公開日時 2025年11月28日 05:00
![]()
「宝島」の一場面〓(○の中にC)真藤順丈/講談社〓(○の中にC)2025「宝島」製作委員会
この記事を書いた人
![]()
琉球新報朝刊
映画「宝島」(大友啓史監督、配給=東映/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント)が県内で依然として好評だ。19日付本紙に載った広告によると、シネマQは動員数・興行収入が7週連続全国1位だという。インターネット上では作品の内容から脱線した話が注目されがちだが、まずは正面からその成果を語ってみたい。
本作は、戦果アギヤーだった若者たちを描いた真藤順丈の同名小説が原作だ。エンターテインメント大作でありながら、コザ騒動や宮森小学校への米軍機墜落事故といった沖縄戦後史に向き合っている点は画期的だ。熱気みなぎるコザ騒動のシーン、そして武力革命を目指すレイに対し、グスクがこんな不条理な世の中が続くはずないと説得するシーンに胸を熱くした人は多いだろう。
残念だったのは、ミステリーの真相が明かされる終盤が駆け足だったこと。そして米軍人とウチナーンチュとの間に生まれたウタの心情や環境が深く描かれなかったことだ。とはいえ、この壮大な物語を191分に収めるのが至難の業だということも理解できる。
宣伝では「たぎれ」という言葉が多用された。だが「たぎれ」よりも映画の最後に出てくる「起きれ」という言葉の方が本質を表していると感じた。制作側としては沖縄の声だけでなく「本気で生きる」という普遍的なテーマも訴えたかったのだろう。記者としては、全国の人に目を覚まして沖縄の過重な負担に向き合ってほしいと思うのだ。
「宝島」を高く評価しているが、悔しかった点が二つある。一つは、沖縄出身の俳優やクリエイターがもっと参加できなかっただろうか、ということだ。いつか沖縄戦後史を描く名作映画が沖縄発で生まれることを夢見ている。
もう一つは全国興行では苦戦と報じられていることだ。「宝島」は原作のヒット、スター俳優の起用、巨額の予算など共通点の多い「国宝」とよく比べられる。両者の明暗が分かれた要因は「国宝」が傑作だというだけでは説明できない。「国宝」に比べ、観客も考えることを求められる「宝島」はハードルが少し高いということも一因ではないだろうか。だが受けを狙ってメッセージ性が弱まってしまっては本末転倒だ。沖縄の苦しさがコンテンツとして消費されては困る。
いずれにせよ、沖縄戦後史をこれだけ大規模なエンターテインメント作品で描いたことが沖縄映画史に残る“事件”であることは間違いない。後世の人はどう評価するのだろうか。まだ見ていない方にはぜひこの“事件”の目撃者になってほしい。(伊佐尚記)





