かの有名なタイBLドラマ『2gether』を手がけたチャンプ・ウィーラチット・トンジラー監督による新作『(LOVE SONG)』は、向井康二(Snow Man)と森崎ウィンを主演に据えた「両片想い」の物語である。タイトルからもわかるように“ラブソング”が物語の鍵になるのだが、それもまた『2gether』のふたり——タインのために曲を書いたサラワットを想起させる。『2gether』が好きだったひとにはまちがいなく刺さるであろうし、観たことのないひとの心もあたためてくれるにちがいない、笑って泣けるラブストーリーである。

 カイを演じた向井康二は、主演したタイドラマ『Dating Game〜口説いてもいいですか、ボス!?〜』がつい最近完結したばかりだ。このドラマで向井が演じたのは厳格な日本人CEO・ジュンジで、社員からも恐れられる口数の少ないキャラクターである。彼らの会社が制作する恋愛シミュレーションゲームのモデルに選ばれたジュンジは、ゲームデザイナー・ヒルの攻略対象となり、ふたりの距離は接近してゆく。

 カイとの共通点でもあるがジュンジはあまり自分のことを話さない。ヒルと過ごすうちに芽生えた感情についてもなかなか口にはしない。しかしジュンジがヒルを見つめるまなざしや笑顔から彼の好意はだだ漏れている。一見クールで仕事のできるボスでありながら、ヒルといるときにはゆるんでしまうその“ツンデレ”っぷりを、向井は見事に表現していた。

 カイもまたジュンジほど典型的な“ツンデレ”属性ではないものの、あまり感情を表に出さない。この性格は劇中後半に明かされる過去のとあるできごとに由来するのだが、みずからの感情を抑えこみ隠しとおす苦悩やそれでも気丈にふるまう痛みは、向井のつくる繊細な表情から見てとれる。高貴でふれられない上司から涼やかながらも魂に熱いものを宿した音楽家へ——連続したBL作品の出演で言葉少なに目や表情で愛を語った向井の演技は、『映画 おそ松さん』のおそ松役やマッサマンのイメージを強く持っていたわたしには衝撃的だったが、今後の俳優活動が楽しみになった。

 ソウタを演じた森崎ウィンは、深田晃司監督作『本気のしるし』でのファム・ファタルに翻弄される演技が印象的だが(ちなみに偶然かもしれないが『(LOVE SONG)』の脇を固める俳優には筒井真理子や齊藤京子といった筒井組の実力派が多く出演している)、本作ではかわいらしさといじらしさにふり切っている。カイといるときのソウタはまるで尻尾を振る犬のようで、うれしそうにカイを見つめる。そんなソウタではあるがかわいらしさだけではなく、深い諦念を抱えた切ない側面もある。自分の想いが届かないものであると認め、諦めようにも諦めきれず涙する車内の場面には、コメディチックなこれまでの展開を一変させる迫力があった。涙を落とすソウタの悲壮感は、森崎の卓越した演技力によってスクリーンに焼きつけられている。

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