MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説「ピンキー☆キャッチ」を連載中。第43回は突如、謎の男が現れるが…。

ピンキー☆キャッチ 第43回 宇宙人

床に座り込んだまま都築は動けなかった。ここはどこで、彼が誰で、何が起こっているのか。打ちつけた腰が酷く痛むはずが、それも気にならない程にパニックに陥っていた。

「水を用いてトリックを見破り、電流の仕掛けをショートさせた!お見事でしたぁ!!」

男は都築に語りかけながらも、どこか他の誰かの目線を意識しているかのように大袈裟なジェスチャー付きで話し続けた。

「あの・・あなたは・・誰ですか?ここは何処なんでしょうか?」
「誰ですかと!?確かに!!何度も何度もニアミスはしていたのですが、こうして直接お目にかかるのは初めてでした!しかし!!わたくし名前というものは持ち合わせておりません!個々の識別は地球上で言うところの音波の様なもので成されておりますので!!」
「・・ニアミス?・・識別?」
「あなた方の様に声、もとい音に出してそれを聞かなければ情報の伝達がなされないのは非常に原始的なのですよ。古い古い歴史を辿れば、私達の文化もそうだったのですがね!」
「? 言ってることがよく分からないのですが・・」
「ジャジャジャーン!!宇宙人です!!私は宇宙人なのですよ!!あなた方が大好きな!!しかし『宇宙人』って不思議な言葉ですよね、あなた方だって宇宙人であるのにっっ!!」

男は両手を広げてポーズを決めると、後ろを向いたまましばらく動かなかった。

「あの・・・質問を変えます。ここは何処なんでしょう?」

ニヤリと笑った男はポーズを解くと、指をパチンと鳴らした。窓の外が暗くなったかと思うと、無機質な灰色の空間に病室のセットがポツンと作られていることが分かった。

「ここはですねぇ、あなた達で言うところの、移動手段の、飛行機のような物。ええと、んん・・・失礼、宇宙船!そう、我々の宇宙船ですよ!!この国の言葉は特に難しい!!まずは説明の前にこちらをご覧いただきましょう」

男が右手をスッと差し出すと、何も無い空間にスクリーンのように映像が浮かび上がった。見慣れた東京の街の喧騒が流れたかと思うと、行き交う人々が慌てふためき始めた。よくよく映像を見て都築はハッとした。怪人だ。かつて倒した怪人が街中に現れた場面だ。しばらくするとピンキーが現れ、討伐を始めた。後方には通行人に避難を促しながら戦闘の指示を出す都築の姿も映っている。映像は切り替わり、また別の怪人討伐の映像が流れた。それだけではない。苦戦するメンバーの表情や逃げ惑う人々、遠巻きに吠える犬までもが、詳細に収められている。映像が切り替わる。どこか広い倉庫のようで、木箱が積まれている。赤いレーザーのようなものが照射されると、その空間が切り取られたかのように木箱が消えた。映像は続いた。都築がスーツ姿でテレビ局のスタジオで右往左往している。ニュース番組のジャパンワイドに出る予定が、急遽差し替えられた時の映像だ。しかしオンエアも無かったのになぜこんな物が残されているのか。次に防衛省でのあれこれ、物議を醸した例の異形の怪物も、様々な角度で映像に収められていた。男は楽しげにそれらの映像を眺めており、性器型怪物に戸惑う防衛省職員がアップになると、体をくの字にして大笑いした。

「これは・・・どういう事なんだ!?」
「ああこれは失礼!全てに見覚えがおありでしょう!私共はあなた達地球の、もとい日本国の、非常に優れた素晴らしいエンターテインメントの手法を拝借したのです!」
「・・・・エンターテイメント?」
「ええ!あなた達地球人が宇宙に誇るべき優れた文化、ドッキリ番組ですよ!!」

(つづく)

文/平子祐希

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