その眞栄田も「幼少期がここまでしっかりと描かれたうえで、途中から青年期を演じるのは初めての経験で、自分にとってチャレンジングでした」と吐露。尾上眞秀演じる幼少期パートの撮影素材を藤井監督に共有してもらい、インプットしたうえで撮影に臨んだという。「とはいえ、幸太が大人になるまでの12年間は劇中では描かれません。その空白期間を数少ないシーンでどう表現すべきか、悩みながら取り組んでいました」
しかし興味深いのは、「悩んだ」と言いつつも、眞栄田が詳細を明かさない部分だ。演者のある種の“弱み”を見せることが、観客が作品と真っ新に向き合う妨げになると感じるからだろう。舘の芝居への感想を求められた際にも、彼は「言葉にすると軽くなる」と首を振った。取材の場であっても自身の信条に則り、毅然とした態度をとる眞栄田に対し、舘は「洗練されたカッコよさを持ったいまの時代のスター」と目を細める。
『港のひかり』は“自己犠牲”をテーマに、三浦が幸太に何かを遺そうともがく姿を描いていく。舘は「三浦の不器用な生きざまは、いまやもう古いとされるもの。対して幸太は、新しい生き方を象徴している」と対比構造を分析しつつ、変わらないものについても言及した。それは「男って弱いもの」という少々意外な言葉だ。
「この年になってくると余計にそう思えてくる。男は元来弱いもので、強くなろうとする男がいるだけなのだと。三浦は幸太を子ども扱いせず、傷ついた男同士として接している。彼の中に自分自身を見たんでしょうね。だからこそ、ただの継承ではなく幸太が自分を超えたのが嬉しかったのではないでしょうか」
映画の終盤、三浦は幸太を慈しむように「強くなったな」と声をかける。その姿が、眼前で眞栄田を見守る舘の眼差しに重なった。

映画『港のひかり』
公開日:11月14日(金)
監督・脚本:藤井道人
出演:舘ひろし、眞栄田郷敦、尾上眞秀、黒島結菜、斎藤工、ピエール瀧、一ノ瀬ワタル、MEGUMI、赤堀雅秋、市村正親、宇崎竜童、笹野高史、椎名桔平
企画:河村光庸
撮影:木村大作
美術:原田満生
音楽:岩代太郎
配給:東映 スターサンズ
©2025「港のひかり」製作委員会
