2025.11.17
(最終更新：2025.11.17)
廃食用油の回収を体験した菊地亜美さん
編集部
家庭の揚げ油が「空の燃料」に――。廃食用油を原料にした持続可能な航空燃料（SAF）を普及させる取り組み「Tokyo Fry to Fly Project」の報告イベントが、10月に羽田空港で開催され、タレントの菊地亜美さんが実演を通じて家庭での回収の手軽さをアピールした。（副編集長・藤田淳）
1日あたり最大で10万Lの廃食用油を使用
西村さんからSAF活用の全体的な流れの説明を受ける菊地さん
イベントではまず、同プロジェクト代表で日揮ホールディングスの西村勇毅さんが、SAF活用の全体的な流れなどを説明した。
家庭や飲食店から出た廃食用油は専用の回収ボックスで集められ、製造設備がある大阪府堺市の製油所に運ばれる。そこで不純物などを取り除いた上で、化学的な処理を経てジェット燃料と同等の規格を満たすSAFとして精製され、空港のタンクへ供給される。
1日あたり最大で10万Lの廃食用油を使用し、年間約3万KLのSAFを製造する生産体制の確立が目標であることなどが説明された。
東京都は人気YouTuberとコラボ
山中さん（左から2番目）と武田さん（左）は自治体の取り組みを紹介した（プロジェクト事務局提供）
東京都環境局の山中敏晃さんは、9月に行われた「家庭の油で飛行機を飛ばそう」という世界陸上と連動した廃食用油の回収キャンペーンや人気YouTuberとのコラボなどを紹介。都庁や区市町村に約80カ所の回収拠点を設置し、約8100Lを回収した実績を報告した。
東村山市は昨年8月、東京・多摩地域の自治体として初めてプロジェクトに参加した。同市環境資源循環部の武田源太郎さんは、今年2月に市内3カ所で本格的な回収を始め、回収ボックスには粗大ごみから出たお茶箱をリメイクしたと説明。5月から新たに拠点を4カ所増やし、10月15日時点で約1445Lを回収したという。
羽田空港では約1%をジェット燃料と混ぜて使用
喜多さん（左）と山下さん（左から2番目）はSAFの安全性などについて説明した（プロジェクト事務局提供）
日本航空国産SAF推進タスクフォースプロジェクト担当部長の喜多敦さんは、羽田空港でもすでに国産SAFが供給されており、現在は約1％のSAFを従来のジェット燃料と混ぜて使用していることやSAFの安全性について説明した。
国土交通省航空局の山下泰史さんは、世界中を飛び交う各国の国際便航空機のCO2排出量の合計は、年間約6.2億tで地球全体の約1.8％を占め、ドイツの国全体の排出量（年間約6.4億tで、地球全体の約1.9％）とほぼ並んでおり、対策が迫られている現状を解説。2030年のSAFの需要予測は、アジア太平洋地域で3200万KLが見込まれていることなどをグラフを使って説明した。
「江戸前じょうご」で回収デモンストレーション
廃食用油の回収デモンストレーションに挑戦する菊地さん（プロジェクト事務局提供）
SAFについて学んだ後、菊地さんは廃食用油の回収デモンストレーションに挑戦。「江戸前じょうご」を使い、フライパンの油をペットボトルに移す手順を実演した。
「油の処理をめんどくさいと思っていた私ですが、固めるよりもペットボトルに入れる方が断然簡単でした。これなら、少しずつ使った油をためておいて、たまったら近くの回収所に持っていくだけなのでいいですね」と語った菊地さん。
回収方法をレクチャーした西村さんは、「冷ましてから揚げカスを取り、ゆっくりペットボトルに注ぐ。多少のゴミは製造側で取り除くので家庭で完璧にする必要はない」と話した。
「フライガチャ」の景品を手にする菊地さん（プロジェクト事務局提供）
会場には、プロジェクト参加企業などが提供した景品が当たる「フライガチャ」や、廃油からSAFができるまでを追体験できるVRブースなど、子ども連れでも楽しめる仕掛けも展示された。
藤田淳
（ ふじた ・じゅん ）
朝日新聞SDGs ACTION!副編集長。1993年に朝日新聞社入社。山形、浜松、前橋で勤務後、東京、西部、大阪のスポーツ部でサッカーを中心に担当、ドイツ、南アフリカW杯を現地で取材した。欧州、アフリカなど35カ国、地域を訪問。その後、デジタル編集部、マーケティング戦略本部などを経て、2025年4月より現職。
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