2027年度前期のNHK連続テレビ小説『巡るスワン』のヒロインを、森田望智が務めることが発表された。脚本はバカリズム。生活安全課に配属された若い警察官の日々を描く作品になるという。
物語の全貌はまだ見えていないものの、このニュースを聞いたとき、まず浮かんだのは“森田望智という俳優“が歩いてきた道のりだった。これまでのキャリアを思えば、今回の起用は自然と納得してしまうような、静かな説得力を持っている。

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多くの人にとって森田望智という名前が強く印象づけられたのは、やはり2019年にNetflixで配信されたドラマ『全裸監督』だっただろう。挑戦的な役柄にも臆することなく踏み込み、役の輪郭を自分の身体にしっかり馴染ませていく姿は、今もまだ記憶に残っているほどの存在感を放っていた。オーディションで“脇毛を描いていった”というエピソードは今でも語り継がれているが、それはただの体当たりではなく、役に近づくためにできることは何でもやるという彼女の覚悟そのものだったのだと思う。視線の動きや呼吸の変化まで丁寧に作り込み、黒木香という人物を自然に生きていた。

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一方で、『全裸監督』の強烈なイメージがそのまま定着しても不思議ではなかった。しかし森田は、そこで自分の幅を広げていく。大きな転機になったのが、NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』(2021年度前期)だ。気象予報士・野坂碧を演じた彼女は、静けさや理知的な空気をまとい、作品の世界に自然と溶け込んでいた。抑えた芝居の中で、ふとした瞬間にだけ表情がやさしく揺れる。そのわずかな変化が役の奥行きを生み、人物像をより立体的にしていた。

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続く『虎に翼』(2024年度前期)では、ヒロインの長い人生をそばで支える親友役として、物語に静かに寄り添った。家族の温もりをそのまま抱きとめるような柔らかなまなざしや、言葉より先に視線の揺れで気持ちを伝える繊細さが印象的だった。主演ではないからこそ、画面の端でそっと生活の温度を灯すような存在感が求められる難しい役どころだったが、森田はそこで揺るぎない安定感を見せていた。2つの朝ドラを経て、彼女は“朝の顔”としての信頼を着実に積み重ねてきたように思う。
思えば、森田の芝居にはいつも落ち着きの中に強さがある。大きな感情を激しくぶつけるのではなく、心の揺れをそっと内側に抱え込んだまま、身体のごく小さな変化として滲ませていく。まばたきのタイミング、呼吸のわずかな乱れ、立ち姿の重心のずれ、そうした細部がそのまま物語の一部になる。長く続けてきたフィギュアスケートやクラシックバレエの経験が、こうした繊細な身体感覚にも自然とつながっているのだろう。森田の演技は抑えることによって、むしろ深く響いてくる。
そう考えると、『巡るスワン』という舞台は、森田にとってひとつの帰着点のようにも思える。大きな事件が次々起こるわけではなく、生活安全課での日々を丁寧に描く物語。派手さはないけれど、そのぶん主人公の迷いや焦りといった日常の揺れがじっくりと浮かび上がるタイプの朝ドラになるだろう。むしろ、その静かな世界だからこそ、森田の良さがいちばん豊かに広がるのではないかと感じる。毎日ルーティンのように業務をこなしながら、ふとした瞬間に何かが違うと胸の奥がざわつくという、そんなごく小さな心の揺れを、森田なら確かな説得力で見せてくれるだろう。大げさな演出がなくても、彼女の演技がその違和感をそっとすくい上げ、視聴者の心に静かに届いていくはずだ。
そして忘れてはいけないのが、脚本を手がけるのがバカリズムだということだ。日常の中にあるちょっとした“ほころび”や“ズレ”を拾い上げて、そこから物語を立ち上げていく独特の視点。その細やかな作風は、森田の演技と驚くほど相性がいいのではないか。大きな感情の起伏で押し切るのではなく、会話の温度や表情のわずかな揺れの中に、人の本質をそっと忍ばせていく脚本。その世界の中で、森田がどんな呼吸をし、どんなリズムで主人公を生きるのかを想像すると、不思議と胸が高鳴る。
『巡るスワン』で森田望智がどんなヒロインを生み出していくのか。派手な展開よりも、日々の中にそっと潜む感情を見つめてきた彼女だからこそ描ける朝があるはずだ。華やかではなくても、ふとしたときに思い出してしまうような、“忘れられない朝”を届けてくれるに違いない。
■放送情報
2027年度前期 NHK連続テレビ小説『巡るスワン』
NHK総合にて、2027年春~放送
NHK ONEにて配信予定
出演:森田望智
作:バカリズム
制作統括:桑野智宏
プロデューサー:舩田遼介
演出:吉田照幸ほか
川崎龍也
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音楽を中心に幅広く執筆しているフリーライター。YouTubeを観ることが日課です。
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