だから「過去最高益」ユニクロは成功し続ける…どん底の柳井正が心打たれた”伝説の経営指導者”の言葉
「店は店主とともに滅びる」の真意
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笹井 清範
商い未来研究所代表
2025年8月期、ファーストリテイリングは過去最高益を更新。なぜ、同社は絶えず好業績を続けることができるのか。元『商業界』編集長の笹井清範氏は「ユニクロが絶えず消費者の心を捉え、成長できる理由に、創業者・柳井正の『座右の銘』が関係している」という――。

撮影=大沢尚芳
「店は客のためにある」──理念が利益を生む
「私の座右の銘はこれ以外ない」――。
ファーストリテイリングの柳井正会長兼CEOは、幾度となく本社を移転してきたが、そのたびに執務室の壁に「店は客のためにあり 店員とともに栄え 店主とともに滅びる」という書を掲げてきた。墨筆によるこの「三行の経営理念」こそ、彼の原点である。
この言葉を唱えたのは、戦後日本の商業界を導き、ダイエー中内功、イオン岡田卓也など数々の経営者を育てた指導者・倉本長治。柳井がその言葉に出会ったのは、ユニクロ創業前の若き日だった。
地方の紳士服店に生まれた柳井は、大学卒業後にジャスコ(現イオン)へ入社するも1年足らずで退職。家業を継いだが、店の非効率さと社員の無気力に衝撃を受け、改革を断行した結果、従業員のほとんどが去ってしまう。
孤立した彼が救いを求めるように読みふけったのが、倉本が主筆を務めた雑誌『商業界』だった。そこで目にしたのが、「店は客のためにある」という一行だった。
「商売の原理原則はいつの時代も変わらない。それ以上のものはない」。柳井は後年こう語っている。「多くの経営者はこの当たり前の言葉を軽く見ているが、私はそうはなるまいと思った」。

撮影=大沢尚芳
世界3位のアパレルメーカーに
倉本の教えは、経営の判断基準を「顧客のためか否か」にまで落とし込む実践の哲学である。柳井も言う。「儲けようとしたら絶対に儲からない。儲けは全身全霊で人に喜んでいただく先にある」。この精神が、同社の理念「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」に結晶している。この理念は、数字としても成果を示した。2025年8月期、売上高3兆4005億円、営業利益5642億円と過去最高を更新。世界のアパレル製造小売業でもZARA、H&Mに次ぐ第3位に躍進した。理念が利益を生み出すことを証明したのである。
