開催中の第38回東京国際映画祭にて公式プログラムのTIFFスペシャルトークセッション、ケリング「ウーマン・イン・モーション」トークが開催され、高畑充希、中島健人、キャスティング・ディレクターのデブラ・ゼイン、プロデューサーの福間美由紀が登壇。トークセッション前には、是枝裕和監督がオープニングスピーチを行った。
【写真を見る】自身のキャリアや働き方への”変化”を考え始める時期だと語った高畑充希
文化、芸術の世界で活躍する女性に光をあてる「ウーマン・イン・モーション」は、グッチ、サンローランなどのブランドを擁するグローバル・ラグジュリー・グループのケリングがオフィシャルパートナーを務めるカンヌ国際映画祭ににて2015年に立ち上げた取り組みで、今年創設10周年を迎える。東京国際映画祭公式プログラムとしては今年5回目の開催となる。トークセッション前には、伝説的なキャスング・ディレクターのマリオン・ドハティのキャリアを通じて、その職務の重要性と歴史的背景を紹介する映画『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』(12)を特別上映。トークセッションでは「映画業界のキャスティング」についても意見交換をした。
オープニングスピーチを行った是枝裕和監督
オープニングスピーチで是枝監督は、「ウーマン・イン・モーション」との出会いついて「初めて出会ったのは数年前。ケリング取材のイベントがあると聞いて、初めて出会いました。結構ショックを受けて、感動して。こういう取り組みが日本でできてもいいのに…と思った」と振り返った。「現場にいる映画の監督は視野が狭い」と話した是枝監督は「現場、放送局、映画会社、そしてせいぜい出版社との間、とても狭い視野の中で映画を作っています。映画(業界)の外と接触することもない。とても世界が狭くなっていくという危機感を感じています」と正直な想いを明かす。続けて「自分が取り組んでいる仕事になにが欠けているのか、改善ポイントを見つけ、自分の現場から変えていこうというスタンスで来ています」と「ウーマン・イン・モーション」に関わる理由も説明。
現在も映画撮影中だそうで「20年くらい前なら、現場に子どもを連れてくるなんて…という感覚があった。でも、そういう意識は急激に変わってきています。プロデューサーの理解はもちろん必要だし、土日に子どもを連れて来られる保育の仕組みも(現場で)作っている」と、変化と現状に触れた是枝監督。現場で子どもたちとお昼ご飯を食べたりすることで「和むんです!」と語った是枝監督は「そういう一つの変化が、作品の質を変えていくことを経験している」と自身の経験談を明かし、この日のイベントや、現場での変化を実感することを通して、自分の意識改革にもつなげていきたいとも話していた。
働きにくさを感じたことはこれまでにはないと明かした高畑充希
これまで、女性ということで働きにくさを感じたことはないと話した高畑は「子育てをしたり、この先いろいろな課題が立ちはだかるなかで、試行錯誤したりすることが仕事場において出てくるんじゃないかという気がしています」とし、自身のキャリアや働き方に訪れるであろう変化を考え始める「いいきっかけになるような場所に呼んでいただけてうれしいです」とイベント参加に対しての思いを語る。
「COVID以前以後で取り組み方、環境が変わっている気がする」と実感に触れた中島は、映画の現場で女性を取り巻く環境の変化をどのように捉えているのかという質問には、「インティマシー・コーディネーターが入ったり、ファミリー・デイがあったり、現場にお子さんを連れてきたり。進化し続けている最中」と感じていると明かす。続けて中島は「僕は元々男性として、共存共栄をポイントにしてきたので、女性がさらに力を出して、映画作りに尽力していくのか。僕らの世代の観点で関われればいいなと思います」と意見を述べた上で、「時代の変容の真っ只中にいる」と自身の置かれている環境にも触れていた。
「時代の変容の真っ只中にいる」と語った
イベントではハリウッドで活躍するゼインに高畑がLGBTQなどの役について「当事者がやってリアリティを追求したいですか?」と質問する場面も。ゼインは当事者がやるべき場面もあるとしたうえで、「一番うまい俳優がやるべき!」と笑顔で持論を述べた。フランス、韓国で映画作りの経験したプロデューサーの福間は「フランスでの撮影での撮影は1日8時間。土日はしっかり休みます。それは映画だけでなく社会全体がそういうスタイル。カルチャーショックでした」と振り返り、国の社会保障などにもかかわることとしたうえで、「出産後も断絶せずに仕事が続けられる環境ができれば」と願いを語った上で、「価値観の変化をうれしく思う」とも付け加えていた。
キャスティング・ディレクターのデブラ・ゼイン
自分自身が当事者として転換期を迎えていくなかで、「もうちょっとこうだったらいいなと思ったことは我慢せずに、『この提案はどうですか?』と口に出していきたいです」と笑顔を見せ、「働きやすい環境にするための一つの部品になれたら」と自身の役割に言及。中島は「ちょっとした変化がより映画業界が充実していくきっかけになると思います。それに少しずつ気づき始めているのかなと思っています。その時代の真ん中に生きている我々としては、より推進していきたいなと、一人の映画人としては考えています」と自身の向き合い方をハッキリと語り、「少しずつ尽力していけたらいいなと思っています」と話していた。
フランスでのカルチャーショックを振り返った
第38回東京国際映画祭は11月5日まで開催。
取材・文/タナカシノブ
