民主国家としての土台を築く激動の時代であった1991年のポーランドを舞台に、ちぐはぐな父と娘が家族の歴史をたどる旅路をユーモラスかつ温かく描いたロードムービー『旅の終わりのたからもの』(2026年1月16日より公開)。本日11月16日が「家族の日」ということで、本作をはじめ、“家族の絆を見つめるロードムービー”9作を紹介する。

車に乗り込めば、そこから始まるのは、ただの旅ではなく、家族の心をつなぐ時間の物語となる。目的地へ向かう道中で、ぶつかり合い、語り合い、時には沈黙を共有しながら、少しずつ変わっていく家族関係。観終わったあと、きっとあなたも誰かに会いたくなるはず。

トップバッターは、前述のユリア・フォン・ハインツ監督作『旅の終わりのたからもの』。1991年のポーランドを舞台に、NYで生まれ育ち成功するも、どこか満たされない娘ルーシーと、ホロコーストを生き抜き、約50年ぶりに祖国へ戻った父エデクが繰り広げる異色のロードムービーとなる。家族の歴史をたどろうと躍起になる神経質な娘と、娘が綿密に練った計画をぶち壊していく奔放な父。かみ合わないままの2人はアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所を訪れる。初めて語られる、父と家族の壮絶で痛ましい記憶。やがて旅が終わりを迎える時、2人が見つけた“たからもの”とは…?大ヒットドラマ「GIRLS/ガールズ」で注目を浴びたレナ・ダナムが娘ルーシーを、『シャーロック・ホームズ シャドウゲーム』(11)、「ホビット」シリーズの英国の名優スティーヴン・フライが父エデクを演じた。

2本目はジェシー・アイゼンバーグ監督作『リアル・ペイン~心の旅~』(24)。かつては兄弟のように育ったニューヨークに暮らすユダヤ人のデヴィッドと従兄弟ベンジー。次第に疎遠になっていた2人は、亡き最愛の祖母を偲んで、祖母の故郷ポーランドを巡る旅に出る。旅の途中で新たな出会いを果たし、さらに家族のルーツをたどるなかで、正反対の性格の2人が旅で得たものとは?アイゼンバーグがデヴィッドを、ドラマ「メディア王 華麗なる一族」のキーラン・カルキンがベンジーを演じる。製作には俳優のエマ・ストーンが参加し、第97回アカデミー賞で脚本賞と助演男優賞にノミネートされ、カルキンが助演男優賞を受賞した。

3本目は、ジャネール・モネイの「PYNK」のMVで注目を集めたオランダ出身の新鋭エマ・ウェステンバーグが長編初監督を務めた『ブリーディング・ラブ はじまりの旅』(24)。ユアン・マクレガーと実娘クララ・マクレガーが親子役で共演し、父と娘の絆の再生を描いた感動のロードムービーだ。 長い間疎遠だった娘のある出来事をきっかけに、父は彼女をニューメキシコ州へと向かう旅に連れ出す。関係を修復し、距離を縮めたい父と、過去を許せない娘。互いの心の溝に戸惑いながらも、目的地が近づくなか、少しずつ想いが交わっていく。 実生活でもユアンとの親子関係に葛藤を抱えていたクララが、自身の経験をもとに脚本を共同執筆した。

4本目は、英国アカデミー賞US学生映画賞と学生エミー賞ドラマ部門を受賞したパトリック・ディキンソンが監督、脚本を手掛けた『コットンテール』(23)。妻、明子の葬儀で、兼三郎は疎遠だった一人息子の慧(トシ)とその妻さつき、孫のエミと久々に再会した。酒に酔いだらしない態度をとる喪主の兼三郎に苛立ちながらも、トシは父を気にかけていた。遺言には、明子が子どものころから好きだった「ピーターラビット」の舞台、イギリスのウィンダミア湖への散骨の願いが記されていた。兼三郎とトシ一家はその願いを叶えるため、湖水地方へ旅立つ。出演はリリー・フランキー、錦戸亮、木村多江、高梨臨など。

5本目は2021年の第74回カンヌ国際映画祭監督週間に出品され、日本でも同年第22回東京フィルメックスでコンペティション部門に出品された(映画祭上映時タイトル『砂利道』) 『君は行く先を知らない』(21)。イランの荒野を車で旅する家族の姿を描いたロードムービーで、監督自身や家族、友人たちに起きた実際の出来事に着想を得た物語だ。イランの大地を車で旅する4人家族。ギプスをした父は後部座席で悪態をつき、母は古い歌謡曲に身を揺らし、長男は無言でハンドルを握る。無邪気な次男を乗せた車は、さまざまな出来事が起こりながらも、一家はやがてトルコ国境近くの高原へ。そこで一家の旅の目的が、静かに明らかになっていく。

6本目は、第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門監督賞ほか、世界各国で多数の映画賞を受賞したマット・ロス監督作『はじまりへの旅』(17)。本作は、ヴィゴ・モーテンセンが森で暮らす大家族の父親を演じるロードムービーだ。アメリカ北西部の森で、独自の教育方針のもと6人の子どもを育てるベン・キャッシュ。子どもたちは高い知性と体力を備えていたが、母レスリーの死をきっかけに、一家は葬儀と母の願いを果たすため2400km離れたニューメキシコへ旅立つ。初めて現代社会に触れる子どもたちは戸惑いながらも、自分らしい生き方を模索していく。

7本目は主演のブルース・ダーンが、2013年の第66回カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞したアレクサンダー・ペイン監督作『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(13)。頑固者の父親と、そんな父と距離を置いて生きてきた息子が旅を通して心を通わせる姿を描いたロードムービーである。モンタナ州に暮らす大酒飲みで頑固な老人ウディ(ダーン)のもとに、100万ドルを贈呈するという疑わしい手紙が届くが、すっかり信じ込んでしまったウディは、妻や周囲の声にも耳を貸さず、歩いてでも賞金をもらいにいくと豪語。そんな父を見かねた息子のデイビッドは、無駄骨とわかりつつも父を車に乗せてネブラスカ州を目指すが、途中で立ち寄ったウディの故郷で両親の意外な過去を知る。

【画像を見る】オーウェン・ウィルソン、エイドリアン・ブロディ、ジェイソン・シュワルツマンと名優たちが顔を揃えた、ウェス・アンダーソン監督作『ダージリン急行』【画像を見る】オーウェン・ウィルソン、エイドリアン・ブロディ、ジェイソン・シュワルツマンと名優たちが顔を揃えた、ウェス・アンダーソン監督作『ダージリン急行』[c]Everett Collection/AFLO

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8本目は『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(01)のウェス・アンダーソン監督が、三兄弟の再生の旅を描く『ダージリン急行』(07)。父の死がきっかけで疎遠になっていたホイットマン三兄弟だったが、長男フランシスの呼びかけで次男ピーター、三男ジャックの3人が揃い、インド横断の列車旅行に出る。しかし、そんな彼らには予想外の出来事が待ち受けている。本編前に上映された三男ジャックの恋を描いた、ナタリー・ポートマンも出演した13分の短編『ホテル・シュヴァリエ』も話題に。

家族の絆の再生を描くロードムービー『リトル・ミス・サンシャイン』家族の絆の再生を描くロードムービー『リトル・ミス・サンシャイン』[c]Everett Collection/AFLO

ラストとなる9本目は、第79回アカデミー賞で助演男優賞と脚本賞を受賞したジョナサン・デイトン、バレリー・ファリス監督作『リトル・ミス・サンシャイン』(06)。黄色いオンボロ車に乗り、落ちこぼれ家族が繰り広げる奇妙でハートフルなロードムービーだ。アリゾナの田舎町に暮らす少女オリーブは、ぽっちゃりでちょっと不器用な女の子。彼女がひょんなことから全米美少女コンテストの地区代表に選ばれたため、家族は黄色いオンボロ車で、決戦の地カリフォルニアへ向かうことに。人生の“勝ち組”を目指す父、沈黙を貫く兄、ゲイで自殺未遂をした叔父、ヘロイン癖のある破天荒な祖父、そして家族を支える母。問題だらけの一家が、ひとつの夢を追って旅するうちに、少しずつ絆を取り戻していく。そんな笑いと涙に包まれた、愛すべき家族のハートフル・ジャーニーとなっていく。

平成19年度から定められた11月第3日曜日の「家族の日」。その前後各1週間を「家族の週間」とし、家庭や家族の絆を見つめ直すきっかけづくりが呼びかけられている。ぜひこの機会に気になる家族のロードムービーを、たっぷりと堪能していただきたい。

文/山崎伸子

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