなと思います。それは元々わかっていたことなんですけど、今回再確認したところではあります。

福地:私も、それに近い感覚を持つ人と、出会ったことがあります。でも今回香里を演じる上では、自分の人生の中での人との距離感の作り方や、それを人からどう感じられているのかを振り返る作業に重きを置きました。そこから香里の孤独や、自分の内面に向き合う気持ちを探っていきました。

——健流の一周忌の際に、以前はコンサバティブな服を着ていた香里が、レザーのライダースを着ているのが印象的でした。あの衣装はどうやって決めたのでしょうか。

場面カット。健流の一周忌に訪れる慎吾と香里

寛一郎:竹馬さんが、「香里にライダースを着せたい」って言っていた気がします。狙いについては……なんて言ってたっけ?

福地:「変化を出したい」と言ってました。素材感がハードで、露出のないデザインなので、人を寄せ付けない強い印象を出したいって。普段は、自分で役について考えて、衣装について意見を伝えることもありますが、今回は竹馬さんからいただいた衣装から、香里について考えました。あの衣装には香里の防衛本能みたいなものが表れているのかなと。

「死」「喪失」からの「再生」

福地桃子

——「そこにきみはいて」の撮影はいつでしたか?

寛一郎:去年(2024年)の1月ですね。もうすぐ2年になります。

福地:「去年」というとすごく最近のことに感じるけど、2年というとだいぶ前ですよね。

——その1年後、中川監督の映画「恒星の向こう側」にお2人そろって出演し、夫婦役を演じています。福地さん演じる妻・未知が子を宿しているということで、「生」の物語になっているのでしょうか。

寛一郎:「⾛れ、絶望に追いつかれない速さで」から10年以上経てもなお、中川さんの中でまだ消化しきれていないものがあったんだと思います。そこで今回の「そこにきみはいて」では、監督をするのではなく役者として出演したことで、初めて彼の中の節目になったのだと思いました。今回は「死」「喪失」からの「再生」を描いていましたが、次の「恒星の向こう側」では「生」「誕生」の話を作り出しています。すごく美しい流れだなと思います。

福地:「そこにきみはいて」と「恒星の向こう側」は、近い人たちで作っていることもあり、意識しなくてもつながっているものですし、それを分けることは難しいと思っています。寛一郎さんと私に関しても、短い期間の中で、2作続けてご一緒した関係性が必ず映っていると思います。両方ともぜひ見てほしい作品です。

——中川さんの「人生」への思いが詰まっている作品に立て続けに呼ばれる役者として、特に寛一郎さんは、自分の体を貸す、代弁する、という感覚なのでしょうか。

寛一郎:そんなふうに思ったことはないですけど(笑)、中川さんとはとにかくたくさん話しました。浜松(静岡県)で撮っていて、中川さんとはホテルの部屋が隣同士でした。撮影が終わって、明日も朝が早いから寝る前に1本だけタバコを吸って、1杯飲もうとなって、結局深夜3時くらいまで話しちゃう、みたいな(笑)。撮影期間が本当に短い作品だったので、毎日朝早くから夜遅くまで現場があるんです。僕はそういう作品が好きなタイプではあるんですけど。

——2時間くらいしか眠れないのでは……。

寛一郎:その夜もまた「ちょっとだけ話そうか」となって、また3時くらいになってしまうという毎日でした。そこで、中川さんにとっての健流というもののあり方も聞けました。彼も親友を亡くしてだいぶ時間が経っているので、彼の主観ではなく客観的に、「健流ってこういうものだったんじゃないか」という意見も聞けました。物語の中における隙間の時間というか、描かれていない部分みたいなものは、そこで補うことができたと思えるくらい良い話ができましたし、濃密な時間を過ごすことができました。

福地:香里、健流、慎吾の3人が映画の中でそろうことはなかったけれど、香里と慎吾をつないでくれたのは健流。最後の海辺の香里と慎吾のシーンでは、慎吾が勇気を出して自分の内と向き合おうとする姿を見て、香里は手を差し伸べることができた。健流がつないでくれた3人の関係性がものすごく美しいと感じました。

2人が好きなシーンは?

寛一郎

寛一郎

——福地さんが言及した海でのシーンで、「ごめんね」と言う香里の表情が素晴らしかったです。おそらく同じ場所で、未明の海を見つめる健流の最期の表情も、穏やかで美しくて……。香里と健流は、お互いのその表情を見ていないわけですが、出来上がった作品を見てどう思われましたか。

福地:健流が死を選択したことは、私自身も、香里も、否定も肯定もできません。健流のあの表情を見ても。けれど、残された人たちの人生はその後も続いていくことを考えると、香里にとっては、健流の死を通して慎吾に出会うことができて、慎吾は香里に救われました。そのことで、香里は自分の存在を認めることができたと思います。

寛一郎:あの海辺に、香里と慎吾と一緒に、一番いたかったのは健流なんじゃないかなと思います。健流は香里のことを大切に思っているし、健流が一番会いたいのは慎吾だし。ただ、健流が死ななければあの海辺の出来事は、ほぼ100%と言っていいほど起きなかった。健流が生きていて、慎吾に声をかけたとしても、集まらなかっただろうし。悲しいことに、彼が死ななければ、ああいう状況は作れなかったんですよね。

——健流がそう感じるであろうクライマックスを作ったことが、「そこにきみはいて」というタイトルを持つこの作品にとってのカタルシスになっていると、今のお話を聞いて感じました。最後に、それぞれの好きなシーンをお聞きしたいです。

寛一郎:香里と慎吾のシーンは好きです。健流が知っている香里とはまた違う人がそこにいました。先ほどの発言にも重なりますが、悲しくも、健流の死によって、残された香里と慎吾が成長していく、お互いを分かろうとしていくところが印象に残っています。

福地:香里と健流のジョギングのシーンです。お互いが相手を知りたいという気持ちがあって、その想いに寄り添おうとする2人の姿勢が、一緒に走るという行為につながっているのだと思います。だから香里が1人で走るシーンは、大切な人への思いが溢れてしまいそうになる。そんな感覚があったことを覚えています。

寛一郎(左)と福地桃子

PHOTOS:TAMEKI OSHIRO
STYLING:[MOMOKO FUKUCHI]KAZUHIDE UMEDA、[KANICHIRO]SHINICHI SAKAGAMI(Shirayama Office)
HAIR & MAKEUP:[MOMOKO FUKUCHI]TAKAE KAMIKAWA(mod’shair)、
[KANICHIRO]TOSHIHIKO SHINGU(VRAI)

[MOMOKO FUKUCHI]トップス 5万1700円/マメ クロゴウチ(マメ クロゴウチ オンラインストア www.mamekurogouchi.com)、イヤカフ 1万4080円、右手リング1万8480円、左手リング 3万1680円/ノウハウ ジュエリー(ノウハウ ジュエリー 03-6892-0178)、[KANICHIRO]ジャケット27万5000円/サルト(サルト info@sarto-designs.com)

映画「そこにきみはいて」

映画「そこにきみはいて」ポスタービジュアル

場面カット

場面カット

場面カット

場面カット

◾️「そこにきみはいて」
11月28日からヒューマントラストシネマ渋⾕ほか 全国順次公開
出演:福地桃⼦
寛⼀郎 中川⿓太郎
兒⽟遥 遊屋慎太郎 緒形敦 ⻑友郁真
川島鈴遥 諫早幸作 ⽥中奈⽉ 拾⽊健太 久藤今⽇⼦
朝倉あき/筒井真理⼦
脚本・監督:⽵⾺靖具
企画・プロデュース:菊地陽介
原案:中川⿓太郎
⾳楽:冥丁
撮影:⼤内泰
制作プロダクション:レプロエンタテインメント
配給:⽇活
2025/97分/ビスタ/⽇本/5.1ch
©︎「そこにきみはいて」製作委員会
https://sokokimi.lespros.co.jp

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