鬼才ティム・バートンの名を世に高からしめた傑作『ビートルジュース』から36年。
驚くべきことに36年も経ってしまったというのに、マイケル・キートン、ウィノナ・ライダー、キャサリン・オハラなど当時の出演者をそのまま起用して続編が作られてしまった。

36年経って続編が公開されるというのは奇しくも『トップガン マーヴェリック』と一緒である。
昭和の頃だったら往年の映画スターとか呼ばれて後進に道を譲ってるような人たちが、最近は引退なんかせずにガンガン新作に主役級で出演するのである。良くも悪くも今はそういう時代なのだ。

自分はウィノナ・ライダーと同世代である。
前作公開当時17歳だった彼女も53歳。
本作の冒頭で彼女を観た時は、あのゴス美少女も年を取っちゃったなあ…と、自分のことを棚に上げて(笑)しみじみと時の流れを感じてしまったのは事実である。

でも、ウィノナ・ライダーはさすがに栄枯盛衰の激しいハリウッドを生き抜いてきただけあって、その演技は円熟味を増し、年頃の娘との関係がうまくいかない悩める母親という役どころをコミカルに熱演して堂々たるコメディエンヌぶりを見せてくれた。

ウィノナ・ライダーの健在ぶりも嬉しかったけれど、さらに驚かされたのはキャサリン・オハラである。本作でもウィノナ演じるリディアの義母として出演していたのだけど、全然変わってない。
もちろん70歳という年齢相応の容貌にはなっているのだけど、前作と同じ、芸術家気取りでちょっと頭のネジが緩んだヘンテコなキャラクターを演じるそのテンポのいい演技力にはいささかの衰えも感じられない。

ビートルジュースを演じるマイケル・キートンも73歳。
そもそも前作でも奇抜なメイクとイカれた演技で年齢不詳のキャラクターだったから本作でも何の違和感もない。
メイクや怪演に頼らずにマーヴェリックを演じ切ったトム・クルーズの方が凄かったかもしれないけれど、マイケル・キートンはトムより11歳も年上なのである。前作から36年も経っているのに同じキャラクターを70代でほとんど違和感なく演じてみせたマイケル・キートンもとてつもない俳優だと言える。

撮影当時はティム・バートンと付き合っていたというモニカ・ベルッチの60歳の妖艶さにもビビってしまう。
映画の魔術が色々と駆使されてはいるのだろうけれど、それにしてもこんな色っぽい60歳がいるのか、モニカ・ベルッチって本当に魔女なんじゃないかと疑ってしまう妖艶さだ(笑)。

総じて本作では中高年がやたらと元気なのである。
本作には、ウィノナ・ライダー演じるリディアと、ジェナ・オルテガ演じるアストリッドという二人の主人公がいるのだけど、やっぱり物語の中心となるのはアストリッドだと思う。でも中高年の皆さんがあまりにも元気すぎてアストリッドはかすんでしまっている(笑)。

母親リディアの物語と娘のアストリッドの物語が並行して語られるので作品の焦点がどっちつかずでボヤけてしまうのだけど、最近のティム・バートン映画は常にとっ散らかっているのでもう慣れっこである(笑)。

前作をリアルタイムで観た50代から70代くらいの観客は自分と同世代の俳優たちが現役バリバリな感じで頑張ってるのを見てずいぶん勇気をもらえるのではないだろうか。かく言う自分がそうだった。

でも、本作のラストには前作のような多幸感はない。あるのは中高年の苦い孤独感である。
前作が公開された年にティム・バートンは30歳だった。夢と希望でいっぱいだったであろう若き鬼才も本作公開時は66歳。
押しも押されもせぬ大監督として世界に認められ、幾多の映画女優と浮き名を流し、映画業界の表も裏も知り尽くしたティム・バートンがたどり着いたのは、もしかしたら無名のオタク青年だった頃とさして変わらない孤独の境地なのかもしれない。

ティム・バートンは功成り名を遂げてリア充の仲間入りをしてオタク魂を捨ててしまったと言われることもある。
でも、ティム・バートンはオタクの孤独な魂を今も忘れずに持ち続けていると思う。
本作を観て自分はそんなことをふと思ってしまった。

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