バイト仲間の何気ない会話にも何かありそう…あの人もこの人も同じセリフを…新聞記事も気になる…全員怪しい…「シマセゲラ」の正体は…?毎話“考察祭り”となっている話題のドラマプレミア23「シナントロープ」(毎週月曜夜11時06分)。緻密な伏線と巧みな会話劇でカルト的人気となったアニメ「オッドタクシー」脚本の此元和津也さんによる最新作「シナントロープ」について話を聞いた。「シナントロープ」誕生のきっかけは?

全てが伏線!?“考察祭り”で話題のドラマ「シナントロープ」原作・脚本:此元和津也インタビュー
――原作・脚本を手掛けられた「シナントロープ」、まずはドラマをご覧になってのご感想をお願いします。

「これまでは自作を、仕事として確認するものと捉えてきましたが、今回は視聴者として素直に楽しめました。理由は二つです。ひとつは執筆から時間が経ち、細部の記憶がほどよく薄れて、他人の作品のように新鮮に追えたこと。もうひとつは脚本で設計した呼吸や余白が、現場と編集で適切に解像され、役者さんの身体と言葉に自然に宿り、いわば解釈が自走していたことです。その結果、『次回が待ち遠しい』という感覚を自作でほぼ初めて味わえました」

全てが伏線!?“考察祭り”で話題のドラマ「シナントロープ」原作・脚本:此元和津也インタビュー
――本作の着想のきっかけ、いつ頃から構想があったのか、どんなことを描きたいのか、などを教えてください。

「出発点はコロナ禍です。距離と沈黙の意味が変わった時期に、『会話を急がない』『それでも都市で生き延びる』という二本柱が固まり、そこから会話中心の群像を積み上げました」

全てが伏線!?“考察祭り”で話題のドラマ「シナントロープ」原作・脚本:此元和津也インタビュー
――タイトルバックなどでも鳥がクローズアップされていますが、ご自身の“鳥”にまつわるエピソードが構想に関わっていたりするのですか?また、登場人物はハシビロコウなどの鳥に例えられていますが、キャラクター作りに鳥も関係していますか?

「鳥については、子どもの頃にテレビで観た映画で鳥が人の目を突くシーンがあり、しばらく公園の鳩が本気で怖かったこと。最近の記憶では、雨上がりの水たまりにスズメが顔を突っ込んでバシャバシャしているのが、びっくりするほど可愛かったこと。『怖い』と『愛おしい』が同居する感じはたしかに好きですが、本作の構想とは、たぶん関係ありません。

登場人物は、鳥のキャラ、距離の取り方を借りる感覚で設計しています。テンポ差だけで、人は別の生き物に見えます。生み方は単純で、〈場に置く → 沈黙を置く → 最初の一行〉です。その一行が次の分岐を生み、踏むか削るかを重ねるうちに関係が自走します。会話の文法は、それくらいがちょうどいいと思っています。この作品では役割を固定していません。回や相手によって『推進』と『制動』が入れ替わる設計です」

全てが伏線!?“考察祭り”で話題のドラマ「シナントロープ」原作・脚本:此元和津也インタビュー
――個人的に思い入れのあるキャラ、好きなキャラなどは?

「個人的に好きなのは久太郎(アフロ)です。久太郎は記憶力が悪いぶん、生物としてのシンプルな生存本能と防衛本能だけが際立ちます。都成(水上恒司)が瞬間記憶の『地図』なら、久太郎は生の『コンパス』。対になって立つ、いわば『裏の主人公』だと思っています」

全てが伏線!?“考察祭り”で話題のドラマ「シナントロープ」原作・脚本:此元和津也インタビュー
――「シナントロープ」を辞書で調べると“人間社会の近くに生息し、人間や人工物の恩恵を受けて共生する野生の動植物”とのこと。タイトルと店名を「シナントロープ」にした理由や、タイトルに込めた意味は?また、舞台がハンバーガーショップであることにも理由があるのですか?

「タイトルに込めたのは、逞しさ(図々しさ)と戸惑い(弱さ)が同居したまま生きることへの肯定です。正しさで切り分けず、距離感や呼吸のズレごと受け止める。都市で生きると、誰もが少し“シナントロープ化”する瞬間があるはずで、登場人物はその揺れの中で選び続けます。要するに、人に寄り添って生きるのは動植物だけではなく、僕らもそうかもしれない。その思いをタイトルと店名に重ねました。

バーガーショップにした理由は、なんとなくとしか言いようがないけど、後付けでいうとたまたま入った個人経営の店のスタッフが髪色も服装もバラバラ、でも接客は風通しがいい。ここなら人がそのままでいられる気がしたからです」

創作の原点と原動力

全てが伏線!?“考察祭り”で話題のドラマ「シナントロープ」原作・脚本:此元和津也インタビュー
――静かな漫才のような「セトウツミ」、カルト的人気の「オッドタクシー」など会話劇の名手であり、芸人さんのコントライブも手掛けていらっしゃいます。ご自身の笑いのセンス、物語・キャラクター作りなど創作の原点となったものや、影響を受けたものはありますか?

「対話だと思います。直接でもいいし、盗み聞きでもいい。言い間違い、言い直し、沈黙の一拍。その偶発性にだけ本音が乗る瞬間がある。視線が外れる角度、手が止まる一瞬、相槌の速度で空気が転ぶ。そこで必要なのは瞬発力と反射神経。その場の反応が関係を動かしていく。そのライブ感、ズレと間の手触りが物語の芯になっている気がします。

それと、だいぶ年上のいとこ経由でいろんなカルチャーを教わりました。具体的な作品名というより、最新と古典が一緒に届く感じや、わからないまま面白がる“ちょっと早い入り口”その混ざりものに触れた経験の影響が大きかったです」

全てが伏線!?“考察祭り”で話題のドラマ「シナントロープ」原作・脚本:此元和津也インタビュー
――以前のインタビューで、創作の原動力は「とにかく人間が好き」とおっしゃっていました。活躍の場がさらに広がった今もですか?

「人間が好きというより、正確には人間という現象が好きです。弱さも、誤魔化しも、欺瞞も、見栄も、沈黙も含めて。イラつく人間はいても、変わってほしいとは思わない。そう在ること自体に、面白さと痛さが同居しているから。

しかもそれらは鏡で、自分の中にも同じものがあると自覚するほど、より奥へ潜っていける。温度を測って、配置する。距離の取り方や呼吸の長さ、言葉の順番だけで関係がわずかにズレていく。その揺れを記録したい。小さな工夫で生き延びている姿を、できるだけ肯定したいです」

全てが伏線!?“考察祭り”で話題のドラマ「シナントロープ」原作・脚本:此元和津也インタビュー
――今後、題材にしたいもの、描いてみたいものはありますか?

「次は、まっすぐなやつを描きたいです。これまではわりと構造に感情を載せて組み上げてきましたが、次は逆で、感情一本で突き進む一筆書きのような。伏線は敷かないし、回収もしない。呼吸と衝動だけ」

――SNSやYouTubeなどで「これは伏線じゃないか?」と考察も盛り上がっています。ここまでの物語の中での重要なシーンや、後半のここに注目すると楽しめるというポイントはありますか?

「40分ぐらい考えましたが何も思いつきませんでした。4話まで観たならもう最後まで観てください」

視聴者の皆様が“考察祭り”で盛り上がっている中、ご本人に核心をことをうかがうのは野暮…ということで、このインタビューでは謎は謎のままで。後半も考察しながら楽しんで!

全てが伏線!?“考察祭り”で話題のドラマ「シナントロープ」原作・脚本:此元和津也インタビュー
今夜放送、ドラマプレミア23「シナントロープ」(毎週月曜夜11時06分)第5話は?

第5話「空を飛べたらいいのに」
塚田(高橋侃)のライブ当日。都成(水上恒司)がシナントロープに入ると、帳簿を広げてうたた寝している水町(山田杏奈)の姿があった。どうやら家に帰らず、大学にも行けていないらしい。都成は水町をランチに誘うべく、志沢(萩原護)のメモを頼りに会話を盛り上げようとするが、うまくいかない。逆に志沢を使って自分の周りを嗅ぎ回っていることを水町に見抜かれ、「訊きたいことがあれば直接訊けばいいじゃん」と非難されてしまう。

全てが伏線!?“考察祭り”で話題のドラマ「シナントロープ」原作・脚本:此元和津也インタビュー
「もっと細部まで見ておけばよかった…もう一度見たい…」と思いつつも、主人公・都成のような瞬間記憶能力がない方は、こちら!「TVer」、「ネットもテレ東」で第1話&最新話を無料配信。さらに、「TVer」での第1話再生回数100万回突破して、YouTube「テレ東公式 ドラマチャンネル」にて第1話を無料配信。

【プロフィール】
此元和津也(このもと・かづや)
漫画家、脚本家。映画化、ドラマ化もされた漫画「セトウツミ」(原作・作画)、社会現象となったアニメ「オッドタクシー」シリーズ(脚本)など、漫画・実写・ドラマの垣根を超え活躍。原作・脚本を手掛ける映画「ホウセンカ」が公開中。ヤングジャンプにて漫画「カミキル-KAMI KILL-」(原作)連載中。
X:@kazuyakonomoto

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