11月7日に日本での公開がスタートする、中国発の長編アニメーション映画『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』(以下、『羅小黒戦記2』)。

第1作に続き、本作の国内展開を手がけたのはアニプレックス(以下、ANX)。『羅小黒戦記』が日本にやってきた2019年のエピソードから、日本語吹替版の制作、そして映画2作目へと連なる道のりを、担当プロデューサーに聞いた。

孫宗楨プロフィール写真

孫宗楨

Son Sotei

アニプレックス

映画『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)2 ぼくらが望む未来』とは?

映画『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』キービジュアル

『羅小黒戦記』は中国のアニメ監督・木頭(MTJJ)及び寒木春華(HMCH)スタジオが制作したアニメ作品。2011年より動画サイトで公開されたWebアニメシリーズを経て、2019年に劇場版を制作。同年9月からは小規模ながら日本国内でも中国語音声・日本語字幕版が公開され、アニメファンやクリエイターを中心に話題を呼んだ。その後、2020年には日本語吹替版『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』をANXの制作、配給により全国公開。コロナ禍の影響もありながら、異例の半年間というロングラン上映となった。

続編となる日本語吹替版&字幕版『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』は、配給に加えて、日本語吹替版・字幕版の制作をANXが担当し、2025年11月7日(金)より全国公開。黒猫の妖精・シャオヘイを花澤香菜、人間でありながら最強の執行人・ムゲンを宮野真守が演じるなど実力派キャストが再び集結。愛おしいキャラクターたちと、疾走感のあるアクション、ストーリーが一体となって、さらなる冒険ファンタジーを繰り広げる。

記事の後編はこちら:映画『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』日本展開のこれまで──数多のキャラクターとの真摯な向き合いがかたちづくる作品の魅力

いい意味で期待を裏切ってくれた『羅小黒戦記』第1作

――孫さんは、ANXの海外事業部で入社2年目だった2019年に『羅小黒戦記』と出会ったそうですね。

当時、日本で『羅小黒戦記』字幕版の単館上映が始まり、SNSで話題になっているという話を知人から聞いて、映画館に見に行ったのが始まりでした。2019年9月20日から10日間限定で上映されたあと、上映延長になったときの終盤の時期だったので、滑り込みのタイミングだったと記憶しています。

――単館上映当時のSNSでの盛り上がりはとても勢いがありましたが、あのムーブメントはどのようにしてできたのでしょうか。

要因はいろいろあると思いますが、長期間、単館上映が行なわれていたというのもあり、コアなファンの方々が繰り返し話題に挙げられていたことが大きかったのではないかなと思います。

上映が始まった当初は、日本在住の中国人の方々が多く見に行って、あっという間に劇場が埋まった、という話も聞きました。その次は日本のアニメ業界を始めとした、クリエイターの方々による口コミが徐々に広がっていったようですね。以降は、たくさんの方が、いろんな経路で作品を知るという流れができていきました。

真剣な表情で話すANX・孫

――ANXが『羅小黒戦記』の日本語吹替版を制作したのは、孫さんがこの作品を社内で紹介したことがきっかけになったそうですが、そのときの経緯を教えてください。

当時のANXの海外事業部は、各作品に担当者がついて、作品の海外まわりの業務の窓口を引き受けるという役割を担っていました。僕は、のちに『羅小黒戦記』の日本語吹替版でプロデューサーを務めた中山(信宏)さんの作品を担当することが多かったのですが、日本で『羅小黒戦記』の単館上映が始まったころに“こういう作品がありますよ”と、中山さんと話す機会があって。

その時点で、中山さんも既にSNSで話題になっていることを把握されていたのですが、まだ映画館には足を運べていないというタイミングだったんです。そこで自分が一足先に見に行って、“すごく面白い作品でした”と報告したことから、いろんなことが動き出しました。

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――作品を見た感想について、もう少し詳しく教えてください。

特に何も情報を入れずに見に行ったのも良かった気がしますが、いい意味で期待を裏切られた作品でした。

当時、僕は、中国のアニメ作品は世界観が独特で複雑、という漠然とした先入観を持っていたんです。それは日本でいうところの妖怪をテーマにした作品のように、地域に根づいた土着の文化をある程度わかっていないと話に入り込めないんじゃないかという類のものでした。

でも、蓋を開けてみたらそういったことは全然なく、ストーリーとしてもスッと入ってくるもので、すごく面白かったんですね。あとは、キャラクターの名前がシンプルだったという点からも、わかりやすく、親しみやすい作品だと感じました。

目に涙をためるシャオヘイ

シャオヘイ(CV:花澤香菜)

国内展開の成功から第2作に向けて

――そこからANXで『羅小黒戦記』日本語吹替版のプロジェクトが始まることになりますが、当時の孫さんはどういう立場で携わっていたのでしょうか。

当時、海外事業部にいた僕としては、国内で字幕版の配給の権利を持っていた企業へのコンタクトと、そこから中山さんたちの制作チームに橋渡しをしたら、自分の役目は終わりだと思っていたんです。

ですが、2019年の秋にこの話が動き出して以降、自分も企画会議に出るように言われ、社内で作品のプレゼンをすることになり……そうこうしているうちに、2020年の2月には制作部への異動発令が出て(笑)。以降は日本語吹替版のアシスタントプロデューサーという立場で、原作元のHMCHスタジオとの調整をはじめ、日本語吹替版制作に関する業務全般に携わっていくことになりました。

顎に手を当てて話すANX・孫

――字幕版に加え、日本語吹替版の『羅小黒戦記』も国内で好評を得たことから、『羅小黒戦記2』についてはアニメーション制作の初期段階から、日本展開に関してANXが携われる座組になったのではないかと思うのですが、第1作のときと制作体制はどのように変わったのでしょうか。

基本的には、木頭(MTJJ)監督と顧傑監督、そして寒木春華スタジオが中心になって、独自に制作されている作品なので、そこにANXから何か意見を出すといったことはありません。そもそも2019年に1作目が完成したあと、我々が1作目の吹替版を制作していた2020年の時点で、スタジオでは既に2作目の構想に入られていて。木頭(MTJJ)監督によれば、そこから脚本に1年、コンテに1年をかけたということでした。

ANXはというと、そこまで制作が進んだ2022年から2023年のタイミングで、2作目を作られているというお話をスタジオから聞いて、それならば日本での公開はいつぐらいが良さそうか、というやり取りを始めました。

なので、作品のクリエイティブそのものには関与していないものの、日本での劇場公開に向けた話は、早い段階から本国側の情報を共有していただいていて、準備はスムーズに進められたと思います。

青い長髪のムゲン

ムゲン(CV:宮野真守)

――準備というのは、具体的にどういったことでしょうか。

日本で公開するのであれば、今回は当然、字幕版と吹替版を同時に公開しようと思いました。そうなると、1作目と同様に吹替版を制作することになりますので、翻訳用の素材をいつごろいただけるのか、キービジュアルや各種画素材の手配はどれくらいのタイミングになるのか、といった段取りを決めることですね。公開に向けた段取りは、スタジオ側からの情報がないと組み立てるのが難しいのですが、そのあたりは逐次共有していただけたので有り難かったです。

また、1作目のときはお互いが手探りのなかでのやり取りだったので、“これはどういうことですか?”という質問をするために、“なぜその質問をするのか”を説明しないといけない、というように、コミュニケーションに時間がかかっていたんです。ですが、今回はスタジオの担当者の方とも直に連絡が取れるようになったので、かなりスムーズになりました。

そういったこともあって、今年の3月に『羅小黒戦記2』の初報が出たときも、全世界で日本だけは中国と同時解禁ということでティザービジュアルを出させていただき、『AnimeJapan 2025』でもいち早くイベントをやらせていただくことができました。

――孫さん自身の作品との関わり方は、1作目のときと比べて変化はありましたか?

社内でやっていることはあまり変わっていないのですが、原作サイドとはもう5年以上、お付き合いをさせてもらっているので、コミュニケーションが取りやすくなったと思います。

それと、1作目の吹替版公開当時はちょうどコロナ禍だったということもあって、今まで当たり前に行なわれていたことも思うようにできなかったんです。そういう意味では、今作では現地のスタジオに行って直にコミュニケーションを取ることもできましたし、いろいろなことが進めやすくなりました。イラストの描き下ろしの発注なども、お互いにクリエイティブ面でのやり取りがしやすくなり、すごく有り難かったですね。

紫の花が広がるシーンの写真

徹底的な作り込みとともにスケールアップを果たした『羅小黒戦記2』

――第1作に比べて、『羅小黒戦記2』のアニメーション表現で進化したと感じるのはどんな部分でしょうか。

これはスタジオの制作陣が話していたことなのですが、今作は作画の線が細くなっていて、いろいろな面でディテールがより際立つ映像になっています。そのうえで、アクションシーン自体もかなり増えているので、見応えのある、よりエンタテインメント性の高い作品になっていると思います。

両手を前に出し、眉間にしわを寄せて力を籠めるシャオヘイ

また『羅小黒戦記2』では、作品の素晴らしい世界観はそのままに、見る者をぐいぐいと引き込んでいくカタルシスの部分も増えていて、“とにかく面白い作品にしよう”という原作サイドの強い意欲を感じていただけるのではないかと思います。

――アクションシーンも情報密度も、全体的にスケールアップしていると感じましたが、制作規模そのものも大きくなっているのでしょうか。

はい。これも制作陣から聞いた話ですが、やはり、クオリティ面で前作を超えるというのが彼らのなかでも目標になっていて。スケールアップも意識し、それを実現するためにスタッフの数も増やしたようです。

制作スケジュール的にも、最後の最後まで調整が入ったので、映像の完パケ(完成品の納品)もかなりギリギリのタイミングになりました。なので、僕らが本格的に吹き替えの準備に入れたのも、実は今年の7月くらいのことで。7月に翻訳をして、8月にアフレコをして、というスケジュール感でした。

――かなりギリギリのタイミングになったんですね。

V編(=ビデオ編集/制作工程の最終段階)が9月末だったので、日本語吹替版の完パケは、実はついこの間のことでした。キャストさんには早め早めにお声がけをしていたのですが、いざ蓋を開けてみたらギリギリになってしまいましたね(苦笑)。

きりっとした表情のムゲン

後編では、キャスティング、アフレコ秘話を中心に、作品の見どころについて話を聞いた。

後編に続く

文・取材:柳 雄大
撮影:冨田 望

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