第38回東京国際映画祭(TIFF)が11月5日に閉幕し、TOHOシネマズ日比谷スクリーン12でクロージングセレモニーが開催。東京グランプリ/東京都知事賞はアンマリー・ジャシル監督作『パレスチナ36』が受賞し、『春の木』が最優秀監督賞(チャン・リュル監督)と最優秀男優賞(ワン・チュアンジュン)の2冠を達成。日本映画からは『恒星の向こう側』で主演の福地桃子と河瀨直美が最優秀女優賞を、岩田剛典主演の『金髪』(11月21日公開)が観客賞を受賞した。
リモートで喜びを語った『パレスチナ36』のアンマリー・ジャシル監督[c]2025 TIFF
『パレスチナ36』は、1936年の英国委任統治時代のパレスチナを舞台に、パレスチナのアラブ人たちがユダヤ人入植者たちと、英国植民地支配への反発から起こした民族主義的な反乱を描く意欲作。東京グランプリ/東京都知事賞に輝いたジャシル監督は「私たちの映画をこの賞に選んでくださり、本当に光栄です。チームにとっても私自身にとっても、この作品の制作に懸命に力を尽くしてきたすべての人たちにとって、大きな意味を持つものです。ありがとうございます」と喜びを語った。
『パレスチナ36』を称えたカルロ・シャトリアン審査委員長[c]2025 TIFF
カルロ・シャトリアン審査委員長は、本作について「生きている映画を映画祭で観ることで、映画というものの幅が、いかに広いものであるかということと向き合った作品。画一化している世の中において、多様性を大切にしています。この仕事は難しかったけどが、多様性を尊重した。様々な経歴、好みは異なるが、すべての決定は合意の結果で、満場一致にて賞を贈呈します」と称えた。
小池百合子東京都知事が東京国際映画祭の意義を語る
麒麟像を授与した小池東京都知事は「世界中の才能が東京に集って、映画という芸術を通じて新たな物語が紡がれていくことを大変嬉しく思っております。映画は言葉、文化の壁を超えることができます。心を繋ぐ力を持っている大変パワフルなアートでございます。今年からアジア学生映画コンファレンスが新設されたということで、アジア各国の学生さんたちの挑戦がこのコンファレンスを通じて大きく広がることを心から期待を申し上げます。東京から発信される映画の魅力が人々に届くことを、そして東京国際映画祭が創造性と多様性に満ちた文化の祭典として今後もますます発展していくことを期待しております」と今後の展望についても語った。
最優秀男優賞受賞を受賞した『春の木』のワン・チュアンジュンと審査員のグイ・ルンメイ[c]2025 TIFF
最優秀男優賞受賞を受賞した『春の木』のワン・チュアンジュンは「このような賞をいただくとは夢にも思ってませんでした。中国映画が今年120周年を迎える年に受賞できたことで、歴史の一部になれました。私の母校の映画学校も80周年なので、素晴らしいギフトになりました」と感無量の様子。審査員のグイ・ルンメイは「演じる空間が限られているなか、繊細で説得力のある演技を見せてくれました」とコメント。
【写真を見る】最優秀女優賞受賞作は『恒星の向こう側』の福地桃子と河瀨直美!審査員の齊藤工も称える[c]2025 TIFF
最優秀女優賞受賞を受賞した『恒星の向こう側』の2人は、劇中でぶつかり合う親子役を熱演。福地は「歴史ある賞をいただけて光栄です。身の引き締まる思いです。主人公を演じるにあたって、人物を見つめて追いかけて溶け合っていくような作業は決して1人では乗り越えられる時間ではありませんでした。この経験を胸にこれからも1つ1つの作品に向き合っていきたいです」と、同じく同賞を受賞した映画監督でもある河瀨は「監督として、映画祭に参加したことはあっても俳優として参加できたのは中川監督のおかげです。チームの皆がいたからこそ、自分自身のすべてを出し切れました。福地さんには冷たい態度をとるなど、徹底した役作りをしていましたが、最後に彼女の温かさを背負えた瞬間、涙が出ました」とあふれる想いを口にした。
審査員の齊藤工は同作について「今年のコンペティション部門には力強く物語を牽引するヒロインたちが数多く登場しました。そのなかで、丁寧に静かに存在することに徹したおふたりの姿はひときわ印象的で際立っていました」と感想を述べた。
観客賞受賞作『金髪』の坂下雄一郎監督 [c]2025 TIFF
また、観客賞を受賞した『金髪』の坂下雄一郎監督は「広く観客のみなさんから認められたのは嬉しいです。今後も映画作りに励んでまたこの映画祭に戻ってこれるように努力します」と決意を新たにした。
最優秀監督賞は2作品同時受賞となり、『裏か表か?』のアレッシオ・リゴ・デ・リーギ監督、マッテオ・ゾッピス監督と、『春の木』のリュル監督が選出。審査員特別賞は『私たちは森の果実』が、最優秀芸術貢献賞は『マザー』が受賞した。
クロージング作品『ハムネット』のクロエ・ジャオ監督[c]2025 TIFF
クロージング作品は、クロエ・ジャオ監督の『ハムネット』が上映。ジャオ監督は「最初の4つの長編はなるべく遠くへ、広く世界のあらゆる水平線を追いかけてきましたが、『ハムネット』はより内なる風景に目を向けました。自分のなかに深く入り込むことをこの映画では目指しました。この映画を観て、ストーリーテリングを通じて、人間であるための矛盾を描いた。観客が感じたいことをそのまま感じてほしいです」と本作についてアピール。
受賞者たちが喜びを分かち合った[c]2025 TIFF
なお、第38回東京国際映画祭の10日間の動員数(速報値、11月5日は見込み動員数)は、上映動員数、上映作品本数が69,162人/184本、10日間 (第37回:61,576人、112.3%/209本、88.0%)、上映本作品における女性監督の比率(男女共同監督作品含む)23.4% (同じ監督による作品は作品の本数に関わらず1人としてカウント)、リアルイベント動員数の93,847人(昨年96,886人、96.9%)、ゲスト登壇イベント本数184件(昨年178件、103.4%)、海外ゲスト数2,557人(昨年2,721人、93.9%)となった。
『パレスチナ36』のワーディ・エイラブーニとコンペティション部門の審査委員たち[c]2025 TIFF
安藤裕康チェアマンは「世界中が分断と対立に悩まされているのが現況でございます。それでも国際映画祭というのは、国境を越え、考え方の違いを超えてお互いが向き合って対話を行い、そして共通の理解を深めあっていく場と思っております。おかげさまで今年も東京国際映画祭に2500人を超える外国からのゲストにお越しいただき、200本近い映画を上映し、多くのイベントを開催して、実りのある交流ができたと思います。その交流の中から新しい相互理解が生まれることを、そして友情が育つことを願っております」と語った。
さらに「日本で初めて上映されました『MISHIMA』が15分でチケットが完売になりました。お客様からぜひもう一度上映してほしいと事務局に要望が殺到しました。そこで特別追加上映ということで、11月8日、9日と2日間で1回ずつ上映をさせていただくことになりました。詳細は東京国際映画祭の公式サイトで発表いたしますので、ご覧になっていただきたいと思います。陰で支えてくれたすべてのスタッフに感謝を申し上げます」と締めくくった。
