今年5月に開催された第78回カンヌ国際映画祭のクラシック部門に選出され、日本に先駆けワールドプレミア上映を果たした『天使のたまご 4Kリマスター』(公開中)のトークイベントが、11月14日、丸の内ピカデリー ドルビーシネマにて開催され、押井守監督が登壇した。
【写真を見る】たまごを抱える、かわいらしい押井守監督!
本作は、原案、脚本、監督を『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』(95)の押井守、アートディレクターを「ファイナルファンタジー」シリーズの天野喜孝が務めた、たまごを守る少女と鳥を探す少年を描いたファンタジー映画。今回は、公開40周年を記念し、押井監督自身による監修のもと、35mmフィルム原版から4Kリマスター化。ドルビーシネマ対応版も制作された。
イベントに登場した押井監督は、最初に「あらかじめ申し上げたいのはですね、映画を観て寝落ちするのは全然恥でもなんでもなくて、ある意味で言うと“寝落ちする映画は傑作”。寝てもらっても全然構わなくて、関係者でも眠くなる映画。初号試写では拍手も起きなかった(笑)」と、観客を慮り、会場から笑いを誘った。
続けて、「『天使のたまご』は、不憫な作品なんですよ。世に上手く出られなかった娘だとよく言うんですけど。40年経って手元に戻ってきたので、もう1回お化粧をして。もう1回世の中に出すという話なので、親として責任があるなと思っています」とコメント。
”伝説のOVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)”と言われる本作の発売元は徳間書店。「OVAについて、40年前はどういうものかよくわかっていなかったんですよ。徳間書店さんには、『やりたいようにやってもいいですか?』と言って、勝算がないから無収入で頑張りました。娯楽映画の幅を広げるんだ、と。いままでのものと違う、キャラクターとかストーリーに依存しないで、世界観とか美術とか、表現力そのもので映画を成立させたいと思ったので。ある意味、私自身がイケイケになっていたので、変な映画を作っても観てもらえるんじゃないかと思ったんです」と、企画を立ち上げた当初を振り返り、MCから「天野喜孝さんらをどう口説いたのか?」と問われると、「『あなたがやってくれないと永遠に勝算が出ないよ』という説得の仕方があるんですよ。こういう作品をやってみたいという人はいっぱいいたし、そうそうないので『関われてよかった』とスタッフが一番喜んだと思う。『あんたに騙された』とハッキリ言われたこともありますが(笑)。もっとキャラクターが飛んだり跳ねたりするような叙情豊かな作品かと思っていた人は裏切られたと思ったみたいですね」と回答した。
そして、“監督”という仕事にも言及。「結局、監督って映画を成立させることも仕事なんですよ。いままでやったことのない映画も含めて、成立させるのが仕事。『みんなが望むサッカーをしていない』ということで優勝したその日に解雇されたサッカーの監督もいますが、僕は映画監督の仕事はそうだとは思っていない。商業的に成功すればOKだというふうに思われがちなんだけど、映画監督の勝敗はそうではなくて、退場せずに、10年、20年後に生き残っているというのも大事だと思っている。私の場合は40年経って、時間との戦いに勝った。“歳月に耐える作品をつくる”という勝負の仕方もあるんですよ」と達成感に満ちた表情を見せ、ドルビーシネマ対応版を観た感想として「(制作陣の中には)何人かこの世に存在しない人たちもいるけれど、この世にいてくれたら、多分喜んでくれたと思う」と納得の様子を見せていた。
たまごを服の中に入れるお茶目な押井守監督
取材・文/平井あゆみ
