『エクソシスト』(1973)写真/Collection Christophel/アフロ

(田村 惠:脚本家)

洋画、邦画を問わず今日まで7000本以上、現在でも年間100〜150本の映画を観ているという、映画を知り尽くしている田村惠氏。誰もが知っている名作映画について、ベテラン脚本家ならではの深読みを紹介する連載です。

ホラー映画の5つのカテゴリー

 ホラー映画といえば、1960年代以前はドラキュラやフランケンシュタイン、或いはエドガー・アラン・ポーの怪奇小説を元にした、サイレント期から続く定番ものが多数を占めていた。しかし、70年代に入って、このマンネリズムをぶち壊す衝撃的な作品が登場する。『エクソシスト』である。

 この作品は、悪魔に取り憑かれた少女の恐ろしい変貌ぶりや、彼女に襲いかかる超常現象を見どころとしているが、それ以上にアメリカの観客を震えあがらせたのは、神を冒瀆する邪悪で卑猥な言葉が少女の口をついて出るということであった。

 つまり、この映画は、それまでタブー視されて誰も触れることがなかったモラルの一線を越えたのである。そして、これが契機となって、まるで封印を解かれたように、よりリアルで新しいホラー映画が続々と誕生することになる。70年代に創られたそれらの作品は、現在のホラー映画の皺型とも言えるもので、大別すると5つのカテゴリーに分かれる。

①『エクソシスト』(1973年、ウィリアム・フリードキン監督)を原型とする悪魔もの。

②『ヘルハウス』(1973年、ジョン・ハフ監督)を原型とする悪霊もの。

③『ゾンビ』(1978年、ジョージA.ロメロ監督)を原型とする死霊もの。

④『悪魔のいけにえ』(1974年、トビー・フーパー監督)を原型とする殺人鬼もの。

⑤ドラキュラから進化した吸血鬼もの

①悪魔もの——この分野で大ヒットした最初の映画は『ローズマリーの赤ちゃん』(1968年、ロマン・ポランスキー監督)である。しかし、この作品は、悪魔の子を身籠って精神を病む母親の方に焦点が当てられていて、悪魔そのものを恐ろしく描いているわけではない。後のホラー映画への影響という点では、悪魔の子・ダミアンが数々の災厄をもたらす『オーメン』(1976年、リチャード・ドナー監督)が、『エクソシスト』と双璧であると言える。

 ちなみに、1961年のポーランド映画で、僧院に派遣された修道士が尼僧に取り憑いた悪魔と対決する『尼僧ヨアンナ』(イェジー・カワレロヴィッチ監督)という作品がある。これが、エクソシスト(悪魔祓い)を登場させた最初の映画と思われる。但し、これはホラーではない。カンヌ映画祭で審査員特別賞を受賞した異色作で、一見の価値がある。

②悪霊もの——1960年代以前で、この分野の名作と言えるのは、女家庭教師が教え子の兄妹に取り憑いた悪霊と闘う『回転』(1961年、ジャック・クレイトン監督)ぐらいである。ほかには、心霊研究の学者と助手が幽霊屋敷で恐怖に見舞われる『たたり』(1963年、ロバート・ワイズ監督)があるが、これらの作品では、主として心理的な恐怖をあおる手法が取られている。

 これに対して『ヘルハウス』は、ストーリーこそ『たたり』と同様で、心霊学者と霊媒のチームが幽霊屋敷を調査するというものであるが、そこで彼らが遭遇する心霊現象をすべて映像化して見せたという点で画期的であった。また、心霊現象を科学で解明しようとする切り口にも新しさがあった。この系譜に直結する作品としては、『ポルターガイスト』(1982年、トビー・フーパ一監督)や、『死霊館』(2013年、ジェームズ・ワン監督)等がある。

Leave A Reply