廻る世界と多元宇宙——ループ、分岐、マルチバース
TVアニメ『グノーシア』ノンクレジットOPムービー|MAISONdes「化けの皮 feat. こぼ・かなえる, 重音テト, Giga & TeddyLoid」【10/11より毎週土曜24:00~放送】
TVアニメ『グノーシア』は宇宙船という閉鎖された環境で、人間を消滅させる「グノーシア」と呼ばれる存在を議論しながら見つけ出し排除するという、「人狼ゲーム」を模した作品となっている。第1話と第2話において示されたのは、本作の世界がゲーム版の『グノーシア』と同様にループし続けているということだ。事態が決着する(グノーシアを全員排除するか、グノーシアと人間が同数になる)と、再び世界は始点へと戻る。
注目すべきは、それぞれのループが細かく分岐し、変化していることだろう。「一度目」の世界ではSQが、「二度目」の世界ではジナがグノーシアになっていた。世界が巻き戻るたび、本作の世界は無数に分岐してゆく。こうした「ループ」のモチーフについて、ここでは少し考えてみたい。
ループ的想像力が生み出すリアリズム
		
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『グノーシア』にSF的な世界観が導入されていることはある種の必然であると言ってもよい。ロバート・A・ハインライン『夏への扉』を筆頭にタイムトラベルは古くからSFの分野でしばしば用いられてきた要素であり、時空間が巻き戻る本作も大別すればその流れにあるといえる。SFはしばしば科学的想像力を根拠に描かれ、ループというモチーフもその例に漏れない。ループがタイムトラベルとは異なるのは登場人物たちの行動によって絶えず世界が分岐していくこと、すなわち「複数の世界」が存在することを前提としていることだが、これは多くの場合「多世界解釈」という概念が基盤になっている。ヒュー・エヴェレットが提唱した「多世界解釈」は、波動関数が収縮せず常に複数の世界が存在し分岐してゆくことを指している(なお、かの有名な「シュレディンガーの猫」は観測者側の波動関数が考えられておらず、それを指摘したのがエヴェレットの「多世界解釈」である)が、ループと分岐が組み合わさる作品は、まさにそうした想像力とタイムトラベルが合わさることで生まれたといえるだろう。
ところで批評家・東浩紀は、日本のオタクカルチャーにおいてキャラクターのメタ物語性によって生じるリアリズムを、「ゲーム的リアリズム」という言葉によって論じた。東が指摘するのはキャラクターがメタ物語的であることによって新たに生じるリアリズムがあるということだったが、そこで俎上に載せられてきたのが「ループ」というモチーフである。『All You Need Is Kill』を通して彼が論じるのは、ゲーム的な経験(=繰り返される主人公の死がプレイヤーのなかに経験として蓄積されること)によって「一回性のある死」が解体されることだ。「死」の複数性といくつもの可能性のなかで一つを選び取ることの残酷さによって、逆説的に「死」の重要性が描かれるのだと東は論じている(※)。
実際のところ、日本のオタクカルチャーにおいて「ループ」というモチーフは、批評家が論じる程度には、多数登場してきた。東が例に挙げる美少女ゲームは、プレイヤーがさまざまなエンディングを視聴するためにプレイしなおし、異なる分岐を選択するという意味でメディアそのものがループ的な想像力を有しているが、それに限らずアニメにおいても「ループ」と「分岐」は採用されてきた。古くは『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』において文化祭の直前が延々とループし、『涼宮ハルヒの憂鬱』では8月17日から31日までが15,532回繰り返された。あるいは『STEINS;GATE』では「世界線」という言葉を用いながらタイムリープが幾度も行われる。このように、実に様々な作品で「ループ」のモチーフは取り入れられる。無論、現在再放送されている『魔法少女まどか☆マギカ』もその一つに数えられるだろう。本作ではまどかを救うために、ほむらが時を巻き戻し続けているのだった。
 
									 
					