「2万5000円のチケットが即完」と聞くと、海外の大物アーティストの来日公演を思い浮かべるかもしれない。しかし、それが演劇だとしたら? それも出演者が誰一人発表されていない時点だとしたら? そんなことがあり得るのかと驚くだろう。

そんなミラクルを実現しているのが、人気舞台企画「いきなり本読み!」だ。

第一線で活躍する俳優たちが演目を事前に知らされないまま舞台上で台本を渡され、初見のまま観客の前で本読みをする本企画。配役もシーンごとにコロコロ変わり、「セリフをラップ調で言ってください」といった無茶な演出までされてしまう。

極限状態で俳優としての真価が問われるような企画にもかかわらず、神木隆之介、岸井ゆきの、水川あさみ、松たか子、仲野太賀、ムロツヨシ、小泉今日子(出演順)などの豪華な俳優陣や、ハリセンボンの近藤春菜やココリコの田中直樹などの人気芸人も出演しているのがまた驚きだ。

2025年5月開催の「いきなり本読み! in 三越劇場」の様子。左から、岩井秀人さん、加藤雅也さん、桜井玲香さん、中川晃教さん、どぶろっくの江口直人さん/撮影:平岩享イメージギャラリーで見る

冒頭の2万5000円は、今年5月に三越劇場で開催された際の「お前も本読みシート」のチケット代(金額は回によって異なる)。このシートを購入した観客たちは客席から俳優たちとの本読みに一部参加できる。大好きな俳優が出演しているとなればわかるが、まだ誰が出るかわからない状態でも購入する人たちがいるのだ。この企画自体に、熱烈なファンがいるということだろう。

『いきなり本読み!』はいかにして生まれたのか。企画・進行・演出を手掛ける演出家の岩井秀人さんに話を聞いた。

岩井秀人さん/撮影:平岩享イメージギャラリーで見る

岩井秀人(いわい ひでと)プロフィール  
2003年劇団「ハイバイ」結成。2012年NHK BSドラマ「生むと生まれるそれからのこと」で第30回向田邦子賞、2013年舞台「ある女」で第57回岸田國士戯曲賞受賞。近年では自身の経験を演劇化する企画「ワレワレのモロモロ」を全国で展開。2020年から「いきなり本読み!」を開始。以降、年に5回ほどのペースで開催。

きっかけは神木隆之介

――「いきなり本読み!」の企画はコロナ禍の2019年末に立ち上がったそうですが、本企画をやろうと思われたきっかけは?

岩井:きっかけは、2019年に松尾スズキさん(作・演出の大人計画)の舞台『キレイ‐神様と待ち合わせした女‐(再再再演)』への出演です。兄弟役だった神木(隆之介)くんと稽古のときも本番のときも2人でいることが多くて。で、松尾さんの舞台なので、皆川猿時さんや阿部サダヲさん、松尾さんご自身も出るし、稽古場がむちゃくちゃ面白かったんですね。

もちろん、本番も面白かったんですけど、稽古場で神木くんと僕が初めて2人で何かを試したときに、異常に面白くて。本番でもそれを繰り返し演じたわけですが、繰り返していくと演じる側としては新鮮さがなくなっていく。そのときに、たぶん神木くんは初舞台だったと思うんですけど、稽古場のほうが楽しかったねって話をよくしていて。

まあ、あれはモノが生み出される瞬間だからね、なんてことを僕が言ったら、「なんとかあれをお客さんに見せられないのかな」と神木くんがポツリと言ったんです。「実際にやったら面白いと思うよ!」と僕が乗ると、神木くんが「岩井さんがやるなら出たい!」って。「あなたが出たいっていうならやれるよ、たぶん」なんてやりとりを2019年の年末にしていたら、年明けに舞台の千秋楽をやった次の日に、舞台に出演していた神木くんと皆川さんの他、今井隆文さん、岸井ゆきのさん、後藤剛範さんと「いきなり本読み!」の初回をやることになったんです。

素の表情を見せる神木隆之介さん/撮影:平岩享イメージギャラリーで見る

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