ワークウェアの名作、ファイヤーマンジャケットとは?

 オープンカラーシャツやスイングトップなど、当連載でもこれまで数多くの魅力的なヴィンテージアイテムを取り上げてきたラルフ。今なおデザイン部門のトップを務める創業デザイナー ラルフ・ローレン(Ralph Lauren)のヴィンテージに対する卓越した知見と、それをファッションに落とし込む絶妙なセンスは、ファッション好きのみならずコアなヴィンテージ愛好家からも強く支持されています。今回ピックアップしたのは、そんなラルフの実力が存分に発揮されたファイヤーマンジャケットです。

ポロ ラルフ ローレン ファイヤーマンジャケット

 ファイヤーマンジャケットとは、その名の通り消防服のことで、フロントに配された金属製のフックが最大の特徴です。金属製だと重いのでは?と思われるかもしれませんが、実際に着用してみるとそれほど気になりません。これは、消防士が分厚い手袋を付けたままでも開閉できるようにするためのディテールで、19世紀後半に生まれたと言われています。この金属製フックは、各国の消防署や軍隊など、多くの消防服で使われていましたが、1960年代以降は徐々に耐熱仕様のジッパーや面ファスナーなどに移行していきました。にも関わらず、今なお多くのファッションブランドがこの金属製フックをサンプリングしている理由は、この無骨な雰囲気がファッション好きの心を掴んで離さないからではないでしょうか。

ポロ ラルフ ローレン ファイヤーマンジャケットポロ ラルフ ローレン ファイヤーマンジャケット

 ラルフがサンプリングしたであろうヴィンテージのファイヤーマンジャケットには、太いコットン糸を織り上げてつくるダック地が主に用いられていますが、生地にも進化が見られます。1960年代に、アメリカの化学メーカー デュポン(Du Pont)が「ノーメックス」という難燃性が高い素材を開発。ナイロンの一種であるノーメックスは、消防士だけでなく、レーシングカーのドライバーや宇宙飛行士など特殊な環境で着用されるウェアに用いられるようになり、同じくデュポン社が開発した「ケプラー」と共に耐熱生地の代名詞的存在になりました。

単なる焼き増しではない、ラルフ・ローレンのデザインの真髄

 このように、元は純然たるワークウェアだったファイヤーマンジャケットを、スタイリッシュなファッションアイテムに仕上げてしまうのがラルフの手腕です。今回ピックアップした2アイテムはどちらも1990〜2000年代初頭のアイテムですが、実は生地がそれぞれ異なっていて、画像左のアイテムにはコットン素材が、右のアイテムにはナイロン素材が用いられており、元のダック地よりも洗練された印象に仕上がっています。個人的には、着込んでいくと経年変化でスミクロにフェードしていくコットン素材の方が好みです。

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 ディテールの妙も見逃せません。袖口に細めのレザーベルトを配したり、フラップポケットにジップポケットを重ねたりと、パッと見ただけではなかなか気付けないアレンジが加えられています。こういった細部へのこだわりが、単なるヴィンテージの焼き増しに留まらない、ラルフのデザインの真髄だと思っています。

 このファイヤーマンジャケットは、新品の定価から考えると相場はそれほど高くなく、5万円くらいから。サイズや状態によっては10万円を超えることもあります。オリジナルのファイヤーマンジャケットと比較して丈が短いので、大きめサイズを選んでざっくりと着こなすのがオススメです。

編集:山田耕史 語り:十倍直昭

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