ⓒ 中央日報/中央日報日本語版2025.11.26 07:28
誠実に演じ続けた。最後の最後まで。69年間にわたり、演劇・ドラマ・映画などジャンルの垣根を越えて400本余りの作品で活躍した国民的俳優だった。昨年開かれた第60回百想芸術大賞の舞台で「芸術とは永遠に未完成であり、完成へ向かって悩み、努力し、挑戦することが俳優の役割だ」と語った “最高齢現役俳優” イ・スンジェさんが、25日未明、この世を去った。91歳だった。
1934年(戸籍上は1935年)に咸鏡北道会寧市(ハムギョンブクド・フェリョンシ)で生まれたイ・スンジェさんは、ソウルで生活していたが、1950年に韓国戦争が勃発すると家族とともに避難の途に就き、大田(テジョン)に定着した。大田高校在学時代から演劇『ハムレット』の舞台に立ち、演技への愛情を育み、ソウル大学哲学科3年のときにユージン・オニールの演劇『地平線の彼方』でデビューした。
◇後輩ら「生涯、舞台の上にいたいとおっしゃった方」
その後の彼の活動記録は、そのまま韓国大衆文化芸術史となった。演劇舞台を経て、1961年にKBSドラマ『私も人間になろうと思う』を通じて放送界に足を踏み入れた彼は、TBC公開採用1期として国内初の帯ドラマ『雪が降るのに』(1964)などに出演し、広く知られる存在となった。1990年代には『愛がなんだって』(1991〜1992)、『ずっと会いたい』(1998〜1999)、『ホ・ジュン』(1999)などで父親役や師匠役として存在感のある演技を見せた。その後、シットコム『思いっきりハイキック!』(2006〜2007)では、とぼけたコミカルな演技で “ヤドンスンジェ” というくだけた異名まで得た。
俳優としての最後は演劇舞台に集中した。『セールスマンの死』(2000、2017)、『老いた夫婦の物語』(2005)などに出演し、89歳だった2023年にはシェイクスピア『リア王』の主演を務め、“最高齢リア王” として記録された。最後に出演したドラマ『犬の声』(2024)で昨年「KBS演技大賞」において歴代最高齢で大賞を受賞した。「長く生きていたら、こんな日もあるんだね」と受賞の言葉を始めた彼は、「視聴者の皆さんには、生涯にわたってお世話になり、多くの助けを頂きました。ありがとうございます」という最後の挨拶を残した。
1992年の第14代総選挙で当選して国会議員として活動したほか、世宗(セジョン)大学と嘉泉(カチョン)大学で10年以上にわたり映画芸術学科の教授を務め、多くの後輩や教え子を育てた。
韓国文化界に深い足跡を残した故人の訃報が伝わると、社会各界から追悼の声が相次いだ。李在明(イ・ジェミョン)大統領は25日、SNSに「一生涯、演技に専念し、大韓民国の文化芸術の品格を高めてこられたイ・スンジェ先生は、演劇と映画、放送を行き来しながら、笑いと感動、慰めと勇気を与えてくださった」とし、「残された作品とメッセージは、大韓民国の大切な文化遺産として伝えられることだろう」と追悼の意を表した。
『花よりおじいさん』を演出したナ・ヨンソクPDは、「旅だけでなく、私的な場でも常に『最後まで舞台の上にいたい』とおっしゃっていた。誠実に仕事に向き合う姿勢が、後輩たちに大きな手本となった」と故人を偲んだ。MBCシットコム『明日に向かってハイキック』で義理の関係を結んだ俳優、鄭普碩(チョン・ボソク)氏は「これまで本当にありがとうございました。演技も、人生も、俳優としての姿勢も、先生から多くを学びました」と語り、「先生のすべての歩みは、私たち放送演技の始まりであり、歴史でした」と哀悼の意を示した。
ソウル市松坡区(ソンパグ)のソウル峨山(アサン)病院葬儀場に設けられた弔問所にも、多くの人々が訪れた。このうちTBC10期公開採用出身の俳優、キム・ソンファン氏は「イ・スンジェ先生のおかげで俳優を始めたので、なおさら胸が痛い。もう台詞を覚える必要もなく、撮影で徹夜することもない、安らかな場所でお過ごしになっていることを願う」と語った。
◇李大統領「大韓民国の文化芸術の品格を高めた」
故人の寿衣(死装束)を制作している韓服デザイナーのパク・スルニョ氏は、涙ぐみながら「5〜6年前に私たちの韓服をお召しになったが、とてもお美しかった。ベテラン俳優でいらっしゃるのに、足袋(ポソン)まで嫌がらず韓服を一式すべて着てくださり、ポーズまでお願いすると文句ひとつ言わず応じてくださって、感動した記憶がある」と回想した。吳世勳(オ・セフン)ソウル市長、民主化運動記念事業会理事長で、政治界の重鎮である李在五(イ・ジェオ)氏をはじめ、タレントのパク・キョンリム氏、俳優のチャン・ヨン、チェ・ヒョヌク、ジュリアン・カン、キム・ハクチョル、コメディアンのチェ・ビョンソ、歌手イ・ヨンなどが弔問に訪れた。
政府はイ・スンジェさんに「金冠文化勲章」を追叙した。崔輝永(チェ・フィヨン)文化体育観光部長官が弔問所を訪れ、政府を代表して遺族に勲章を伝達した。出棺は27日午前6時20分に厳粛に営まれ、葬地は京畿道利川(キョンギド・イチョン)のエデン楽園となる。KBSは本館・別館に焼香所を設け、市民も故人を追悼できるようにした。





