笠松将
『TOKYO VICE』©HBO Max / Eros Hoagland ©HBO Max / James Lisle
笠松将が英語の芝居で評価を得るきっかけとなったのが、HBO MaxとWOWOWによる日米合作ドラマ『TOKYO VICE』だ。実在の記者のノンフィクションを原作とした同作は、東京の裏社会とジャーナリズムを描く重厚な犯罪ドラマで、主要キャストの多くが英語と日本語を行き来するバイリンガル設計の作品としても話題になった。
『TOKYO VICE』©HBO Max / Eros Hoagland ©HBO Max / James Lisle
笠松が演じたのは、国際都市・東京の裏社会で生きる若者の佐藤。普段は英語が話せないと語っていた笠松だったが、あまりにも自然に馴染んでいて驚いたのを覚えている。笠松の英語は、勉強して身につけたというよりも役の環境と一緒に体に入ってきたかのように自然なのだ。上手さの見せ方で勝負するのではなく、画面の中でその世界に暮らしている人として呼吸している。観ている側は英語を聞いてから理解するのではなく、この人物は普段からこう話しているという感覚で捉えてしまう。それだけ役との距離が近く、言葉より先に存在そのものに説得力が出ているのだ。

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本作をきっかけに「海外の製作陣から興味を持ってもらえた」と語っているように(※1)、笠松にとって英語は可能性を広げることになった。今後はアジア作品だけでなく、ヨーロッパ系の硬派なドラマや、静かな人間ドラマでも起用される可能性もあるだろう。表現のフィールドが世界へとゆっくり広がっていく、その入り口に立っている俳優といえる。
吉沢亮
『ばけばけ』写真提供=NHK
吉沢亮が英語の芝居で存在感を示したのは、海外作品ではなく、NHK連続テレビ小説『ばけばけ』だった。演じたのは英語教師・錦織友一。朝ドラは全年齢の視聴者が観るため、役として成立させるにはわかりやすく、正確で嘘のない英語が求められる。これは、単にセリフを読めば済む役ではなく、「この人に教われば上達しそうだ」と思えるだけの説得力が必要な難役である。
『ばけばけ』写真提供=NHK
吉沢はこの役に備える形で、徹底した準備を積み重ねた。制作統括が「移動の車内でもずっと練習していた」と明かしたように、撮影に入る前も入ってからも、空き時間すべてを注ぎ込むように発声とリズムを身体に馴染ませていったという(※2)。実際に第5週「ワタシ、ヘブン。マツエ、モ、ヘブン。」から本格的に登場したわけだが、まさにその努力がにじみ出ていた。発音の綺麗さや流暢さだけでなく、この人は英語を自分の言葉として扱っているという安心感があった。しかもそれは上手さを見せる方向ではなく、自然体で届く英語として成立していたことに驚かされる。これから登場シーンも多くなっていくだけに、吉沢の流暢な英語を聞けるのが楽しみだし、何より国際作品への出演へとつながっていく可能性も秘めている。
彼らの挑戦が示しているのは、英語が特別な付加価値ではなく、より大きな役柄を担うための入口になり始めているという事実だ。英語を話せるから配役されるのではなく、表現の選択肢が増えた結果として、国際作品にも手が届くようになっている。日本の俳優が世界の作品に当たり前に出演する存在として定着していく未来が、すでに目の前まで来ている。
参照
※1.https://www.iibc-global.org/iibc/activity/iibc_newsletter/nl154_career_01.html
※2.https://realsound.jp/movie/2025/10/post-2204176.html
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK
川崎龍也
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音楽を中心に幅広く執筆しているフリーライター。YouTubeを観ることが日課です。
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