山田洋次監督の91本目となる最新作『TOKYOタクシー』(11月21日公開)。このたび、本作より、倍賞千恵子と木村拓哉の21年越しの絆を感じる本編映像が解禁となった。
長きにわたり日本映画界で活躍し続け、山田監督作品には欠かせない名女優、倍賞と、『武士の一分』(06)以来19年ぶりの山田組参加となる木村。さらに蒼井優、迫田孝也、優香、中島瑠菜、イ・ジュニョン、笹野高史など多彩な豪華キャストが集結した本作。タクシー運転手の宇佐美浩二(木村)は、ある日85歳のマダム、高野すみれ(倍賞)を東京の柴又から、神奈川の葉山にある高齢者施設まで送ることになった。人生の終盤を迎えたすみれは、「東京の見納めにいくつか寄ってみたいところがある」と浩二に頼み、人生のターニングポイントとなった思い出の場所を寄り道することに。タクシーで旅を共にするうち次第に心を許したすみれは、初対面の浩二に、喜びと悲しみを織り交ぜた壮絶な人生を語り始める。そんな“たった1日の旅”が偶然出会った2人の心、そして人生を大きく動かしていく。
倍賞と木村が21年ぶりの共演を果たす本作より、このたび“ハウルコンビ”の親密な関係性を思い起こさせる、すみれと浩二の旅路を映しだした本編映像が解禁。最初はギクシャクしていたすみれと浩二が、特別な絆を育んでいく様子が映しだされている。華やかな横浜の繁華街を歩くなか、すみれが「ねえ、浩二さん。腕を組んでもいいかしら、あなたと」とうれしそうにお願いすると、「どうぞ」と腕を差し出す浩二とのやりとりは、壮絶な人生を歩んできたすみれの孤独と、それを受け止める浩二の優しさの感じさせられる一幕。浩二と出会えたことへの感謝と、旅の終わりが近づくせつなさを感じさせ、長年にわたり人々の機微を描き続けてきた山田監督ならではの繊細で心温まる人間ドラマが凝縮された場面となっている。
倍賞は、スタジオジブリ映画『ハウルの動く城』(04)でソフィーとハウルとして出会った当時を振り返り、「あの時は一人ずつアフレコする予定で、木村さんとはいろいろなお話ができなかったです。鈴木敏夫プロデューサーにお願いして、1日だけ一緒の場面でアフレコしました」と、木村と顔をあわせてコミュニケーションを取るためにスケジュールの調整をプロデューサーに直談判していたことを告白。そんな倍賞の粋な計らいにより“たった一日”の倍賞と木村の同日収録が実現したが、このことを事前に知らされていなかった木村は「目の前にエプロンをしている宮崎駿監督がいて、下駄を履いた鈴木敏夫さんというプロデューサーがいて、ついに現れた倍賞千恵子さんとなったら、そりゃ話せないですよね」と当時を回顧した。
さらに、このたび本作が第55回ロッテルダム国際映画祭「Limelight」部門(現地時間2026年1月29日から2月8日)に正式出品されることが決定。同映画祭は1972年に始まり、カンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭などと並ぶ重要な国際映画祭。『海よりもまだ深く』(16)、『ドライブ・マイ・カー』(21)、昨年は『海の沈黙』(24)も出品された部門で、世界が注目する日本映画として期待の声が高まっている。
選考理由についてディレクターのVanja Kaludjercicは「東京の街を縫うように走る1台のタクシー。その車内で交わされる、他愛もない、けれどどこか胸に残る会話が、運転手と乗客それぞれの人生をそっと記録していく。本作は、そんな“移動する時間の箱”のような映画です。窓の外に流れる光景には、東京のいまと、変わりゆく日本の気配が淡く重なります。そしてなにより、この小さな物語を豊かに立ち上げているのは、山田洋次監督の静かな語り口と、倍賞千恵子、木村拓哉という2人の俳優の確かな存在感です。山田作品に受け継がれる、日常に宿るおかしさと儚さ。その“日本的なやわらかさ”が、ふとした仕草や間合いの中に息づいています。物語が静かに幕を下ろしたあとも、どこか心の奥にやわらかい温度が残り続ける作品。 その余韻は、観客一人ひとりの“TOKYO”の記憶と静かに重なっていくはずです」と本作へのコメントを寄せた。
まるでソフィーとハウルが時を越えて現実の世界で再会したかのような、2人にしか生みだせない特別な雰囲気からどのような感動が生まれるのだろうか?国内外から高い注目を集めている山田監督最新作に期待が高まる。
文/鈴木レイヤ
