「遠回りでもロマンがある道を」/『デスノート THE MUSICAL』夜神 月役・渡邉 蒼にインタビュー
2025.11.13
インタビュー
公演情報
特集
日本発のオリジナルミュージカルとして2015年に初演されて以来、世界中を魅了し続けている『デスノート THE MUSICAL』。初演から10周年という記念すべき2025年11月、新キャストを迎えて上演されます。
今回は、主人公・夜神 月役を演じる渡邉 蒼さん(※加藤清史郎さんとのWキャスト)にインタビュー。本作品に懸ける思いを、これまでの歩みとともに聞きました。
(取材・文:五月女菜穂/撮影:林 将平)
【11月15日~20日限定】
▼ラッシュチケット販売▼

「Ah!Oh!」と叫ぶマイケル・ジャクソンに憧れた

――渡邉さんは子役からキャリアをスタートしていますが、そもそも芸能界を目指したきっかけは?
僕がエンタメに興味を持ったのは、マイケル・ジャクソンが亡くなったというニュースがきっかけでした。ニュースの中で流れるマイケル・ジャクソンの映像や彼の音楽にすっかり魅了されてしまって、「自分もマイケルみたいになりたい!」と思ったんですよね。それで、ダンスを習い始めたんです。
――マイケルが「Ah!Oh!」と叫んでいるのを、自分の名前(蒼)を呼んでいると思ったと聞きましたが…(笑)
あはは、それは本当の話です(笑)。衝撃的だったんですよね。当時僕は5歳ぐらいだったと思うんですけど、「どこかの国の有名人が僕の名前を呼んでいる!しかもその人、めっちゃ格好いい!」と思って。
――それがきっかけでダンススクールに通われて。楽しかったですか?
はい、すごく楽しかったですね。ダンスを始めた時点で「これを職業にしよう」と心のどこかで決めていたような気がします。
1番の理由はもちろん楽しかったということですが、僕は他にできることが何もなくて。近所の子より自転車に乗り始めるのが遅かったり、体育の授業のサッカーで活躍できなかったり。でもダンスならできた。僕にはダンスしかない。そう思って導かれていったように思います。
通っていたダンススクールでは、ミュージカル公演もやっていました。歌を本格的に習うのは小学5年生ごろからなんですけど、歌うことはもともと好きでした。「マイケルになりたい」という思いが強かったので、歌い方から何から最初はマイケルの真似事ばかりでしたけどね(笑)

演出家に「君は天才だね」と認められて
――映像作品に出演したり、演劇作品にも出演したりと活躍されていますが、映像と舞台の違いは意識していますか?
そうですね、演劇の稽古場は何度も同じシーンを演じることができますし、素晴らしい先輩方と一緒に稽古をしていくので、本当に学ぶことが多いなと感じます。
同時に「心を揺さぶる芝居」は、舞台の上でも画面の中でも、その根本は同じところにあると先輩方の背中を見て最近は強く感じます。
――ホリプロの舞台で初めて出演したミュージカルが『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』でしたね。
2021年上演ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』
©武論尊・原哲夫/コアミックス 1983 版権許諾証GS-111(撮影:田中亜紀)
はい。僕をミュージカルの世界に誘ってくださったのが、演出の石丸さち子さんでした。主演の大貫勇輔さんをはじめ、そうそうたるキャストがそろっていて、もう何をやっても足りない、行きたいところに行けない。そんなモヤモヤした感情が自分の中に常に渦巻いていました。僕のバットという役は見せ場も多かったのですが、何度稽古を重ねても、自信が湧き上がることは正直なくて。幕が開いて、お客様からの評価や反響を得て、ようやくそのモヤモヤした気持ちが晴れた感じがしました。
さち子さんには本当に愛と情熱のこもった指導をいただきました。さち子さんは本番期間も頻繁に劇場にきてくださったんですが、あるとき「君は天才だね」と言ってくださった。なぜそう言ったのか、確かなことは分からないのですが、認められたいと思った人に少しでも認めてもらえたような気がして、とても嬉しかったですし、そういう瞬間が僕のモチベーションなのかなと思います。

余談ですが、再演のゲネプロで印象的なことがあって。劇の終盤、バットが頭につけたゴーグルを外す場面があるんですけど、僕はその日、誤ってゴーグルをピンでとめてしまっていて、ゴーグルと一緒にカツラが取れてしまったんです。
焦りと不甲斐なさで頭がいっぱいでしたが、心の中で「さち子さんなら意地でも続けろと言うだろうな」と思って。それで、出番が終わった後に先輩方に失態を謝りにいこうと思ったら、さち子さんが楽屋で「あの子、芝居を続けたんだよ」と、自分の息子を自慢するように誇らしげに話している声が聞こえて。すごく温かい気持ちになったことも覚えています。
でもそのあとしっかり90度のお辞儀で謝罪させていただきました!(笑)
――ひと回りもふた回りも成長した現場だったのですね。その後も話題作に出演し続けていますが、『ハリー・ポッターと呪いの子』ではアルバス・ポッター役で出演していました。
舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』アルバス・ポッター役 扮装ビジュアル
はい。ロングラン公演なので、最初は「自分との戦い」だと思っていました。自分がどれだけモチベーションを高く保って、毎回毎回成長し続けられるかが勝負だと思っていたんです。でも半年を過ぎたあたりから、人間一人では限界があるな、このままではダメだなと思い始めた。それでアルバスとスコーピウスの仲間と深い会話をする機会を設けたんです。
きっと2、3カ月ですべてが終わる作品だったら、何もしなくてもよかったのかもしれません。でもロングラン公演だからこそ、がっつりと俳優同士が腹を割って、曝け合って、同じ方向を見る必要があると思って。その会話の後、一つまた作品がグッと深まった感覚がありました。
舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』2024年公演 舞台写真
俳優としても人間としても成長を感じる日々
――そして、今回の『デスノート THE MUSICAL』。お父様が「夜神 月役が似合う」と予言されていたそうですね?

はい。なぜそう思ったのか、詳しい理由は分からないです。でも月は、警視庁長官の父を持ち、親の期待を背負いながら、特殊な環境で育ってきた子なんですよね。僕は抑圧された中で育ったわけではないですけど(笑)、小さい頃からずっとダンスをやっていて、韓国に留学したこともあって、親と過ごす時間よりもスタジオで過ごす時間の方が長かった。ある意味特殊な環境で育ったからか、親のみならず、よく周りの人に「何を考えているかは分からない」と言われることが多い。
僕を今の事務所、ホリプロに誘ってくれたマネージャーさんも「何を考えているか分からないのがいい」と言っていたぐらい。自分としてはすごく純粋な動機で生きているんですけど、分からないところがままあるらしくて。だからこそ、父も月役が合うと思ったのかなと思います。
――配役が決まったときのお気持ちは?
僕はまだ21歳。全然まだまだ経験が足りない中で、今回夜神 月役に呼んでいただいたので、最初は大きな不安が押し寄せてきました。
シンプルに戯曲としての難易度も、ミュージカルとしての難易度も桁違い。不安でしかなかったんですが、不安に思っている暇があったら、とにかく準備をしなくてはと思って。今日まで練習を重ねてきました。

――栗山民也さんからはどんな演出を受けていますか?
僕はレッスンを受けるなど、お芝居を勉強してきた人間ではなくて、現場で出会った格好いい先輩たちを見よう見真似でやってきたんです。だから、栗山さんの演出は自分の痛いところを突いてくださる印象です。
「芝居は生活なんだ。役の生活が映し出される結果が芝居なんだ」と栗山さんはよく仰る。僕は自分自身にあまり関心がなく生きてきたんですが、栗山さんの演出を受けていると、そうもいかない。自分という人間が心の底で何を思っているのか、何が好きかだけではなく、何が嫌いで、何に対して嫌悪感を抱くのか。そういう自分の嫌なところに向き合わないといけない。月も完成されていない人間だから、役としての弱みと自分の弱みが少しずつ繋がりつつある感覚があります。
栗山さんのディレクションを受けて、俳優としても、人間としても、成長している気がします。

――Wキャストの加藤清史郎さんの印象は?
月はキャラクターとしても難しい役ですし、そもそも難しいセリフが多いんです。法と正義は全く別のものでしょう」という開幕一言目のセリフでさえ、何を言っているのかすぐに理解するのは難しい。だから、「これってどういうことなんでしょう?」と清史郎くんにあれこれ相談しています。
僕から見ると、清史郎くんはパーフェクトな人に見えます。僕もWキャストだから、清史郎くんとともにこのカンパニーの座長的ポジションだと思うんですけど、その点は彼に頼りきっています。差し入れの1つから、キャストの方々への鼓舞の仕方から、何から何まで格好いいんですよ。その姿を横で見させてもらいながら、自分にできることはなんだろうかと考える日々です。
――そのほか共演者の印象は?
浦井(健治)さんは、いい意味でご自身が月のオリジナルキャストであることを全く見せず現場にいてくださいます。普段から愛があって優しく接してくださるお兄さんなので、浦井さんのリュークは月を見守ってくれている感じがします。死神とはいえ、守護神のように周りを漂うリュークなんです。でも、ラストはやっぱり死神だったと、圧倒的な力で思い知らされる感じですね。
L役の三浦(宏規)さんは舞台上では圧倒的なライバルですが、舞台を降りたら、超優しいお兄さんです。先日も誕生日プレゼントをくださったんですよ!すごく嬉しかったです!
――今苦労している点も含めつつ、改めて作品の魅力はなんだと思いますか?
セリフが本当に難しくて!特に月とL、リュークが言うセリフはすごく哲学的で、戯曲だけ読んでいると、ちょっとシェイクスピアを感じるような内容で。だからこそ俳優自身が一言一言をちゃんと理解して、心の底から言わないといけないんですけど……この難解なセリフの中から滲み出てくる、人間の欲とか熱とかのぶつかり合いがすごく面白い作品だなと思います。
栗山さんも「調和されている作品にしたくない。人間の欲と欲がぶつかり合う様が見たい」と常日頃から仰っています。セリフや歌は美しいところもあるんですけど、出てくる人間はすごく汚いというか、人間らしい欲望にまみれていて。そのギャップが素晴らしい作品だなと思います。
……僕、汚い作品が好きなんですよ。綺麗な作品を見ると、なんか自分が情けなくなっちゃうんです。自分自身と比べて、その世界に自分は間に合ってない人間だなと思うんですけど、「デスノート」みたいな作品を見ると、心がたぎるというか、熱くなるんです。悲しいことだけど、これが人間の成れの果てなんだよなと思えるような作品がとても僕は好きです。

――確かに出演されていた『ダーウィン・ヤング 悪の起源』もダークな世界観でしたよね。
そうですね。明るくて、圧倒的な希望がある作品もそれはそれでとても魅力があると思うんですけど、『モーツァルト!』も『エリザベート』も大きな作品って、どれも結構死のにおいがする気がするんです。
人が死を迎える時どんな表情をするのか、「命を奪う」という権利が誰かの手に落ちたとき、それがどれほど恐ろしいものになるか。「デスノート」という作品が持つその汚さがとても好きです。
「人として舞台に立って、人間の尊い瞬間を切り取りたい」

――今後どんな俳優になりたいと思っていますか?
人として舞台に立ちたいと強く思うようになりました。そして、人間の尊い瞬間を切り取ることができたらいいなと思っています。
人にはいろいろな嫌なことや傷み(いたみ)があって、その中でも人に話せることと人に話せないことがあると思うんですけど、その人に話せない傷みを救う唯一の手段が、演劇やエンターテイメントだと思うんです。ただ、誰かのその傷みを救いたいと考えたとき、こちらが曝け出さない状態で救うのは、ちょっとおこがましい話だと思うんです。こちらが化けの皮を剥がさず、綺麗な面を保ったままで救えるほど、その誰かの傷みというのは簡単なものじゃないから。
だからこそ、まずは僕が曝け出して、人間として舞台に立って、その中で尊くて美しいものだったり、残酷だけど実際にこの世界に存在するものだったりを素直に描いていけたら、たくさんの人の心に触れられるのではないかなと思っています。
――そう思われたのは、何かきっかけがあるんですか?
これまでは、自分がどれだけ成長できるか、自分が俳優としてどこまでいけるかということが、心の割合の多くを占めていたんです。でも『WAR BRIDE -アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン-』という作品に出演したときに、作品自体もめちゃくちゃ素敵だし、愛がある作品だったんですが、何よりキャストの皆さんの愛が作品に負けないぐらい素晴らしかったんですね。ああ、純粋な心で向き合っているお芝居は、勝手に純粋になって、勝手にいい作品になるんだなと思ったんです。
自分のことばかりを考えていたら、どれだけお芝居がうまくても「この人、自分のことを考えているな」とバレてしまう。自分のエゴみたいなものを捨てて、作品への愛というものを、ただただ追い求めている先輩方の姿を見て、実力だけでもなく、技術だけでもなく、自然と出てくるものの方がよっぽど作品をよくするんだと感じたんです。お芝居の実力を成長させる方が近道と言えば近道なのかもしれないですけど、僕は遠回りでも、そのロマンがある道を選んでみたい。最近はそんなことを思っています。

――プライベートでハマっていることや趣味を教えてください。
趣味らしい趣味はありません。というのも、僕は稽古中に新しいことを始めてしまうと、結構影響を受けてしまうタイプなんです。役と一緒に何かを始めるのはいいと思うんですけど、例えば月役のときに、ピクニックとか明るい趣味を始めたら、すごく平和な心になって、役に悪い影響を与えそうで……。
敢えて挙げるならば、最近は走ることにハマっています。僕はぼーっとするのが苦手なんですね。瞑想しようと思っても、明日の予定とか、先日受けたディレクションとか、そういうことが頭に浮かんでしまって、全然瞑想できない。でも、体を動かすときは唯一ぼーっとできるので、自分の生活リズムを保ったり、体力作りをしたりするために、ランニングをするようになりました。30分ぐらい走ると、頭がすっきりするんです。

――2025年はどんな一年だったかということも含めて、観客へのメッセージをお願いします。
2025年は『ハリー・ポッターと呪いの子』、『WAR BRIDE -アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン-』に出させていただいて、それぞれ全然違うことを学びましたし、今回の『デスノート THE MUSICAL』も、自分にとってすごく大きな作品になるだろうなと思います。
この作品自体が10周年で、キャストも大きく変わりました。キャストが変わったということは、出演する人たちの価値観も変わったし、10年前に比べて、世の中もすごく大きく変わってると思うんですよね。
政府が大きく変わりましたし、戦後80年という節目の年でもあるし、世界の情勢を鑑みても、戦争という言葉や、ちょっと物騒なニュースを聞く機会が増えてきた気がします。だから、きっと見えないところで、世間の1人1人が抱える不安みたいなものが少しずつ大きくなっている時代なのかなと思うんです。
『デスノート THE MUSICAL』はそういうところにちゃんと切り込める力を持つ作品。生半可な覚悟では成果を発揮できないので、「デスノート」という作品の大きさや鋭さ、それに見合うエネルギーと夜神 月像をもって臨んでいけたらと思います。劇場でお待ちしています!

<渡邉 蒼(わたなべ・あお)>
東京都出身。子役としてNHK大河ドラマ「西郷どん」や連続テレビ小説「なつぞら」で注目を集める。2023年にはミュージカル『ダーウィン・ヤング 悪の起源』で主演ダーウィン・ヤング役を演じ、24年7月からは舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』でアルバス・ポッター役を演じる。24年10月には作詞作曲編曲を自身で行った楽曲をリリースし、本格的に音楽活動を開始。近年の出演舞台は、『WAR BRIDE -アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン-』『不思議な国のエロス』『ヒトラーを画家にする話』『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』など。26年3月からは『ブラッド・ブラザーズ』主演・ミッキー役(Wキャスト)で出演予定。

