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 とかく中東問題は分かりづらい。

 ユダヤ教とイスラム教の対立に加え、キリスト教が絡み合う。そこに2000年以上の歴史が乗っかり、戦前戦後の様々な政治的な思惑や妥協が加わる。さらには、ホロコースト(ユダヤ人の大量虐殺)を止められなかった反省もあり、イスラエルに対する、ドイツをはじめとする欧州やアメリカの後ろめたさが隠微に入り込む。

 イスラエル・ガザ戦争の情勢も、猫の目のように変わる。多くの日本人からすると匙を投げそうになる。しかし、この映画は、そんな複雑な中東情勢を理解するのにもってこいである。

 この映画は、1990年代にイスラエルの首相に就くベンヤミン・ネタニヤフと、その家族ぐるみの汚職事件を中軸に据える。その汚職を追及する裁判から逃れる手段が、ガザでの戦争につながっていると描く。

 ネタニヤフという1人の男の権力欲と腐敗が第三次世界大戦の瀬戸際まで導いた、という単純明快な筋立てのこの映画は、飲み込みやすい。

ネタニヤフ首相の実際の取り調べシーンが映画に

 映画の副題にある「汚職と戦争」という筋書きに望遠レンズを使ってピンポポイントで焦点を合わせるように作られている。原題は“The Bibi Files”で、日本語に訳すと「ビビの事件簿」。「ビビ」というのはネタニヤフの愛称だ。

 ネタニヤフが紫煙をくゆらす高級なキューバ産の葉巻や、妻のサラが愛飲する年代物のシャンパン、それにメディアの好意的な報道が、それぞれ見返りを伴ったネタニヤフ一家への賄賂とみなされ、数年にわたり取り調べが行われた結果、ネタニヤフ自身が2019年に起訴された。

ネタニヤフが愛してやまないキューバ産の葉巻(写真:Alex Levac HAARETZ)

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 その裁判が進行することを、全力で阻止するという構図の中に、イスラエル・ガザ戦争の新たな側面を知ることになる。

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