2025年11月18日更新
2025年11月21日より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下、グランドシネマサンシャイン池袋ほかにてロードショー
旧作の新しさ、初めての感動と出会う幸運をぜひ掴んで欲しい
先日、レオス・カラックスの呪われた快作「ポンヌフの恋人」4Kリマスター版を試写で見た。忘れた筈もない、いくつもの視覚的記憶。それがほとんど凶暴といいたいような激しい美しさで畳みかけられる僥倖に身も心も新たな震えで満たされた。30年余り前、初めて出会った時とはまた別の感動を噛みしめながら時を置いて映画と、その作り手と出会い直すことの貴重さを改めて思った。
テレンス・マリック「天国の日々」、デヴィッド・リンチ「ストレイト・ストーリー」「インランド・エンパイア」、ジョン・カーペンター「ザ・フォッグ」、エドワード・ヤン「ヤンヤン夏の想い出」。思いつくままにあげてみたリバイバル上映される(された)レストア版、あるいはロベルト・ロッセリーニとジャン=リュック・ゴダール新旧ふたつの「ドイツ零年」の再上映にしても、かつて胸打たれた映画の記憶を更新する貴重な機会として逃す手はないと断言してみたくなる(遅れて生まれてきた青年諸君の場合には旧作の新しさ、初めての感動と出会う幸運をぜひ掴んでと老婆心満載でいっておきたい)。

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恥をしのんで付け加えればそうやって新たに出会うことをしてみる時、かつての自分がいかに傲慢に映画と向き合っていたかに気づき、舌かみ切って死んじゃいたい状態に陥ったりする場合もあるのでご用心!――というわけで「落下の王国」、2006年公開時に抱いたのはうーむ、なんだかなあという感触。その華麗なるヴィジュアル、壮麗なロケ撮影にばかり気を取られ、これは映画じゃない、無駄に大掛かりなMV、PVの類といった斜めの視線で片づけてしまっていた。うーむなのはこちらの方と今回、余計な先入観なしで見直した目には、かつてのわが目の濁りが否応なしに感知され恥ずかしくなる。
確かにベートーベン交響楽第7番第2楽章のほの明るく物憂げな調べを伴って各地の世界遺産を掬いとる映像の地に足つかない麗々しさは4Kレストアによっていっそう冴え冴えと目を撃ちもする。が、その地に足つかなさは、物語することの力という監督ターセムの真の主題に裏打ちされて空疎の誹りを免れるのだ。華麗なるビジュアルの背後にある少女とスタントマンとの“物語”を中にはさんだ出会い。眩しい陽光のLAにいながら共に負傷して病院の暗がりの中に閉じ込められたふたりが醸す別世界/物語の磁力、それゆえの非リアルな世界の壮麗さ。と、映画を支える二重構造に気づいてみればなるほどそこにこそ見どころがあったのだと遅すぎた覚醒と共に映画を吟味し直すことになる。そんなふうに新たに映画と出会ってみること。チャンスをどうぞ逃さないで!
(川口敦子)
