「新書大賞2025」も受賞したベストセラー『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』等の著作で知られる三宅香帆氏の著書『「話が面白い人」は何をどう読んでいるのか』(新潮新書)が10万部を突破し、話題を呼んでいる。
だがそもそも、文芸評論家である三宅氏が、なぜ「話が面白い人」を掲げた本を書くことになったのだろうか。そして、「うまく読む」ことこそが「うまく話す」ことにつながる、と考えるようになったきっかけとは――?
著者が実体験をもとに綴った、本書の「まえがき」を全文公開する。
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まえがき
話していて面白い人になるには、どうすればいいのか?
この本は、それを伝えたくて書いた本です。
というのもある日、質問されました。
ある講座の、質疑応答の時間に、こう言われたのです。
「とっさに言葉が出てきません。
じっくり考えたり準備したりメモしたりすると言語化がうまくいくのですが……」
そしてこう続けました。
「飲み会や初対面の雑談、あるいは会議のアイスブレイクみたいな、反射的な面白さが必要な場所で、どうしても面白く話ができないんです。頭の回転を良くしたいけれど、本を読んで語彙力を上げようとしても、なかなか頭の回転までは変えられない。どうすれば、頭の回転が速くて、返答がうまい、話が面白い人になれるのでしょうか」
「えっ」と思いました。私もけして、自分がそんなに返答がはやい話の面白い人だとえばることはできなかったからです。正直、お茶を濁したかった。
でも、質問してくれた方の顔を見て、背筋が伸びました。
――若いビジネスパーソンでしょうか。すごく切実そうな顔でおっしゃっていたのです。
面白い話ができるようになる方法。私の返答でいいのかと思いながら、でも、その切実そうな真剣な言葉遣いに促され、必死に頭をフル回転させて答えました。これはきちんと向き合って答えなければ、と思うと、自然と言葉がでてきたのです。
話が面白い人になるには、
本や漫画などを読むことが必要だと思う。
だけど、ただ漠然と読むだけでは、読んだだけで終わってしまう。
大切なのは、読み方だと思います。
ただ読むのではなく、
本や漫画やドラマや映画を
「鑑賞」として取り入れることが、必要です。
話が面白くなるためには、本や映画で、言葉や感情や知識をインプットすることがかなり重要だと思う。でも、ただ読めばいい、観ればいいわけではない。そこには技術が必要だ。あたかも展覧会で芸術を鑑賞するかのように、本や映画もメモを取って解釈することで、話すネタとして醸成されていく。
面白い話をするには、技術が必要なんです。
――その技術を私は本書にまとめました。
なぜこんな本を書こうと思ったのか。それは、あのとき質問してくださった方が、なんだか過去の自分に重なって見えたからです。
というのも、私は昔から本が好きでした。暇さえあれば本を読んでいた。
けれど、けして話の面白い人間ではありませんでした。
なぜなら本を読んでも内容を忘れてしまう。面白かったとしてもそれを他人に話せない。本の話なんて、だれが興味あるんだろうと思っていた。
書くのは良くても、話せない。話すのは、うまくない。とっさに素早く、言葉が出てこない。
昔は本当に、そう思っていました。
――が、そんなことも言ってられなくなったのは、いまの仕事を始めてから。
私は文芸評論家という仕事をしています。本を書くのも仕事ですが、本について話すのも仕事です。
他人に喋ったり伝えたりすることが、Podcastや動画や講演で求められるのです。
……となると、話す内容が面白くないと、本も買ってもらえないじゃないか! 死活問題だ! そう気づいてから、どうすれば話が面白くなるのか、頑張って考えました。お恥ずかしい話ですが、頑張ったんですよ。観察と研究を重ねました。
そこで気づいたのが、「鑑賞」の技術です。
つまり、読んだもの観たものを、「ネタ」に変える技術。
話が面白い人は、そもそも他人が話すことのネタを本で知っている、つまり「ネタバレ」しているんですよ。
だからこそ、他人から話されたことも「ああ、あの本に書いてあったことと似ているな」「じゃあこういうふうに返そう」など、とっさに答えが出ている。
予習済みの授業で当てられるようなものです。
あるいは、他人に話すときも、すでに本で仕込んでいる「ネタバレ」済みの知識があれば、どこをどう話せば面白くなるかがわかる。
教養があるとは、社会や人生の「ネタバレ」をたくさん知っているということ。
だから教養のある人は話が面白いのだと思います。
話が面白いなんて……そんなの、先天的なものだよ。
話が面白い人は、もともと口が達者なんだよ。
いろいろ考えていても、とっさに言葉が出てこないのが当たり前だよ。
と、思う人も多いかもしれません。
でも、違うんです。
大切なのは、話が面白くなるような、本の読み方をすること。
重要なのは、本を読むときの姿勢。
――それは、「ネタを仕込むつもりで本を読む」という姿勢です。
「話のネタ帳だと思って、本を読んでほしい」
そう、すべての読書はネタバレなのです。
教養ある人の話が面白いのは、漫才のネタを仕込むように、話すネタを仕込むための読書をしているからです。
そういえば、私の友人が言っていました。
「年齢を重ねると、同じ話しかしなくなる。それは昔のインプットをずっと使いまわしているからだ。自分は同じ話をするおじさんにならないために、本を読んでいるんだ」
――たしかに、常に新しい本を読み、そしてそれをネタとして使っている人は、いつも違う面白い話ができます。
それは、アップデートされたものを取り入れているから。
話の面白い芸人さんや上司は、年齢を重ねても、インプットを重ねています。
読むことで、人として、アップデートができる。
チャット式のAIがどれだけ発達しても、飲み会で使える返答をささやいてはくれません。
だけど、教養は、知識は、読書は、あなたの頭のなかで勝手にささやいてくれるAIの元ネタとなる。
正しさや賢さで人間はAIに勝てない。だけど、面白さではAIより人間のほうが、上回るかもしれないのです。なぜなら、AIは話が面白くなる知識の得方をしていないから。
本書では、話が面白くなる読み方をお伝えします。
人間だからこそできる読解方法を、やっていきましょう。
きっとあなたの紡ぎ出す言葉が、本書を読んだあと、「面白く」なっているはずです。
では、さっそく始めましょう。ここでひとつ問いを出させてください。
問題:映画『国宝』を観て、どんなテーマが描かれていたと思いますか?
本書を読みながら、ぜひ考えてみてください。
私の答えは「あとがき」にてお伝えします!
(以上は本編の一部です。詳細・続きは書籍にて)
