
2階ビジネス書売り場の平台に前著と並べて平積みで展示する(三省堂書店有楽町店)
本はリスキリングの手がかりになる。NIKKEIリスキリングでは、ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチし、本探し・本選びの材料を提供していく。
今回は、2〜3カ月に一度訪れている準定点観測書店の三省堂書店有楽町店だ。ビジネス書の売れゆきは年末に向けて専門書や実務書の買い替え需要が伸びて、売り上げに厚みが出てきたという。そんな中、書店員が注目するのは、言語化をテーマにしたビジネス書を相次いで刊行してきたコピーライターによる言語化のトレーニング本だった。
具体と抽象を行き来する思考フレームを活用
その本は荒木俊哉『頭の中がどんどん言葉になる 瞬間言語化トレーニング』(SBクリエイティブ)。荒木氏は電通のコピーライターで、数々のブランディングプロジェクトに携わり、海外を含め様々なアワードの受賞歴もある。最近は言語化をめぐって、『瞬時に「言語化できる人」が、うまくいく。』『こうやって頭のなかを言語化する。』というビジネス書を執筆し、言語化の第一人者といった存在になっている。
その荒木氏が3冊目の言語化本として送り出したのが本書だ。これまでの2つの本でも、著者は誰でも簡単に実践できる言語化トレーニングを紹介してきた。ある問いに対して、制限時間を設けて自分の頭の中のモヤモヤを書き出していくというメソッドだ。
これをもっと仕事に生かせる丁寧なメソッドにできないか。そう考えて著者は言語化できない悩みを3つのプロセスに整理した。言いたいことが「思いつかない」「まとまらない」「伝わらない」の3つだ。この各プロセスに対応した思考問題を解くことで言語化力を鍛える。そんな構想から本書が生まれた。
問題は全部で108問。具体と抽象を行き来する思考フレームを活用した「問い」になっており、短時間で考えを具体化したり抽象化したりといった思考訓練が課せられる。かなり歯応えのあるドリル形式のトレーニング本だ。
「Why so?」を5回繰り返す
まずは「思いつかない」を解消するトレーニング。①瞬時に「Why so?」を5回繰り返す②瞬時に「So What?」を5回繰り返す③瞬時に「5W1Hを明確にする」――という3つのトレーニングが12問ずつ用意されている。①は例えば、「チームが機能しないのはなぜ」「自分の意見を言うのが怖いのはなぜ」といった質問で、これを1分で5回問い直すことで考えを具体化することに慣れていくわけだ。
「まとまらない」を解消するトレーニングは①瞬時に「共通点を見つける」②瞬時に「人の意見をまとめる」③瞬時に「自分の意見をまとめる」――の3つで各12問。「伝わらない」解消トレーニングは①瞬時に「抽象と具体をセットで伝える」②瞬時に「抽象と具体を繰り返して伝える」③瞬時に「抽象と具体を『たとえ話』で伝える」――の3つで、こちらもそれぞれ12問ある。
「共通点を見つける」問題は、「会議室」と「病院」の共通点は?などコピーライターらしい唐突な組み合わせの問題が並び、制限時間2分で10個の共通点を書き出す必要がある。いずれも右ページに問いと答えを書くスペースがあり、開くとその裏に著者による回答例がある。問題集のようなつくりで、制限時間こそ短いが、108問やり込めば相当の言語化体験を積むことになりそうだ。
「言語化の本はビジネス街では人気がある。入荷して間もないが、これから売れゆきが伸びていきそう」とビジネス書を担当する春田真吾さんは話す。
上位は息の長い売れ筋
それでは先週のランキングを見ていこう。
(1)コミュニティ経営の教科書高田優哉・黒田悠介著(翔泳社)(2)科学的に証明された すごい習慣大百科堀田秀吾著(SBクリエイティブ)(3)移動する人はうまくいく長倉顕太著(すばる舎)(4)道をひらく松下幸之助著(PHP研究所)(5)本を読む人はうまくいく長倉顕太著(すばる舎)
(三省堂書店有楽町店、2025年10月20~26日)
1位は、企業経営や事業におけるコミュニティーの重要性を論じた本。コミュニティーサイトを運営する企業の経営者とコミュニティー研究家が著者だ。2〜5位には息の長い売れ筋が並んだ。2位は、本欄7月の記事〈「すごい習慣」で仕事や人生を変える 科学的根拠に基づく小さなメソッドの大百科〉で紹介したスキル本。習慣化も言語化と並んで最近のビジネス書の人気テーマだ。
3位と5位は同じ著者による自己啓発書。それぞれ〈移動する人はうまくいく 行動を変え、人生を変えるアクションプランを提示〉〈本を読む人はうまくいく 「移動」の次に見つけた人生を成功に導く法則〉の記事で紹介した。4位は経営の神様によるロングセラー。同書店が入居する東京交通会館60周年を記念した同店限定のオリジナルブックカバーが付く。今回紹介した『頭の中がどんどん言葉になる 瞬間言語化トレーニング』はランク外だった。
(水柿武志)
