ライブの様子。トラヴィス・スコット(左)とYe(イェ) PHOTO:J ASON MARINEZ

世界的ラッパーのトラヴィス・スコット(Travis Scott)が11月8日に埼玉県所沢市のベルーナドームで来日公演「Circus Maximus Tour」を開催した。数多くの名曲を迫力のパフォーマンスで披露しただけでなく、Ye(イェ)ことカニエ・ウエストがサプライズ出演も果たし、伝説の一夜となった。

ライターの渡辺志保による当日のオフィシャル・ライブレポートが到着。熱狂の一夜の様子をお届けする。

トラヴィス・スコット PHOTO:J ASON MARINEZ

トラヴィス・スコット、初となる日本のスタジアムでの単独公演。世界中の人々を熱狂させた大型ツアー「Circus Maximus Tour」がいよいよ日本にやってくる、というだけで並々ならぬ期待を胸に所沢のベルーナドームに向かったが、実際に目の前で繰り広げられたものは期待を遥かに上回るとんでもないライブだった。まさか、トラヴィス・スコットとカニエ・ウエスト(現在の正式なアーティスト・ネームは“Ye(イェ)“という表記になると思うが)がステージ上で邂逅するなんて、誰が予想できただろうか。もはや生身の人間というよりも、トラヴィス・スコットという存在そのものこそが”現象”と呼びたくなるような、彼の大きさを実感させられる公演だった。

11月8日、土曜日。東京都心から40km以上離れた埼玉県所沢市。3万人以上を収容するスタジアムのチケットはほぼソールドアウトに近い状態。トラヴィスの前回の来日公演は2013年に渋谷のクラブ、VISIONのメインフロアで開催されたもの。600名程度のキャパシティのギグを経て、その12年後に同じ日本の地で3万人を熱狂させることになるとは……ヒップホップ・カルチャーが辿ってきた遥かなる旅路に胸を馳せつつ、彼の登場を待つ。

19時の開演予定を30分ほど過ぎたころ、イントロと火花、そして割れるような歓声とともにいよいよトラヴィスがステージへと姿を見せる。オープニング・ナンバーは他のツアー公演と同じく「HYAENA」だ。離れていても伝わる、圧倒的なカリスマ・オーラ。オーディエンスへのグリーティングよろしく、力強く跳ね回りながらのパフォーマンス。そしていきなりサプライズ・ゲストが。なんと「THANK GOD」では、伴って来日していた娘のストーミちゃんがジョイン!「MODERN JAM」からは一気にパーティー色が濃くなり、ライブDJのチェイス・Bもガッツリとスクラッチを織り交ぜてギアを上げていく。曲の間でも「トーキョー!」と連呼し、「アメリカやヨーロッパ、アジアを回ったこのツアーの中でも、東京での公演を一番楽しみにしていた」とMCで語ってくれた。その言葉を裏付けるかのように、公演全体を通して、トラヴィスはとてもリラックスした様子もあり、終始笑顔を見せていた姿も印象的だった。そして、オーディエンスとのコンタクトがめちゃくちゃ多い!アリーナでモッシュを始めるクラウドを煽り(危険にならない程度のセーフコントロールは万全に見えた)、客席にカメラを向けるシーンも多々。そして、他の会場でも同じく客席からファンたちをステージに呼び込み、サークルを組みハグをしながらのパフォーマンスをする場面も。プレイボーイ・カーティの「BACKR00MS」、メトロ・ブーミン&フューチャーの「Type Shit」など客演楽曲も交えながら、ワカ・フロッカ・フレイムのシャウトが鳴り響くジャックボーイズ名義の「CHAMPAIN & VACAY」、そして初期の「Upper Echelon」など矢継ぎ早に披露していく。「アルバムの中でもお気に入りの曲なんだ」と話しながら「MY EYES」をラップし、緩急をつけながらガッツリとレイジなパフォーマンスでグイグイとクラウドを魅了していく。広いスタジアムの開放的な雰囲気も合間って、まさにトラヴィスが指揮を執る巨大ハードコア遊園地という様相。「こ、これが最先端のトラヴィス・スコット・エクスペリエンスなのか……」と、何度も息を呑んだ。「Butterfly Effect」ではモッシュも盛り上がり、「“Rodeo Days”に戻るぜ」と告げて「Mamacita」の哀愁あふれるイントロが響く。容赦なく炎が上がり、「I KNOW」、「90210」へと続ける。

そして、ステージの照明が落ちカニエ・ウエストとのコラボ楽曲「PRAISE GOD」へ。曲を途中で切り上げ、沈黙を場内が包む——と、なんと次に響き渡ったのはカニエ・ウエスト「Runaway」のイントロだ。「もしかしたらカニエが来るかもしれない」と、SNSなどでも都市伝説的に噂が囁かれていたが、もしや本当に!?カニエが来るのか!?そして悲鳴のような歓声の中、ステージに姿を現したのはまさにカニエ・ウエスト本人だった!てっきり1曲だけキックして退場するのかと思いきや、そこから「Can’t Tell Me Nothing」、「Heartless」、「Stronger」、「Father Stretch My Hands Pt1」などなどキャリアを網羅していくかのように立て続けにヒット曲を披露。このセットリストにも心底たまげた。ここ数年、本国アメリカではキャンセル続きのカニエ。バックラッシュも多い。心身のゆらぎも心配になってしまう。そんな彼が盟友ともいうべきトラヴィス・スコットと共に日本のステージに立つなんて——。アメリカから逃げるようにして日本での滞在を続けているカニエに関しては、個人的に少々複雑な気持ちが拭えない部分もあるが、この2名の邂逅を目撃できたことは本当に心の底から嬉しいサプライズだった。デビュー曲の「Through The Wire」を演り、スタジアムの会場にはうってつけの「CARNIVAL」、そしてカニエのライブには欠かせない「All of The Lights」を以てスペシャル・カニエ・タイムは終了。カニエの隣で嬉しそうに笑顔を見せながらステージに立つトラヴィスの姿、そして2人がハグする姿はダイナミックなヒップホップの歴史に残るのではなかろうか、とか思いつつ、ステージは再び「UTOPIA」の世界へと戻る。「TOPIA TWINS」で再びエネルギーをぶつけ、「両手のミドルフィンガーをかざせ!」とシャウトしながら「NO BYSTANDERS」ヘ。そしてそのまま、間髪入れず「FE!N」のイントロが来た!今回のツアーでは、ヒット・チューン「FE!N」を連続してパフォームする、というのも見せ場の一つ。今回、日本の公演では4回(最初、曲の途中からイントロに戻す場面もあったので正確には4.5回か?)の「FE!N」が聴けた。イントロのたびにクラウドは大熱狂。途中、心臓の鼓動のようなサウンドエフェクトも混じり、広いスタジアムを完全に掌握しながら終盤の熱狂へと観客を誘うトラヴィス。雷鳴が轟くようなイントロから「Sicko Mode」に、「疲れてないよな?」と問いかけながら「Antidote」へ、そこから素早く「goosebumps」へーートラヴィスが1stアルバム「Rodeo」をリリースしたのは2015年なので、今からちょうど10年前。この10年間で彼が生み出してきたトレンドと熱狂について、しみじみと想いに耽ってしまう。

トラヴィス・スコット PHOTO:J ASON MARINEZ

インターネット上のミックステープからスタートしたキャリアだったが、ここまで大きなサーカスを率いる世界的なトップスターになるとは。最後、フューチャーとSZAのヴォーカルが響く「Telekinesis」が流れるころ、会場からはどこか神聖で厳かな雰囲気すら感じた。2年以上に及ぶ本ツアーも、そろそろエンディングを迎える。この体験を経て、トラヴィスは次にどこへ向かうのか。COMPLEX誌でのインタビューではツアーの公演が終わるたびにレコーディングに励んでいると語っていたトラヴィスだったが、今回の日本での一夜が彼に新たな刺激をもたらすことがあるとしたら、それは日本のファンにとってこの上ない喜びだろう。

当日のセットリスト

Leave A Reply