ABEMAオリジナルドラマ『MISS KING/ ミス・キング』が注目を集めている。将棋という静かな戦場を舞台に、天才棋士の父に人生を奪われた娘が憎しみを原動力に自らの人生を取り戻していく——。その重厚なヒューマンサスペンスを支えているのは、主演のんを筆頭に倉科カナ、鳴海唯、山口紗弥加という4人の女優たちだ。いずれもNHK連続テレビ小説で重要な役を演じ、“朝ドラ女優“として親しまれてきた実力派。彼女たちは今回、それぞれのキャリアを更新する“新しい顔”でスクリーンに立っている。
まず挙げたいのは、主人公・国見飛鳥を演じるのんだ。NHK連続テレビ小説『あまちゃん』で国民的ヒロインとなってから約12年。その明るく無垢なイメージは、いまも多くの視聴者の心に残っている。だが『MISS KING / ミス・キング』での彼女はまったく違う。天才棋士の父に人生を狂わされた飛鳥は、深い憎しみを胸に秘め、盤上で運命に抗う“ダークヒーロー”として描かれる。

冷たい指先で駒を置く瞬間、ほんのわずかに震える瞳。怒りを爆発させることなく、抑え込んだ感情の奥から放たれる緊張感。その静けさが、逆に観る者の心を掴んで離さない。キャリア初となる復讐劇の主人公という挑戦にして、のんは清純という枠を軽やかに飛び越えた。Netflixでの世界同時配信を通じて、海外でも驚きをもって受け入れられており、純粋さと闇を併せ持つ新しい表現者・のんの誕生を、この作品は世界に刻みつけたと言っていい。

NHK連続テレビ小説『ウェルかめ』では、前向きに夢を追うヒロインを演じた倉科。彼女が本作で扮するのは、飛鳥が身を寄せるバーの店主・堺礼子だ。バーの明かりのように温かく、どこか懐かしい安心感を漂わせながら、飛鳥の孤独に寄り添う姉御肌の女性である。
復讐に取り憑かれた飛鳥にとって、礼子は数少ない日常の象徴だ。彼女の差し出すグラス一つ、微笑み一つが、闇に沈みかけた物語に柔らかな温度を取り戻していく。今作でのんを支える側として描かれる倉科の演技は、ヒロイン時代の輝きを残しつつ、年齢とともに深まった包容力を見事に体現している。倉科の視線が映す“人の強さと弱さの共存”が、このドラマに人間味をもたらしているのだ。

鳴海が演じるのは、将棋界の“アイドル女流棋士”早見由奈。NHK連続テレビ小説『なつぞら』『あんぱん』では可憐な笑顔と瑞々しい存在感で視聴者を惹きつけた鳴海だが、ここではまったく新しい表情を見せている。由奈は、表では華やかに笑いながらも、心の奥で“本物の棋士になりたい”という野心と葛藤を抱えている。
第5話で描かれたのん演じる飛鳥と対局するシーンでは、互いの感情が盤上でぶつかり合う。お互いに一歩も譲らない女同士の一戦は、視線のぶつけ合いだけで火花が散るような迫力だ。盤上で対峙する飛鳥との緊迫した空気の中で、視線一つ、指先の震え一つが、由奈という人物の生き様を語っているかのようだった。
清純派から一歩抜け出し、焦燥や嫉妬までも引き受ける鳴海の演技。将棋の駒を動かす手の動き一つで、彼女の心が揺れているのが伝わってくる。若手実力派の進化を、確かな説得力で証明した。
そして、山口。NHK連続テレビ小説『わかば』『おかえりモネ』『舞いあがれ!』と、数々の朝ドラで“信頼される大人の女性”を演じてきた彼女が、本作では真逆のベクトルへと振り切る。演じるのは、将棋名門・結城家の一人娘にして、頂点に立つためなら手段を選ばない冷徹な支配者・結城香だ。
感情を露わにすることはない。静かに笑みを浮かべるだけで、相手の息を詰まらせる。抑制された演技の中に、長年のキャリアで培った“圧”が確かに宿っている。第1話で飛鳥を前にしたときの無機質な表情。その一瞬に、結城香という人物の底知れなさが凝縮されていた。
山口の存在が、作品の空気を一気に引き締めている。彼女の悪は激情ではなく構造的な悪。伝統を守る名門のプライドが生み出す歪みを、繊細な所作と眼差しで描き出す技量はお見事だ。観終えたあとに残るのは、恐怖よりも納得。彼女がそこにいるだけで、この世界が本物になる。
『MISS KING / ミス・キング』で描かれるのは、単なる復讐劇ではない。朝ドラ出身という国民的信頼を背負った女優たちが、そのイメージを壊しながら、表現者としての自由を掴みにいく過程でもある。それゆえに、かつて彼女たちを朝の時間で見つめていた視聴者にとって、この再会はどこか懐かしく、そして新鮮に映るはずだ。彼女たちがどんな表情で、どんな想いを駒に託すのか。『MISS KING / ミス・キング』を通して、その答えをぜひ見届けてほしい。
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川崎龍也
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