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日本の小説は世界でどのように評価されているのか。批評家の佐々木敦さんは「日本の小説は数多く翻訳されているが、そのなかでも特に人気なのが村上春樹だ。彼の小説は世界中でベストセラーとなり、ノーベル文学賞の最有力候補とも言われてきた。ただ、ここ数年で彼以上に人気な日本人小説家が出てきている」という――。
※本稿は、佐々木敦『メイド・イン・ジャパン 日本文化を世界で売る方法』(集英社新書)の一部を再編集したものです。

エクアドルの国立劇場で講演する村上春樹。2018年11月8日。(写真=Viceministerio de Cultura y Patrimonio/PD-author-FlickrPDM/Wikimedia Commons)
日本語で書き続け、英語で売れ続ける村上春樹
周知のように、村上春樹の小説は、英語だけでなく数多くの外国語に翻訳されており、世界中で読まれていますが、やはり英語の読者が圧倒的に多数だと思われます。おそらくいまや春樹の読者は日本語のオリジナルよりも英訳の方が多いのではないかと思います。
ここで指摘すべきは、数多くの翻訳をしており、アメリカに長く住んでいた春樹が、しかし自作の英訳を自ら行うことも、最初から小説を英語で書いて発表することもしていないということです。
もちろん英語を日本語に訳すのと日本語を英語にするのとでは勝手が違うと思いますし、いくら英語が堪能になっても自分の小説は母語で書くというスタンスは何もおかしくはありません。春樹には歴代の優秀な翻訳者がいて、その人たちを信頼しているということもあると思います。しかしそれだけでなく、ここに春樹の「新しい日本語の文体」の秘密があるのではないかと思います。
この「文体」は、日本語と英語(やその他の外国語)の差異を超えたところに存在する、と同時に、言語間の差異を(不完全に)止揚しようとする翻訳という往復運動をエンジンとして生まれてくるものなのではないかと。
