1995年に公開された『トイ・ストーリー』は、劇場用長編映画として世界で初めてフルCGアニメーションで制作されたアニメ映画です。この『トイ・ストーリー』は劇場公開版は35mmフィルムで上映され、のちに技術の進歩によってデジタル版がスタンダードとなりました。この2つのバージョンの違いについて、アニメ関連のニュースレターである「Animation Obsessive」が解説しています。

The ‘Toy Story’ You Remember – by Animation Obsessive Staff
https://animationobsessive.substack.com/p/the-toy-story-you-remember

『トイ・ストーリー』は初の全編CG長編アニメーション映画として宣伝されました。しかし、1995年当時はデジタルデータをそのまま劇場で上映する技術がまだありませんでした。そのため、『トイ・ストーリー』を制作したピクサーは、コンピューターで作った映像の全フレームをアナログの35mmフィルムに印刷するという方法を採りました。

ピクサーの制作チームは、最終的にフィルムで上映されることを前提として、デジタルの色を調整していました。例えば、アートディレクターのラルフ・エグルストン氏によれば、緑はフィルムにすると非常に暗くなるため、モニター上では明るく調整し、逆に青はフィルム上で鮮やかに見えるよう彩度を落とすといった工夫が行われていたとのこと。


このデジタルからアナログフィルムへの転写プロセスは非常に手間がかかる作業で、撮影監督のデビッド・ディフランチェスコ氏率いるチームが担当しました。チームは各フレームを赤・緑・青の3要素に分け、CRTスクリーンの前で3回露光してフィルムに焼き付けました。そのため、30秒の映像を印刷するのに9時間かかったそうです。


公開後に販売されたVHSの映像も、当初はこの35mmフィルム版を基にしていました。しかし、1998年に公開された『バグズ・ライフ』をVHS化する際に、フィルムを介さずにコンピューター内のデジタル映像を直接VHSにする方法が実現。『トイ・ストーリー』や『バグズ・ライフ』の監督を務めたジョン・ラセター氏は、このデジタル版を「コンピューターから直接書き出した真のバージョン」と呼んでいます。そして、『トイ・ストーリー』も2000年代以降のメディアではデジタル版がスタンダードとなりました。

つまり、記事作成時点でBlu-rayやディズニープラスなどで視聴できる『トイ・ストーリー』の映像は、公開当時に劇場で上映されたフィルム版とは見た目が大きく異なるというわけです。デジタル版はフィルム版のように暗い場所で上映することを想定して調整されてはいないので、デジタル版の方が鮮明で明るい映像になっているとのこと。

以下は有志が作成したフィルム版(左)とデジタル版(右)の比較動画で、色合いがかなり異なることが一目でわかります。

Toy Story: Original 35mm Theatrical Print vs. DVD Digital Transfer Re-release – YouTube


これは『トイ・ストーリー』に限らず、ディズニーの『アラジン』や『ライオン・キング』、『ムーラン』といった90年代の他の作品にも当てはまります。これらの作品も当時はフィルム上映を前提に制作されていたため、デジタルデータから直接作られた現在のバージョン(下)は、色彩などが劇場公開版(上)と大きく異なります。


Animation Obsessiveは、今視聴可能なデジタル版は90年代に観客が体験したものとは「全く異なる」ものであり、ピクサーが本来意図した形のバージョンが現在ではほとんど視聴できなくなっていることは少し不安だと述べています。そして、もしオリジナルのフィルム版を見る機会があれば、それは価値のある体験であり、当時見た時の記憶が正しかったことを証明するだろうと語りました。

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