「でも、爆発したって、べつによくないですか?」

現在公開中の映画『爆弾』で、“霊感で爆破事件を予知できる”と自称する謎の中年男スズキタゴサクは、爆弾探しに東京中を奔走する警察を前に不埒にもそう言い放つ。

『爆弾』(c)呉勝浩/講談社 (c)2025映画『爆弾』製作委員会

「凄まじかった」「表情や口調、映像からは感じ得ないはずの匂いまで怖すぎて、まだ震えてる」「スズキタゴサクの得体の知れなさ、生々しさは圧巻」「他に演じられる俳優が思いつかない」「この役やる為に生まれてきた?って位の集大成」「コメディよりもハマってる」「今回の様な得体の知れない役の佐藤二朗が好き」などなど、佐藤二朗が演じるスズキタゴサクを目の当たりにした観客からは絶賛の声が止まらない。

佐藤二朗/photo:You Ishii

「今年の邦画は『国宝』とこれだなと言っても過言じゃない」という声も上がるほど、圧巻のエンタメミステリーとして観る者を没入させる『爆弾』の“化け物”スズキタゴサクは、確かにコメディ“じゃないほう”の佐藤の真骨頂だ。

一度観たら忘れられないスズキタゴサクについて、佐藤は「悪のカリスマと呼ばれるキャラクターには必ず哲学があるのが特徴ですが、スズキタゴサクにはそれがない」と言う。不条理で不公平な世界が産み落とした“化け物”は、頭は切れるが子どものように無邪気そのもので、良心の欠片も持たない、その虚無と混沌が最恐の理由となっている。

『爆弾』(c)呉勝浩/講談社 (c)2025映画『爆弾』製作委員会

1996年に演劇ユニット「ちからわざ」を旗揚げし、本格的に俳優活動を開始した佐藤は、堤幸彦監督のドラマ「ブラック・ジャック2」(2000)の名もない医師役を機に本木雅弘の事務所から声を掛けられ、『20世紀少年 第2章 最後の希望』(2009)のホクロの巡査にも起用され、やがて「勇者ヨシヒコ」シリーズをはじめとする福田雄一作品でのコミカルな演技でブレイク。

ドラマ「ケータイ刑事 銭形シリーズ」などでは自ら脚本を手がけ、強迫神経障害について描いた映画『memo』(2008)、自身原作の舞台を映画化した『はるヲうるひと』(2020)では監督・脚本。フォロワー数200万人超のTwitterからコラム集も生まれるなど、マルチクリエイターとして知られつつ、本心では何を考えているのか分からない、得体の知れない中年男を演じさせたら右に出る者はいない唯一無二の俳優でもある。

『さがす』(2022/U-NEXTほか配信中)の片山慎三監督は、第26回釜山国際映画祭のリモートQ&Aセッションにて、佐藤が演じた父親・原田智は当て書きだったことを明かし、「ユーモラスなイメージのある佐藤さんが二面性のあるお父さんを演じたら怖いのではないか、と思った。佐藤さんが普段やっていないようなキャラクターだからこそ、意外性が出て怖さが強調されるはず」と語ったことがある。

『はるヲうるひと』では売春の元締めである真柴哲雄という、分かりやすく真っ当ではない男を怪演。『あんのこと』(U-NEXT、Prime Videoほか配信中)では2つの顔を持つ刑事・多々羅保役が評価を集めた。

変人ではあるが、良心はちゃんとある『変な家』(Prime Videoほか配信中)のミステリー愛好家の設計士・栗原さんも記憶に新しい。

得体の知れない中年男としてはさらに、佐藤が原作・脚本・主演をつとめる『名無し』(2026年5月)で坊主頭の異能の男「山田太郎」にも扮する。

『名無し』© 佐藤二朗 永田諒 / ヒーローズ © 映画『名無し』FILM PARTNERS

かと思えば、幕末の英雄・西郷隆盛として、坂本龍馬役のムロツヨシと主演する『新解釈・幕末伝』(12月19日公開)で福田作品に復帰する。新解釈の西郷どんでは、どんな“爆弾”をぶっ放すことになるのだろうかーー?

☆佐藤二朗 プロフィール

1969年5月7日生まれ、愛知県出身

佐藤二朗/photo:You Ishii

主な出演作:映画『銀魂』『ザ・ファブル』シリーズ、『宮本から君へ』『アンダーニンジャ』ほか
ドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズ、「今日から俺は!!」シリーズ、「私たちがプロポーズされないのには101の理由があってだな」(兼監督・脚本)、「ひきこもり先生」、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」ほか

Leave A Reply