
(C)Big Brother Recordings
全世界を熱狂の渦に巻き込んでいるOASISの再結成ツアー「Oasis Live ’25」が、イギリス、アイルランド、カナダ、アメリカ、メキシコ、韓国での29公演を終え、いよいよ30公演目にして日本に上陸。通算12度目、「FUJI ROCK FESTIVAL ’09」以来16年ぶりとなる来日公演のDAY1が、東京ドームにて10月25日に開催された。
去る7月4日にUKカーディフで行われた再結成ツアー初日公演のオフィシャル・レポートも担当した妹沢奈美による、東京ドーム初日公演のオフィシャル・ライヴ・レポートが到着した。
祝祭空間、ついに日本上陸だ。7月4日に英カーディフで幕を開けたOASISの再結成ワールド・ツアーが、とうとう日本にやってきた。10月25日、東京ドーム。数日前から東京は急に寒くなり上着が必要になっただけでなく、この日は冷たい雨がしとしと降っていた。ライヴの帰り道にSNSを開くと、傘を差しながら東京ドームの外でOASISのライヴを味わう大勢の皆さんの映像や写真が掲載されていた。今回は東京公演のみ、且つ抽選のため、それぞれの事情で来場できなかった人も多いだろう。そういう方たちに、ちゃんと本ライヴ評が届けばと願いながら書いている。OASISがOASIS自身を更新した非の打ち所のないライヴだったことが、伝わればと思う。
予定されていた18時30分ちょうど、今回の全てのツアーの幕開けに使われているスピードメーターの映像と、「This is not a drill」(これは訓練ではない)の文字が映し出される。ついに、その時が来た! SEとして使用される“Fuckin’ In The Bushes”が流れ始め、Gallagher兄弟が出てくるのはもうすぐ。海外のライヴの模様を観ていると、手を繋いで出てきて互いにハグをするのがこの3ヶ月半で定番になっているのが気になった。この日、筆者は幸いにもVIPチケットが取れかなり前方で観ている。つまり、私が最初にやることはただ1つ。その手繋ぎとハグの際に漂うGallagher兄弟の温度感の確認だ。
思えば、再結成が実際にスタートしてからこのかた、SNSや各国のライヴ・レポートをチェックしても、実際にライヴを観た人が否定的なコメントや文章を記載しているのを見たことがない。私もカーディフでのツアー初日と2日目を目撃し感動したが、あれから3ヶ月半も経っている。そもそも「Don’t Believe The Truth」というタイトルのアルバムをOASISは出している。「事実」、とされているものを信じるな――今のGallagher兄弟の気分とバンドの演奏と、この祝祭感がフェイクかどうか、我々の判断力が麻痺していないかは、東京公演で改めて自分自身の耳と目で確認したいと思っていた。
さぁ、会場からの拍手と歓声が最高潮になりLiam Gallagher(Vo)がステージに登場! 右手にマラカス、そして左手には兄 Noel Gallagher(Gt/Vo)の右手を繋いで高く掲げて歩いている。Noel自身は両手を上げ、その表情に目を移すと、笑顔だ。混じりっ気のない、純粋な喜びの笑顔。肉眼ではっきり目撃し、こちらまで嬉しくなる。そしてLiamはマラカスをパッと落とし、両手でアニキを抱きしめた。実感する――フェイクなんてとんでもない、見せかけの仲の良さでもない。このハグは、「よし、やるぞ」という兄弟たちの気合注入の儀式だ。この夜が素晴らしいものになる予感のみ、そこにはあった。
実際のところ、この日の会場の期待値はOASIS登場前から最高潮に高まっていた。何しろ、オープニング・アクトのASIAN KUNG-FU GENERATIONがとても良かった。重低音を丁寧に響かせつつギターや歌声が予想以上にきれいに聴こえる彼等の今のライヴ・サウンドに、東京ドームだろうと今回のOASISの出音はきっと大丈夫と安心させてもらった。
前に後藤正文(Vo/Gt)さんに、彼がいかにOASISと出会い人生が変わったか、の話を聞かせてもらったことがある。この日の彼のMCの「OASISと初めて出会って30年、名古屋でオープニング・アクトをしてから20年」や「どうか皆さんも素敵な夜にしてください、ありがとう」という言葉の温かさは、そこに嘘がないからだ。喜多建介(Gt/Vo)さんや伊地知潔(Dr)さん、山田貴洋(Ba/Vo)さんも全員が横並びのステージで、こちらが嬉しくなる程笑顔で楽しそうに演奏していた。大学で出会ったこの4人。原点回帰を思わせるすっきりした演奏と歌声は、会場の空気をこの時点でとても清々しいものにしてくれた。
アジカンからのステージ転換時、Paul ‘Bonehead’ Arthurs(Gt)のバストアップの写真が目を引いた。普段なら彼の定位置であるNoelとLiamの間の場所にちゃんといて、いつものように場を和ませてくれる。今回のAPACツアーへの欠席の理由として前立腺がんの治療中であることを公表したBonehead。快癒を祈りつつ、再結成という形でみんなで再び音を鳴らせた事実が、そもそも奇跡的なのだと改めて感じ入る。
さぁ、“Fuckin’ In The Bushes”でメンバーそれぞれが定位置に着いた。待ちに待った“Hello”だ。「Hello, hello (it’s good to be back, good to be back)」と歌われるたびに、ここ日本とOASISとの長く濃厚で楽しい歴史が際限なく脳裏に去来する。昔からのファンの皆さんは、きっと誰もが「おかえり!」と心の中で叫んでいたことだろう。曲が終わると、Liamは「アリガト!」と日本語で会場に呼び掛けた。そして“Acquiesce”の後には、Liamは食べていたタンバリンを優しく会場に投げ入れる。
そして「ここってマジでいい感じのドームだよな」と彼が語った後、ヘリコプターの音が流れてきてGem Archer(Gt)がおもむろに弾き始めたのは“Morning Glory”のイントロ! 一方で、この曲のギター・ソロやアウトロの部分はNoelが気持ち良さそうに演奏していた。5曲目は“Some Might Say”、Liamの歌声が絶好調だ。調子がいいことも影響してか、この曲でLiamは会場に向けて投げキッスをし、曲の終わりには片腕で心臓を叩きながら「アリガト!」と声を掛けるなど、ロックンロール・スター健在の堂々とした立ち居振る舞いがいい。
そうなのだ、この5曲目あたりで予感が確信に変わったのだが、なんとOASISのライヴ自体が私がカーディフで観た3ヶ月半前よりパワーアップしているのだ! さらに仕上がっている、という言葉のほうが正確かもしれない。カーディフで観た際、自分でも疑心暗鬼ながら「もしかしたらこれは私が人生で観た中で最もいいOASISライヴかもしれない」と感じた。現役時のOASISのライヴは、時に波があり(たいていLiamの気分と、それに伴うアニキのモードが理由)、プレイリストの精度が期待とは違う等、好きなライヴの記憶は数多くあるものの「これぞ完璧」と呼べるものはなかったように思う。
だが、今回の再結成ツアーはそもそもセットリストが最強だ。そのセットリストを固定してツアーを回り、取材を全く受けず、都市を移動する場合は十分に時間を取っている。その配慮こそ、今回の再結成ツアーを成功に導いた秘訣だ。つまり、同じセットリストでライヴを重ね、それぞれの土地に行くたび待っていた(もしくは初めて彼等のライヴを体験する)ファンの顔を目にすることで、プロ中のプロであるメンバーたちの演奏はより良くなっていくしかない。年齢を重ねると、若い頃とは注意力のあり方が違ってくる。一点集中で同じセットリストを続けるのは、本当に良い判断だったと思う。
一方で演奏者とは異なり、ライヴを重ねるごとに喉を酷使するのがヴォーカリスト。ソロ活動を始めてからは体調管理等にも気を使うようになったLiam Gallagherではあるものの、喉の調子がツアーを重ねてこれ程上り調子になっていくのは、まさしく管理の賜物だろう。また、続く“Bring It On Down”では改めて、Liamの歌う際の体勢がいかに完璧なものであるかに感銘を受けた。アニキが作った曲に、魂を込める声を発するための最高の姿勢。それゆえに、再結成ツアーのライヴ会場がどこも特別な空間になり、みんなが満足して帰っていく。
そして驚くことに、再結成OASISではLiamの存在感そのものがとても頼もしい。昔のOASISでも彼の予測不能なヤンチャさと不思議な虚無感は魅力であり、しかし場合によっては弱点にもなった。その後、BEADY EYEやソロで16年間バンドの中心としての責任を果たしてきた経験と、再結成OASISでは隣に兄がいる安心感とが双輪となって、Liamのフロントマン感が他に類を見ないものになった。
そもそも、今のLiamが醸し出す「絶対にこのライヴをいいものにする」という覚悟は、彼が野生の人であることを考えると、昔のOASIS時代にはあまりなかったように思う。一方で、予測不能な危うさもまた、彼を形作る素晴らしい要素としてちゃんと残っていることを東京ドームでしばしば目にした。例えばこの夜、マイクから離れて自分の喉のあたりを手で叩き、袖かどこかのスタッフに合図をする姿が2、3回見られた。音響の調子が悪いのか(そんなふうには感じなかったが)、他に気になることがあるのか(例えば今回のツアーで初のアリーナ座席の会場のため、人々が前方に押し寄せてきた他会場とは雰囲気が異なる)、Liamにしか分からない何かが起こっているようでドキドキした。また、アンコールのNoel編が終わった後にLiamがステージに出てくるまで少し時間が掛かった(このとき「お前、何やってたんだ」と言いながらアニキが会場にLiamを紹介するという素敵なハプニングも)。この、バンドも自分も破格の成長を遂げつつ、一方で今も予測不能なLiamのあり方こそが、再結成OASISを予定調和にしない大きな理由だろう。予定調和で予測できるOASISではなく、観ているとドキドキするOASIS。全世界の俺たちのキッズたちに、俺たちの名曲を届けにきたOASIS。素晴らしいライヴにならないわけがない。
同じセットリストを続けているからこその楽しさは他にもあった。例えば“Cigarettes & Alcohol”の開始時は全員が後ろを向いてポズナン(マンチェスター・シティのサポーターたちが後ろを向いて肩を組むお約束の儀式)をするのが初日からの常で、Liamも今回「椅子があるけど後ろ向いて肩を組んで」と呼び掛けた。私の右隣に1人で来ていた10代後半くらいの日本人男性は全てのライヴの流れを理解していたようで、左隣で少し戸惑っていた男性にも彼が声を掛けて一緒にポズナンができた。そう、こういう祝祭空間はみんなで楽しんだほうがいい。
また、“Live Forever”では普段は途中から亡くなった方の映像が流れることが多いが、25日の東京ドーム公演ではなし。一方で、「ここに来れない人たちに捧げる」というLiamの言葉でこの曲が始まったからこそ、日本の“Live Forever”は特別なものになったように思う。その土地ならではのこういう「違い」が、素敵な記憶として残っていく。
実際、今回の日本公演はOASISがやってくるまでの期待感が美しく積み上がっていった様子も記憶に残る。ことにOASISの公式ショップが開かれたMIYASHITA PARKは、他にもOASISに関連したショップ群や、2ndアルバム『(What’s The Story) Morning Glory?』のジャケット写真を模したフォト・スポット等があり、デジタル広告ではひっきりなしにOASISの映像が流れ、モール全体がOASISの聖地となった。SNSでは「#lookback25」企画をはじめ多くの人がOASISへの想いを綴り、彼等の来日への期待感がさらに高まった。また、事前に公式ショップ等でTシャツ等を購入できたことから、東京ドームに足を運んだほとんどの人々がなんらかのOASISグッズを身に着けていた。本当に美しかった。
来日の日程が発表された1年前から、誰もがOASISと共にあった自分の人生や、OASISを彼等不在の期間に発見したからこその期待感等を思い出すことで、OASISにまつわるそれぞれの物語が円環状になっていった。その想いがピークに達したのが、今回の東京ドーム公演だ。
Andy Bell(Ba)やGem Archerはすでに我々が知っている通りこの夜も素晴らしく、Liamのソロにも参加していたキーボードのChristian Madden、およびBonehead代役であるMike Mooreもごく自然に馴染んでいた。また今回のツアー・ドラマーのJoey Waronker(ATOMS FOR PEACE etc.)が曲に合わせて着実に、それでいて笑顔で力強く演奏している姿も印象的だった。何一つ損なわれていない音楽空間で、期待以上のLiamの歌声が響く。その結果、彼等の曲たちがまるで命そのものを祝福する音楽になっていく。
誰もが知っている“Whatever”、“Live Forever”、“Rock ‘N’ Roll Star”で本編が終わり、アンコールに入ると“The Masterplan”、“Don’t Look Back In Anger”、そして“Wonderwall”。よくぞこれ程の曲たちが生まれてきたなとつくづく思う。最後、まさしく祝祭感に満ちた“Champagne Supernova”でLiamは、右手にマラカス、左手にタンバリンでそれぞれを打ち鳴らしながらリズムを取っていた。そんなことをする人を見たことがない。しかも曲の後でLiamは、マラカスもタンバリンも同時に頭に乗せようと挑戦し始めた。感動した。私たちの予測をいつも超えていく、ロックンロール・スターはこの通り健在だ。
Liamは無事に2つの楽器を頭に乗せた後、両手を広げて観客を抱きしめるような仕草をした。そして頭に乗せたままNoelのほうに歩み寄っていき、途中で楽器は落ちたが気にせず兄にハグをした。絶対に終わってほしくないライヴが終わる瞬間が、これ程笑えて明るく楽しいとは。まごうことなくOASIS。さすがOASIS。この夜ずっと、OASISはあの頃の自分たちを自分たち自身で更新し続けた。本当に凄まじいバンドである。
TEXT:妹沢奈美









(C)Big Brother Recordings
▼リリース情報
OASIS
25周年記念限盤
『Familiar To Millions』
11月14日(金)リリース
7256375:L
7256374:L
デラックス・エディション
『(What’s The Story) Morning Glory? (30th Anniversary Deluxe Edition)』
NOW ON SALE
■CD
6937306:L
6925192:L
■LP
6937312:L
6925193:L
▼上映情報
『『オアシス|ネブワース1996:DAY2 Sunday 11th August』4Kデジタルリマスター版』
各地で絶賛公開中
英題:「oasis KNEBWORTH 1996:DAY2 Sunday 11th August」
監督:ディック・カラザース
制作年:2021年
制作国:イギリス
(C) Big Brother Recordings Ltd
配給:カルチャヴィル
協力:ソニー・ミュージックレーベルズ
▼書籍情報
Jill Furmanovsky / Noel Gallagher
写真集
「Oasis:TRYING TO FIND A WAY OUT OF NOWHERE」
6894777:L
▼Liam Gallagher 上映情報
『リアム・ギャラガー:ライブ・アット・ネブワース 2022』
10月17日(金)より絶賛公開中!
原題:「Liam Gallagher – Live at Knebworth 22」
上映時間:80分
監督:トビー・L
出演:Liam Gallagher
製作年:2025年
制作国:イギリス
配給:WOWOW
上映料金:2,500円 ※シアターや座席によって追加料金がかかる場合がございます。

